サキュバスが賢者で何が悪い

田村隆

第1話 発端

真っ暗な魔王の部屋の中とは違い外では大雨が降り落雷が鳴り響くそんな外の様子とも勝るとも劣らない闘気を二人の人物の間で漂っていた。

二つの影、一方は善他方は悪互いに相いれない存在がにらみ合い。部屋の物が二人の闘気でゆれカタカタと音を鳴らすそんな中で勇者が一つ言葉を紡ぐ。

「魔王イングバルドお前の野望もここまでだ。大人しく冥府に落ちるがいい」

まだ、年若い魔王は勇者の言葉に応じ

「勇者よ、お前の命も今ここで終わる。私の剣のつゆに消えるがいい」

互いの言葉を最後に戦いが始まる。剣と剣が交わり火花を散らし魔法が大きな爆音と共に着弾する部屋の内装はめちゃくちゃになる。

仲間だったモンスターたちは逃げるか勇者たちにやられもはや私以外誰もいない。

だが、魔王の婚約者であり副官である私に逃亡の二文字は存在しない。

 しかしそんな中でも、私は何も出来ずにそれを見ることしか出来なかった。

もちろん、補助魔法は唱えることは出来る。しかし、それは勇者の仲間も同じでそれほど、役にたつとは言えなかった。 

それほどに魔王と勇者の戦いはすさまじいものだった

 そんな膠着した状況を打破したのは、勇者の攻撃だった。勇者の体重の乗ったそれにイングバルド様は態勢を崩し倒れるそこに、勇者の追撃の魔法が襲う。

 イングバルド様は,体をよじりかわすがその衝撃まではかわせずに苦しみの表情を浮かべる。

勇者の攻撃はそれで終わらずに、イングバルド様が逃げた方向に剣を突き立てる。

それを、ギリギリでかわす勇者の剣が床に突き刺さりそこから床にひびが入りそして大きくドーム型に砕けちるとともに彼はその勢いでたたらを踏む。

 それを見て、イングバルド様は素早く起き上がり彼の服をつかみ持ち上げると顔を殴った

 そのあとは、ただの殴り合いとなったがそれも長くは続かずにイングバルド様の胸に勇者の短剣がささり最期を迎えた。

 その後は、よく覚えていないが私がイングバルド様に駆け寄った後大きな魔法陣が現れてどこかに飛ばされたのだけは鮮明に覚えている


「それにしても君らはかわらないねぇ」

 私は、謎の声によって目覚めた。声方向を見ると一人の立派な魔族が立っているのが見えた。

「あなたは誰?」

 頭に浮かぶ疑問を口に出し周辺を見る。周りには、戦いによる損傷はほとんどなく魔王の間とも違った。何もなくただ荒涼な大地があった。

「そんなことより、そこの魔王君も目を覚ましたようだけど……大丈夫?」

私は、そばにいたイングバルド様に近寄ると彼は苦しげに目を開ける

「ここはどこだ?俺はやられたはずだが……」

 彼は、今の状態に怪訝に思い自分がやられたはずに箇所を確認する

「丁度いい君たち二人に自己紹介しよう。私は君たちが奉る魔族の神だ」

「あなたが……」

 私は驚き居ずまいを正すとイングバルド様も倣って苦しげに正す。

「まぁ。いいよ。それより時間がないから要点だけ言うよ。君たちは勇者に負けたのだ。」

 私は認められない現実を直視し目を伏せる。

しかし、魔族の神はそれにかまわず続ける。

「これ以降、国は人間に奪われ魔族は人間に淘汰されることになる。だが、それにより、人間が大地を席捲することになる。それにより、魔族・妖精族は行き場を失うこととなる。」

「行き場を失う……」

イングバルド様はあまりに悲惨な未来に驚き目をさまよわせた。

「そして最後は、人間は驕り自ら大地を無に帰すこととなった。それが、今の空間だ。見ての通り一つの文明の残骸以外何もない……何も」

魔族の神は、息を吐きだすように言った。

「この何もない荒涼な大地、そして人が住んでいたと思われる建物の残骸…何ものかわからない骨……これが未来か……あまりにも悲惨な風景……」

イングバルド様は息を呑んだ。

「そこで魔族の神と人間族の神が集まりもう一度やり直しを行うこととなった。そして、やり直しの時期を人間族と魔族が戦う10年前とした。そこで、君たちに頼みたいことがある人間族と魔族の戦いを勝ちに導いて欲しいのだ…」

「なぜ、神様が干渉しないのですか?」

 私は当然の疑問を口にする。

「神とて万能ではないのだ。大地への干渉は大きなリスクがある。それに私も彼も必ずしも目的が一致しているわけではないのだ。ただ今回の一件のみ意見が一致したにすぎない。さてこれ以上は大地や時空に影響があるので、これで、去ることにするよ。頼んだぞ……」

 魔族の神が言い終わると時空がグニャリと曲がり意識がとぶのを感じた。


目を覚ますとそこはいつも見慣れた自分の部屋だった。今までのことが夢だったのかと思われたがいつもと部屋と違っていることに気がついた。

それは、いつもの目線より低いことだった。不思議に思いながら姿見で自分の姿を見るとそこには自分が小さくなっていることに見てとれた。

あまりのことに大声をあげそうになると部屋の扉がたたかれることに気がつき平静を装う。 

「お嬢様。起きられましたか」

私のお付きのメイドがいつものように声を掛ける

「わかったわ。入ってもいいわ。エマ」

 私は驚いたことを悟られないように言った。

「お嬢様今朝はいつもより遅いですね」

「悪いわね。昨晩は少し眠れなくて…」

「そうですか。お医者様を呼びましょうか」

 いつも、寝坊をしない私が珍しく寝坊をしたのでエマは気遣ってくれた。しかし、私はどうしても知らないといけないことがあった。

「ところで今日何年の何月何日かしら」

 エマは、一瞬怪訝そうにしながら

「今日は、XXXX年の6の月の15日ですよ」

 と窓を開けながら言った。

 そんな、エマを横目に私は頭がパンクするくらい現実を受け入れることができなかった。

 当然だ、ちょっと前まで王城の魔王の間で勇者と戦っていたのだ。それが、いつの間にか10年前に戻っていたのだから混乱しないほうがおかしい。

私は、現実受け入れることに必死だった。そして、一つのことに気が付いた。

「15日?今日イングバルド様がみえる日ね」

「そうでございます。殿下がみえる日ですよ」

 私は、今抱えている疑問今まで体験したことが夢か否か知るのに願ってもない日だった。

「今日は天気が良いので庭で殿下を迎えられますか」

 私は、思わず考えた。そして、

(確か、私の記憶か確かならば急に雨が降って散々な目にあったような記憶があるわ)

「エマ、悪いですけど今日は家の中にして」

(イングバルド様に会えば今までのことがわかるわ)

 イングバルド様が来るまでの間私は今までのことを思い返して今までのことが夢であることを思わずにはいられなかった。


 俺の名前はイングバルド魔界の第1王子だ。今朝夢で勇者にやられるという体験をした。

 それも、人間族と魔族が戦い負けるという最悪の夢だ。

 その時、俺は青年の姿をしていた。

 魔族の成長は青年期まで人間のそれと変わらない。しかし、それにしてもあの姿になるのには10年かかる。

 また、現在人間族と確かに戦っているがそれは局地的なものであれほど大規模な戦いではないはずだ。

 それに不思議なことに10年分の記憶があるので夢と切り捨てることが出来ないだった。

 しかし、だからと言って真実だと決めつけるのは俺のプライドが許せなかった。

 そこで、今日がシルク譲に会う日だったので夢の中に一緒にいた彼女に確かめてみることで現実かいなか確かめることにした。

 なぜなら、彼女は、私の婚約者だけではなくサキュバスでありながら理知的なところからサキュバスの賢者と言われる女傑である。

 彼女に聞いて本当であるならば事態は急を要することになる。俺は少々、脳筋なところがあるので彼女の意見を聞いてみたいと感じた。

 俺は彼女の屋敷に着くと侍女のエマに二人だけにするように頼んだ。

 エマは、意味深な笑みを浮かべると部屋から出て行った。

その後結局、俺たちの記憶を確かめあってみて二人の体験したことは現実であることは動かせないものとなった。

「私たちは負けたのですね」

彼女は震える声を絞り出すように言った。

「あぁ、負けたのだ。完璧に」

俺は肯定するように呟き息を吐いた。

「しかし、今度は負ける訳にはいかない……」

 俺は、何もない荒涼とした何もない大地を思い出し言った。

「でも、同じことの繰り返しでは結果は変わりませんわ」

「どこをどう変えたらいいのだ」

 俺はあまりの難問に頭を抱えた。

「まず現状を認識してみましょう。私達と勇者の力の差はありましたか?」

と彼女は言った。

「俺が見るに勇者は悔しいが全てにおいて上だった」

「全てにおいて上とはどういう事ですか」

「剣や魔法の技量はそれほど変わらないように感じた。経験は悔しいが上と思う」

「私も同意見です」

「装備はどうだ?」

とこのように彼女と意見をすりわせた結果俺たちは勇者に比べて魔法・剣等の技術や装備において数段劣ることが判明した。

「何気に、無理難題を頼まれたじゃないか……」

 俺は、片手で眼をおおい大きく息を吐いた。

「何気ではなく無理難題です」

 彼女も疲れたように息を吐いた。

「それに記憶が確かならばこれから大きな戦いが始まる」

「それにも敗ける理由にはいかない」

「そして、現魔王である義父様が人間によって亡くなられるのは後5年後の戦いだ。それ以降、争いは大きなものとなります。」

「それを総て阻まないと魔族は負け大地は無と帰す」

 俺は現実に打ちのめされそうになりながらももう一度やり直された神に感謝しつつ今後のことについて考えた。


「今の局地的な戦いを終わらせることは可能ですか」

 私(シルク)は、まず戦いを終わらせることを提案する。

「まず無理だな。もともと、この戦いは人間の方から始めたものだ。それも鉱山資源の採掘と言う利権がらみだ。なんともならない」

 私たち魔族の領地は人間のそれとは違いけっして肥沃とは言えない。しかし、その分鉱山資源にめぐまれていた。

その恵まれた資源を売ることを根幹として国が成り立っていた。だが、その物資は常に争いの種となっていた。

「では、どうします。戦うにしてもと技術的に劣った我々は、人間のそれを我々魔族も学ばねば勝てません。だが、魔族最強論者が幅を利かす今の体制で人間の技術をどう学べばいいでしょう?」

 私は、絶望的な気分で声を荒げた。

「お前の侍女のエマの祖父のタオ老師はどうか?私の前回の記憶で老師は人間の技術を取り入れるように進めたのを覚えている」

イングバルド様は、少し考え一つの意見を出した。

タオ老師、今は前線から退いたが猛将として魔族ばかりでなく人間族にも知れ渡った人だ。彼は、先進的な考えを持ち人間の技術でも意欲的に取り入れようとした人だ。

しかし、反面魔族最強論が幅を利かす魔王軍から忌み嫌われた。

そんな、老師に会うことで先が変わるだろうかと言う疑問から

「タオ老師ですか!!確かにそんなことが、進言にあった気がします。しかし、老師の進言を聞くだけで未来は変わるでしょうか?」

 私は率直な意見を彼に言うと

「変わる、変わらないの、問題ではない。これまでと違った選択をすることで結果未来が変わるのではないか?俺はそれにかけてみたいのだ」

私は、イングバルド様の考え聞くととにかくエマを呼ぶように外にいる執事に頼んだ。

 ほどなく、すると息を切らしたエマが俺たちの前に現れた。

「どうしたの、息を切らしてそれに少し濡れているようだけど?」

「えぇ、ちょっと雨が降ってきまして…。それよりなんの用事でしょうか?」

私たちの体験が夢でないことを現実として見せられうんざりしながら

エマにタオ老師との面会を取り付けるのだった。

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