第9話 光の民

「はい。そうです」


ルシファーはあっさりと答えた。


「おい、いい加減教えてくれよ。何で、兄貴を殺したいんだよ」

「それは……」


ルシファーは目を伏せた。

背中に生えた小さな羽がパタついている。

彼女を不安にさせている感じだ。


「私の兄ルシフェルは……私を殺そうとしました……」


ルシファーの声は震えていた。


「父である魔王サタンが死に際に『憎悪』を私達兄妹のどちらかに与えようとして失敗し、中途半端に分け与えることになり……。兄はその場にいた私を殺してでも残りの『憎悪』を奪おうとしました」


ルシファーの目から涙が溢れてきた。


「私は必死に逃げました。追い詰められて殺されそうになったとき……」


ルシファーの目からは大量の血が混じった涙が流れる。


「私は兄のことが大好きでしたが、殺されるとあっては別です。反撃しました。ですが、魔力では『憎悪』を9割も継承した兄には勝てません。私は瀕死のダメージを負いました」


ルシファーは悔しそうな表情を浮かべる。


「そこに現れたのが、創造神デウスの使いである光の民でした」


ルシファーは俺を見る。


「光の民は兄の攻撃を退け私をこの大聖堂まで転移させてくれました。ですが、光の民は無事なのか分かりません」


ルシファーは唇を強く噛む。


「その光の民は?」


俺は尋ねる。


「私が意識を取り戻したときには、もういませんでした。あの人は、フィリアは私の犠牲になったのかも……」


「そっか」


俺は天井を見た。


フィリアは『ゼノングランドクロッセオ・背徳の少女たち』に登場するキャラクターの一人だ。

炎を司る魔法使いで、王族ガーレット出身。

だが、とある理由で王族を追放されてからは闇落ちし、背徳の道を歩んでいる。

仲間にすることが出来ればかなりの戦力になる。

俺は仲間にするルートを選ばなかったが……

ただ、拡張パック1.5までの話で、魔王絶滅後の1.6からフィリアがどう振る舞うのかは知らない。

今、ルシファーの話でフィリアのその後が知れたわけだ。


つまり、闇落ちしたフィリアは光の民と呼ばれる存在となったということか。


『ゼノングランドクロッセオ・背徳の少女たち』は何らかの罪を抱え背徳の道を進む少女を救うゲームでもある。

その一人が光の民となり救われたのは俺としては嬉しい。


『ゼノングランドクロッセオ・背徳の少女たち』の製作者は本当に良い仕事をしていると思う。

感動させるところをしっかり突いて来る。


おっと……


とは言いつつここはゲームじゃない。

異世界だ。


「そして私は、目覚めると自分の身体に光の力が宿っていることを感じました」


ルシファーは自分の手を見つめる。


「そして、私は思いました。これは、フィリアのお陰だと。光の民達のお陰だと」


ルシファーは顔を上げて俺を見据える。

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