第32話 姉貴をエスコート①

停学初日。

今日は5月29日(月)

麗蘭の誕生日である6月3日までは今日を入れて、あと6日だ。

俺の停学は5日間。

つまり、金曜日まで。

土曜日からは通常通り登校可能。

さて、何を送ろうか。

定番のぬいぐるみやお菓子をあげれば喜ぶだろうか?

去年は洋服をプレゼントして、大喜びだったし、今年もそれで行くか?

でもなぁ、定番とか、去年と同じってなんか味気ないと思っちまうんだよなぁ。


「なぁ、お袋、お袋は親父から何貰ったら嬉しい?」

「難しいわね」


愛猫のマロンの爪を切るおふくろ。


「もう結婚して結構経つし、もう若くないからなぁ。

葵ちゃん。

葵ちゃんは?」

「麗蘭ちゃんに渡すんでしょ?なら、思い切って下着とか。

ヤるとき、絶対つけてくれるよ、遥斗」


お袋はスマホを見ながらソファで寝転がる姉貴にパスを出したがこの姉貴の答えは参考にならない。

諦めよう。

この家に良いアドバイスをくれる人間はいない。


「付き合ってねぇんだよ。

姉貴にはもう聞かん」


俺はため息を吐いた。

付き合ってたとしても下着をあげるのは如何なものだろうか。


「どうせ、ぬいぐるみとかでしょ、子供だなぁ」

「女子は好きだろ」

「あぁ、悲しい。

弟がこんなセンス皆無だとは思わなかった」


姉貴は俺より大きなため息を吐き、首を振る。

ムカつく。

ぬいぐるみの何がダメなんだ。


「あのね、ぬいぐるみなんて欲しけりゃ自分で買うの。

女ってのは新しい世界を、夢をみたいの。

わかる?

麗蘭ちゃんや風夏ちゃんが見たいのは遥斗が好きなものだったり、やったこと、見たことないもの。」

「一理あるな」


悔しいが一理どころかかなりある。

俺も未体験のものには基本的に惹かれるからな。


「ねぇ、遥斗、お姉ちゃんと久しぶりに出かけよっか」

「停学中なんだが?」

「変装すりゃ、バレない」

「じゃあ、行く」


そして、俺と姉貴は駅へ


「小さい頃はさぁ、こうやってよく出かけたよね」

「凛も連れてな」


俺と凛は小さい頃、よく姉貴と一緒に電車に乗って出かけた。

あの頃はまだ親父も平社員だったから家計を助けるためにおふくろも働いていた。

子供3人を養うとはそういうことだ。

姉貴が小説を書き始めたのも、俺がプロになるために野球を頑張ったのも全て将来金を稼いで家族に楽をさせるため。

金で不自由はしたくない。


「そうそう、凛ちゃんが泣いちゃったりして大変だった。

ところで凛ちゃん誘った時どうだった?」

「行きたくないってさ。

なんか気分乗らないって。」


襲われてから凛は学校を休んでいるがそこまで重症ではない。

家では元気いっぱいだ。


「そっか、ならいいね。

今日どこ行くの?」

「姉貴?」


え?

決めてないの?


「エスコートしてください」

「渋谷」

「おけ」


ここから1番近いところに行くとしよう。


「しっぶやー!」

「楽しもう」

「いっくぞー!!」


俺はサングラスを外し、身体を伸ばし叫ぶ姉貴の肩を叩いた。

姉貴は満面の笑みを向ける。

俺は満面の笑みを向け返す。

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