第2話 老師と会う

老師との面会は、私が思ったより簡単に決まった。

そして、今日は、老師との対面にイングバルド様と一緒に行くこととなった。

「それにしても、拍子抜けするほど簡単に対面となったな」

「そうですね。しかし、私たちは前回の記憶がある理由ですから……。それが影響でそう思うのかもしれないですね」

「それより、今日は、失敗はゆるされないぞ!!何としても老師を我々の陣営に引き込まなければならない」

 イングバルド様は、真剣な顔で言った。

「そうですね。」

 それ以降、緊張のあまり話が続かなかった。


「イングバルド様、お久しぶりです。今日は、この老人に何の用事ですかな」

 老師は臣下の礼をとりながらニコニコとした顔で話かけた。

 その姿は猛将と言うより近所のお爺さんという感じだ。しかし、よく見るとすでに魔族としては老境に達しているにもかかわらず背はしゃんと伸び筋肉質の体をしていた。

「ここで腹の探り合いをする時間が無駄だと思う。だから、単刀直入に言う。私の右腕になってくれまいか」

 イングバルド様は老師に言うと老師は心底驚いた顔をして

「これは驚いた。魔族至上主義の殿下がそんなことを言うとはどう言うことです」

と言った。

「言葉を尽くしても何ともならないと思う。ここは、老師と我々との一本勝負で私の思いを語りたいと思う」

「剣で語ると言うことですかな。いいでしょう。お受けしましょう。」

 イングバルド様の申し出に老師は快諾した。


庭に出ると老師の前にイングバルド様は立ち剣を抜いた。その姿を見て老師は

「この前見た時と見違えましたな。まるで何年か修練したような感じですな」

「御託は良い。早く構えてくれ」

 彼は緊張した様子で言った。それを見て私も居ずまいを正す。

「では、始めましょうか」

 老師はまるでどこかに散歩に行くかごとくゆるゆると剣を構える。対して我々は失敗が許されないためどこか緊張した雰囲気を出す。

「剣にあせりが現れていますね」

と言うが早いか私に向かって老師が突進して来た。イングバルド様はそれを止めようとするかのように老師の前に出るが老師のスピードが速く私への攻撃を止めることが出来なかった。

 老師の攻撃が私に向かおうとした瞬間私の姿が煙のごとく消える

「幻影ですか。なかなかやりますな」

 私は老師と彼が向き合っている時、すでに魔法を唱えていたのだ。

 その魔法は幻影、ただの私の数分前の姿を映し出すだけのものである。

 だが、その数秒の間にイングバルド様の攻撃の絶好の瞬間となる。彼は老師に向かって剣を振り落とす。

 しかし、老師に剣が当たろうとした瞬間老師の姿が掻き消える。

「幻影…無言詠唱」

 私がつぶやくと老師の姿はイングバルド様の背後に現れる。

「そこまでです」

 老師の大きくないがよく通った声が庭に響くと同時にイングバルド様の首に剣を添わせる。

彼は、空を見て大きく息を吐くと老師に向き頭を下げた

「今の実力なら、二人がかりなら1本取れると思ったのだが……」

心底悔しそうに言った。

「いいえ、勝負は時の運です。私の方に少しばかり運があったようです」

 老師は満足気に言った。

「ところで老師俺の右腕になる件だが…。受けてはくれまいか。この通りだ」

 イングバルド様は老師の手を取り、頭を下げる

「私からもお願いします。」

 私も彼に倣い頭を下げた。


私、タウと言う多くの者は老師と言う。私は、今どうすべきか逡巡していた。

 私の前に第一王子が頭を下げ返事を待っている。ここでだめだと言っても下がる王子ではないことは数年の付き合いだがわかる。

しかし、私が王子の右腕になることでこの王子が魔族至上主義の者達としないでもよい苦労を背負わされることは明確である。

だから、ここは断るべきだと物わかりの良い私は言っている。だが、もう一人の私が断るべきでないと言っている。

私が困っていると握った手が震え、涙が手を濡らす。困ってシルク譲に目をやるが彼女もまた頭を上げない。

そんな二人の姿を見て私の考えていることが杞憂ではないかと考え

「この老いぼれで良ければ殿下の右腕になりましょう」

と言ってしまった。

タウ老師が私たちの仲間になってくれた。それは歴史上小さな変更点でしかないかもしれない。

しかし、私たちにとって大きな転換点となったと考えている。

次に、やるべきはイングバルド様の部下の選定である。前回は現魔王の部下が横滑りで部下になり統率が取れずに勇者に連戦連敗するという不名誉な結果となった。

だから、今回は部下の選定は出来るだけ慎重に行いたいと考えていた。

そんな時、老師から一つの提案があった侍女エマを部下としておきたいということだった。

最初は、身内ひいきでは、ないかと考えたがよく考えるとエマは私の専任の侍女としてだけではなく外に出る時は私のボディーガード兼ねていた。

武道に優れ侍女としても一流の彼女を部下に置くのは考えてみればちょうどよい選択に感じた

しかし、イングバルド様の直属の部下にすると何かと問題になると考え表向きは私直属の侍女という今までの通りにしておいた。

   

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サキュバスが賢者で何が悪い 田村隆 @farm-taka

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