第34話 姉貴をエスコート③

私はアニメを見るのが好きで一人の時は大体ぬいぐるみを抱っこしながら寝転がってみる。


「学校、行かなきゃなぁ」


襲われてから休んでいる。

吹奏楽の練習も皆からだいぶ遅れを取っただろう。


「自分がどうしたいか・・・か。」


テレビの向こうの主人公が悩む。

私は同調する。

吹奏楽は好き。

でも、もう好きだった選手は甲子園に戻って来ない可能性の方が高い。

私はにぃにの応援をしたいから全国常連の超強豪海城高校の吹奏楽部に入った。

練習は全国一と言われるほど厳しく既に辞めてしまった同期もいる。


「ママ」


私はテレビを消し、リビングでドラマを見るママの肩を叩いた。


「吹奏楽やめるかも」

「いいんじゃないかな。凛ちゃんがそう思ったなら。

でも、もっかい考えなね。

遥斗が甲子園に戻った時、凛ちゃんは甲子園に居なくていいのか。

甲子園じゃなくても、大学で復活した時、凛ちゃんは一番近くで見なくていいのか。

吹奏楽を始めた時、凛ちゃんは驚異的な速さで上達して行った。

経験者を圧倒的速度で抜かして行った。

天才椎名凛の才能を閉ざすも磨き続けるも、結局は自分。

他人に委ねる事じゃない。」


天才椎名凛。

私は世間からそう言われている。

にぃにの応援をしたいから始めた吹奏楽は難しくなかった。

簡単とは言わないけど、難なく出来た。

同級生も先輩も先生も一年生の私を中心にすると即断した。

それは高校でも変わらなかった。

入学して直ぐ、先輩達は私に完敗した。

先生はお前の才能は世界レベル、間違いなく歴代No.1だと言った。


「ママ、学校行く。

私は、私の音楽を極めて、にぃにを待つ」


にぃに復活のその時、私が先陣を切る。

一番ピッチャー椎名遥斗の応援団長として。


「わかった、着替えて来なさい。」

「うん!」


私は満面の笑みを向け、階段を駆け上がる。


「にぃに、助けてくれてありがとう。

今度は私がにぃに復活の時を待つよ」


にぃにが甲子園で優勝した時撮った、ねぇね、ママ、パパ、私、ババ、ジジ、マロンがにぃにと一緒に映る写真に手を置いた私は滾る心を宿した目で見つめる。


────────────────────


「遥斗、凛ちゃん、学校行くって」

「天才復活か。

俺も復活しないとな」

「ピッチング見せて」

「オッケー」


ほぼ同時に俺と姉貴に来た、学校行って来ますというメッセージとピースする自撮り。

俺と姉貴は見せ合い、笑みを溢す。

そして、俺と姉貴はバッセンへ


「この足はこっから鍛えに鍛えて、全盛期を超えるキレを出せるようにする」


俺はゆっくりと振りかぶり、呟く。

凛が復活したんだ。

兄貴の俺に足踏みしてる暇はねぇ。


「ウラァ!」


踏み込み、腕を振り切ると声が漏れる。


「は?何、あれ」

「やば」

「軟式で156って、バケモンかよ」

「的割れてんじゃん」


腕を振り切り、リリースしたボールは的を粉砕した。

俺はニヤける。


「椎名だ」

「椎名やん」

「やば、復活してたんか」


やべ、俺は視線を逸らす。


「あの、彼女さんですか?」

「姉です、天才ラノベ作家の!」


バカ姉貴!


「ファンなんです、握手してください。」

「はい、いいですよ」

「美男美女ですね」

「ええ、よく言われます」

「妹さんのファンです」

「そうなんですね、私達兄弟は皆、凄いです」

「素晴らしいですね!」


ファンの人たちと握手する姉貴は微笑み、家族自慢を始める。


「158、バケモンやん」

「こいつ、プロやろ」

「プロは通過点、俺が目指すは世界一っす」

「応援してるぜ」

「あざっす」


ラスト一球を投げ込んだ俺は隣で見つめる男性にピースした。


「バレちゃいました」

「おふくろに任せよう」

「だねー」

「姉貴、次の店行こうぜ」

「うん!」


SNSに呟かれ、瞬く間に拡散され、俺達の行動はかなりの人間が知ることとなった。

俺と姉貴は次の店へ。

ーーバレちまったもんはしゃーねぇ

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