第6話 一子相伝

恨みはない。


そう言ってくれたことで、俺は少し気持ちが休まった。


ただ……


そう前置きして、ルシファーは次の言葉を発しようとしている。

俺はその次の言葉が何だか怖い。


「……父を殺したルデスは許せません。いつか、必ず殺したい」


ルシファーの瞳の奥底から憎しみの炎が見える。


俺は、今のタイミングで自分がルデスの父親かもしれないということと、魔王を倒したのは俺とルデスだということを言うのはまずいと思った。

気持ちは苦しいが、しばらく黙っていた方がいい。

言い出すタイミングはいずれ訪れるはず。


「すいません。感情を露わにしてしまって……」


ルシファーは慌てて頭を下げる。


「気にしないでくれ」


俺はそう言うしかない。


「ありがとうございます」


ルシファーはそう言った。

ルシファーは深呼吸をして心を落ち着かせる。

その白いドレスに包まれた小さな胸が小さく膨らむ。


「私は、魔王である父が好きではありませんでした。だけど、父の血が私にも流れています。父や兄が傷付けられることが本能的に辛いのです」


ルシファーは目をつぶる。

俺も親父のことは嫌いだが、親父のことがバカにされたら、何故だか自分のことをバカにされたみたいで腹が立つ。

俺はルシファーの気持ちがよく分かった。


ん?


だが、ルシファーは血を分けた兄を倒そうとしているわけだが……


それは自分を傷つける事にならないのだろうか。


「ルシファーは何故、兄のルシフェルを殺したいの?」


俺はストレートに疑問をぶつけてみた。

ルシファーは、目を見開いて驚く。

そして、小さく微笑む。


「わかりました。ヨウには話さなければなりませんね」


そして、静かに語り始めた。


「魔王は死の間際、『憎悪』を私と兄どちらかに継承させようとしました。ですが、魔王は瀕死の状態だったため、どちらかに『憎悪』を完璧に継承させることは出来ず、お話した通り、兄が9割、私が1割の『憎悪』を継承しました」


瀕死でなければ魔王は、次世代にその意志を完璧に残せたのだろう。


「仮に、どちらかが完璧に『憎悪』を継承したら、もう一方は?」


「はい。死ぬことになります」


ルシファーは淡々と語る。


「つまり、どちらが死んでもおかしくない状況だったということか?」


「そうです。魔王の『憎悪』を引き継ぎ、次世代の魔王になれるのは一人。一子相伝です」


北斗神拳か?


だが、魔王が『憎悪』の継承に失敗したお陰でルシファーは存在している訳か。

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