第30話*修行の前の一時

 私は、シリウスとの甘い甘い1日を過ごした後、地球に帰って来ていた。こっちに居ると、シリウスといる時間や自分が精霊だった事が、まるで夢の出来事のような気さえする。


 高校生活も、後3か月かぁ……


 そんな風に色々考えながら、宿題をしていると、コンコンと部屋のドアをノックする音がする。


「はーいっ」


 返事をするとお母さんが入ってきた。手には綺麗な着物を持っている。


「みさ、もうすぐ成人式でしょう? それでね、みさはスーツで行くって言ってたけれど、お母さんは、やっぱり着物の方が良いかなって思うの。それでね、私の着ていた着物を出してみたんだけど、どうかな? それでも、やっぱりスーツの方がって思ったらそれでも良いのだけれど……」


 成人式! すっかり忘れてた。レンタルとかだとお金もかかるし、と思って遠慮してたけど、やっぱり着物は着たい。お母さんのだから、余計嬉しい。


「お母さん! 私、その着物着るっ! ありがとうー!」


 お母さんも嬉しそう。


「そう! 良かったわ。あ、でもどうしましょう? 着付けは出来るけれど、ヘアセット……今から予約間に合うかしら?」


「それは大丈夫よ! 大分前にヘアセットは予約済みだから。着物になった事を伝えるね!」


 成人式の話をシリウスにした時、


「ヘアセットは任せて!」


 って言ってくれたし、きっと大丈夫だと思う。それに、シリウスは着物も全て用意する勢いだったしね。


成人式当日――、


「みさ、素敵よ」


「お母さん、泣いてる?」


 お母さんの目が潤んでる。


「あら、心配かけちゃったわね。みさの着物姿見たら成長を感じちゃって。あんなに小さかったみさが、こんなにも大きくなって……」


「お母さん、ありがとう。ここまで成長できたのも、お母さんとお父さんのお陰です。今までありがとうございました」


 私がそう、頭を下げると


「もう、直ぐにでもお嫁に行っちゃいそうな言い方……そうね、卒業したら結婚して、悠さんのところへ行くのだものね。何だか寂しいわ」


 お母さんは、私の頭を撫で切なそうにしていた。


 *


 無事成人式を迎え、その後、卒業式も終えた。卒業式が終わったら、シリウスと結婚して家を出る事にもなってたから、みんな寂しがってた。流石にアルダバラの話は出来なかったから、外国で暮らすという話にもなっていた。


「みさ、準備出来たか?」


 シリウスが家の外で待っている。


「うん! それじゃ、行ってきます!」


 私は元気に家族に手を振る。


「悠さん、みさのことお願いしますね。みさ、幸せになるのよ」


 両親がシリウスに頭を下げた。


 まずは花嫁修行という名目で、2年間旅立ちの準備や訓練をする。2年後に地球こっちで結婚式を挙げる約束をして、アルダバラへ向かう。


「勿論です。結婚を許して下さってありがとうございます! 必ず幸せにします!」


 シリウスが頭を下げる。シリウスに続いて、私も両親に深々と頭を下げた。


 これからアルダバラで毎日、魔法や剣術等の修行が始まる。精霊に戻るか人間になるかの考えはまだまとまってないけれど、どちらにするにしても準備は必要。いきなり旅には出られないから。


 でも、私にも魔力があって魔法も使えるって言ってたけど、本当に大丈夫かな?


「みさ、これからはずっと俺が付いてるから大丈夫だよ!」


 私の不安が分かった様にシリウスが言う。


「うん、私、頑張るね!」


 これから始まる修行に期待と不安を抱えながら、シリウスと一緒にアルダバラへ向かうのであった――。



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