第10話 俺のことを嫌いになっても、最後には許してやってくれ

「ここからは、わしが話そう」


大司教ガリウスが話を継いだ。


「勇者召喚によって召喚された勇者達は皆、特殊な力を秘めている。それが、勇者の資質じゃ」


大司教ガリウスは俺を見て話す。


「勇者召喚によって召喚された勇者の中には稀に、勇者召喚される前から特別な力を持った者がいる。そういう者は、その能力に目覚めたときに固有のスキルを手に入れる」


俺は思い出す。

理沙ちゃんの『光属性魔法』は、最初から持っていたものだろう。

いや、いや、俺は何を妄想しているんだ。

仮に理沙ちゃんが、俺のいる異世界に転生したとしよう。

理沙ちゃんが勇者だとしても、俺は彼女を戦わせたくない。

危険な目に合わせたくないからだ。

俺が理沙ちゃんを守る!

ただ、理沙ちゃんが異世界転生してくれたら俺は……嬉しい!


「ルシファーの場合は『聖女』という聖なる力を持つ者が持つ固有スキルを手に入れたのじゃろう」


「え? どういうこと?」


俺はキョトンとなるのが自分でも分かる。


ルシファーは魔王の『憎悪』を一割ほど継承しているのだ。

なんで聖女の力を手に入れているんだ?


「ルシファーは闇の力と相反する光の力を受け継いでいだのじゃ。光の民のお陰でな」


「な、なるほ……」


と言いかけたところで俺は気付く。


「って、ちょっと待てよ!」


思わず声が大きくなる。


「どういうこと!?」


俺は大司教ガリウスに詰め寄る。


「つまり、ルシファーの残りの九割は『憎悪』で満たされなかった『空』の状態だったのじゃ。それが光の民と我々聖職者と触れ合うことで、光の力がその『空』で満たされ始めたのじゃ」


大司教ガリウスは語る。


「光の力がルシファーの心を変えた。愛する兄を、世界を滅ぼそうとする兄を倒すことを決心させたのじゃ」


大司教ガリウスはルシファーを見る。


「兄を倒さなければ世界が滅びます。ですが、兄を愛すればこそ私は戦うのです」


ルシファーは強い意志を込めた眼差しで俺を見る。


「ルシファー……」


俺はルシファーの名を呼ぶ。


この決心に至るまで、光の力があるとはいえ、……ルシファーは小さな胸を痛めただろう。


「分かったよ。俺がお前を守る。そして、世界を救う。そして……」


現世に戻り理沙ちゃんと再会して、初恋の堅粕愛奈に告白する!


「……だけど、ルシファー」


「はい?」


ルシファーは首を傾げる。


「兄のルシフェルのこと、最後には許してやってくれよ」


……理沙ちゃんが俺のことを嫌いになって、殺すとか、そんなことになっても、理沙ちゃんのことだ俺は許す。

だけど、理沙ちゃん、最後には俺を許してくれよ。

だから、ルシファーもルシフェルのこと殺すくらい嫌いになっても、死んだあと許してやってくれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る