第5話 能力の確認

「これで世界中のどこでも見ることができるわ」


 うわぁ……本当に凄いな。これが現実だという実感が少しずつ深まるにつれて、女神様がさらっとこなす一つ一つの能力の異質さが分かる。


「今映ってるのって、さっき俺が綺麗にした像ですよね? 神像でしたか?」

「そうよ。神像は一柱につき一つしか下界に落とせなくて、神にとって大切なものなの。生の女神や愛の女神のように教会に祀られてる神像もあるのに、私のはこんなところに放り出されてるのよね……それもこれもあの馬鹿な破壊の神が……!」


 破壊の神にやられた過去を思い出したのか、セレミース様の表情が途端に激しい怒りに染まる。俺はそれを見て、本能的に話を逸らさなきゃまずいと悟って口を開いた。


「あ、あの! 神像は移動させた方がいいですか?」


 セレミース様に破壊の神の話は禁句だな……本当に仲が悪そうだ。


「そうねぇ、いずれはしっかりと教会に祀ってほしいけれど、あの神像が本物だということが他の神たちやその眷属にバレるのは避けたいのよ。だからしばらくはこの場所で良いわ。そのうち良い場所が見つかったら移動をお願いするわね」

「分かりました」

「話はこのぐらいにしましょうか。リュカにはやってほしいことがたくさんあるけれど、とりあえずは貴方の好きに動いて良いわ。力を得てやりたいことがあるのでしょう?」

「いいのですか!? ありがとうございます……!」


 まずは飛び出してきた王都に戻って、冒険者として高ランクを目指したい。そしてたくさんの人を助ける下地を作るのだ。やっぱり高ランク冒険者にならないと、難易度の高い依頼は受けられないから。

 それに俺の村が滅んだ原因である呪い。俺は十中八九魔物だと思ってるけど、魔物の痕跡がなかったという調査隊の隊員の言葉がずっと耳に残っている。呪いに対峙するのは高ランク冒険者だけだから、そのためにも高ランクを目指したい。


「リュカ、この神域から下界に戻るには神域干渉を使えば良いの。練習と思ってやってみなさい」

「分かりました。コツなどはありますか?」

「そうねぇ。よく聞くのは、隣にある別次元に足を踏み入れるようにすると簡単にできるらしいわ」

「隣にある別次元……」


 そう言われても難しいな。目に見えないけど隣り合ってるみたいな感じだろうか。とりあえず、イメージしてやってみよう。

 神域と下界が僅かな差で隣り合っていて、俺はそこを乗り越える能力を手にしたんだ。俺が今いるのは神域で、下界に戻りたい。


 それからイメージを頭の中で膨らませていると、なんとなく体がふわっと浮くような軽くなるような感覚があったので、一歩を踏み出したら――


 ――一瞬で裏山の小川に戻っていた。


 辺りをゆっくりと見回してみると、神域に行く前と全く同じ光景がそこにある。さっきのが全て夢だったなんて言わないよな……そんな不安を抱いた俺は、頭の中でセレミース様に話しかけてみた。


『セレミース様、無事に下界へ戻れました』

『ええ、今ちょうど水鏡で見ていたわ』


 おおっ、返事が来た。ということは……さっきのは夢じゃないんだ!


「本当に俺は神の眷属になったんだ。強くなれたんだ。ヤバい、嬉しすぎる」

『リュカ、眷属の能力が使えるか試しておいてね』

『分かりました!』


 俺はセレミース様の言葉に元気よく返事をして、さっそく神力行使と呼ばれていた力を使ってみることにした。

 どの属性魔法も使えるんだよな。何を使ってみようか。俺は今まで魔法が使えたことがないから、どれを使っても初めての経験なのだ。


 ……そういえば、俺が魔法を使えなかったのは呪いのせいだったのなら、もしかしたら十二歳以前は使えたのかもしれないな。子供の魔法使用は成長に悪影響があると言われて、使ったことがなかったんだ。


 もし子供の頃に一度でも使ってたら、呪いに気づけたかもしれないのにな……まあ今更言っても仕方がないか。


 俺は自分の頬を少し強めに叩いて気持ちを切り替えると、一番の憧れだった火魔法を使ってみることにした。

 体内にある魔力、俺の場合は神力を循環させて体外に放出する。そして放出した魔力を脳内イメージによって現象に変化させるのだ。


「ファイヤーボール」


 憧れから使い方だけは完璧に理解していたファイヤーボールを放つと――手のひらから出た大きな火の玉は小川に向かってかなりの速度で飛んでいき、川の水を方々に撒き散らした。


「マジか……なんだこの威力」


 父さんとの思い出の場所だった小川は、俺のファイヤーボールのせいで形を変えてしまった。まさか地面を削るほどに威力が出るなんて思ってもいなかったのだ。


『使えたわね』

『……強すぎませんか?』

『神力行使は魔法でできる範囲のことしか再現できないけれど、裏を返せば魔法でできる範囲のことはいつでも最大が出せるということよ。ファイヤーボールはもう少し威力を強くできると思うわ』


 俺はセレミース様のその言葉を聞いて、小川から少し離れたところで全部の属性魔法を試してみた。すると的にされた大木は辛うじて木の根が残っている程度で、太い幹はバラバラの木片と化した。


「俺がやったってことが、信じられないな」

『リュカ、凄いわね。全部の属性魔法を知っているなんて』

『使えないけど興味はあって、冒険者ギルドにある本とかで学んでたんです』


 無能な俺がそんな本を読んだって意味がないって笑われながらも読んでたけど、あそこで学ぶのをやめなくて良かったな……過去の俺、ナイスだ。


『次は剣を試してみますね』


 試し振りはさっきしたから動物がいるといいんだけど。そう思いながら山の中をしばらく移動していると、ガサガサっと草が動く音が聞こえた。そして次の瞬間には、視界の端に巨大な茶色の塊を捉えることができる。


 あれはボア……じゃない!? ビッグボアだ!!

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