第2話*出会い

 声のする方に顔を上げると、涙でよく見えないが、見知らぬ男の子が、私の顔をじっと見ている。


 六年生……かな? いや、違う……体操服も着てない。同じ学校の子じゃないんだ……。


 涙を拭きよく見ると、体操服を着ていないばかりか、同級生の男の子と明らかに違っていた。例えるなら雪より白く輝く白金髪……それに、おとぎ話に出てくるような、まるで王子様みたいな服装……凄く不思議で、あまりにキラキラしてるから、暫くじっと見つめてしまっていた。


「泣いていたみたいだけど、どうやってここに入った?」


 男の子は更に聞いてくるが、そんな事言われても分からない。どうやってここに来たかなんて、私が知りたい……。


 全然知らない子に話し掛けられ、何も答えられず、怖さと不安で泣けてくる。


 私が泣きながら顔を上げると、男の子がちょっと慌てている。さっきとは違い、口調が少し優しくなった。


「どうしたんだよ? どこか痛いのか? それにお前、言葉話せないのか?」


 色々聞いてくるけれど、今度は心配してくれているみたい。


「違うの。遠足に来ていたみんなとはぐれちゃって、道に迷って……どうしよう」


「えと、エンソク……? は、分からないけど……うん、お前、迷子なんだな。そか……でも、大丈夫! 俺が一緒にいてやるよ。誰かに会えるまで」


 男の子がそう言ってくれたので、少し気が晴れてきた。


「ありがとう……」


 お礼を言い、にこっと笑って見せると


「無理して笑わなくて良いよ。それと、君の名前を教えて?」


 私が泣いていたからなのか、頭をナデナデされた。さっきは『お前』だったけど、呼び方も『君』になってる。


「うん、私はみさって言うの。あなたは?」


「ミサか。変わった名だな。俺はシリウスだ」


 ん? 変わった名って……シリウスの方がかわってるんじゃ……


 何だか不思議な子だな……と、その時は思ったが、しばらく経つとそんな事はもう気にならなくなっていた。


 お花畑で冠を作ったり、花束にしたり、寝転んだり……一緒に遊んでいると、皆とはぐれて悲しいことも忘れていた。


 ……シリウスって、さっきも王子様みたいって思ったけど、優しいし素敵で格好良い……


 なんて考えていると、


「シリウスー!」


 遠くからシリウスを呼ぶ声が聞こえた。


 そういえば、どれくらい時間が経ったのだろう……


「もう、帰らなきゃ。みさ、君も帰らないと、皆心配してるかもしれないよ?」


「嫌、帰りたくない。もっと一緒に居たいよ。それに、私、帰り方も分かんない」


 そう言いながら、泣きそうになる。


 そんな私を見て、シリウスはまた焦っているが、何かを見付けたみたいで私の後ろを指差しながらニコッと笑う。


「そか……でも大丈夫! 帰れるよ。あっちにドアが見えるだろ? あそこを通るときっと帰れるはずだ」


 後ろを振り向き、シリウスの指差す方を見ると、確かにドアが見える。さっきまで無かった気がするけれど……


 でも、そんなことより、もっとシリウスと居たい。何でだかは分からないけど、離れたくない。私はシリウスにぎゅっと抱きつく。


 そんな私にシリウスは、困ったような……でも、優しい表情をして


「うん、俺もみさと離れたくないよ。でも、もう帰らなきゃ……」


「どうしても……帰らなきゃ駄目?」


 泣きそうな顔をする私の頭を撫で、


「そんな顔するなよ。俺だって本当はまだ一緒に居たい。でも、もう時間が無いんだ。これを持っていて」


 シリウスから不思議な色の石を渡される。


「綺麗……」


 うっとりと、その石を見つめていると


「これを持っていれば、いつかまた会える。離れても、探しに行く。だから俺の事、忘れるなよ!」


 シリアスは、ニカッと笑う。


 その瞬間、石が眩しく光る。目の前が真っ白になり、次に目を開けると、知らない天井が見えた。





 え? ここ、何処? シリウス?


 不思議に思い、辺りを見回すと、家族や友達に囲まれていた。


「みさが! みさが、目を覚ましたー!」


 泣き腫らした顔で叫んだのはお兄ちゃん。


「みさ……良かった、目を覚まして」


「心配したんだぞ」


 良く見ると、みんな泣いている。 私はベッドに寝ていたみたい。


「え? 私、どうして……? ここ何処?」


 良く分からなくてキョトンとしている私に、お父さんが優しく教えてくれた。


「ここは、病院だよ。みさ、何か覚えているかい? みさが遠足中に急に居なくなって、みんなで探したんだ。でも、直ぐには見付からなくて……夜になってもう一度公園を探したら林の中で見付かったんだ。昼間は居なかったから、不思議でな。けれど、本当に無事で良かった……このまま目が覚めなければどうしようか……と……」


 言いながらまた、泣き崩れてしまった。


 どうやら、私は神隠しにでもあったと思われていたらしい。


「ごめんなさい、心配かけて……」


 私が謝ると、『本当に心配したのよ』と、言われはしたが、無事で良かったとみんなが抱き締めてくれた。


 皆が帰った後、病室にはお母さんと二人っきり。念の為、一晩入院することになった。お母さんは疲れたのか……ソファーベットで、もう寝てしまっている。


 それにしても、さっきまで私が居た所の話をしたところで、皆、信じるかな……扉を抜けた先の出来事を……私自身、自信がない。夢だったのかなとさえ思う。


「本当に夢だったのかな……」


 そう呟きながら、不意にポケットに手を入れる。すると、何か入っていた。


「あっ!」


 取り出してみると、シリウスにもらった石だった。もう1つ何か落ちた様な気がして見てみると、花びらも一枚床に落ちていた。花びらもまた、あのお花畑で見た不思議な色をした花だった。


「夢じゃなかったんだ」


 私は何だか嬉しくなり、その2つを大事にしまい、再び眠りについた。

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