第29話 球技大会15

意見を求める訳ではないが俺は野球は個人競技だと思う。

例えるとサッカーなどは協力しなければ点を取れないが野球は違う。

投手と一対一でホームランを打てば最大で4点取れる。

つまり、野球というスポーツは一人一人が自分の仕事をすればいい単純なスポーツだ。

ーー簡単なんだよな、野球。

個の力が全てだし。


「負けるかよ、この俺が」


俺は今までの野球人生で敗北したことが数えるほどしかない。

チームも強かったが俺自身にとてつもない才能があったからな。


「えげつねぇな、椎名、ホントに怪我開けかよ」

「クソ、全然走らねぇな。」


野球部の同級生3人を三者連続三振に打ち取ると絶望の声がこだまする。

だが、俺は納得出来てない。

足りない、足りないんだ。

全てが。


「なんだこの下半身、貧弱すぎんだろ...」


疲れと手術の影響が大きいんだろうが下半身の踏ん張りが効かない。

俺は一塁ベースを周り、唇を噛み締める。

ヒットにはなったが理想とは程遠い。

甲子園レベルには到底届かないな。


「クソ...!」


俺は太ももを思い切り殴った。

折角風夏がレフト前を打ったのに三塁に行けなかった。

打球予測まで完璧だったのにも関わらず、足が言うことを聞かない。


「先制、すげぇな麗蘭」


麗蘭のツーベースにスタンドが湧く。

俺は唇を噛み締め、ホームインした。

そして、この試合は3ー0で俺たちが勝利した。


「麗蘭、ごめん、走ってくる」

「え?」


俺はグラブを麗蘭に投げ、ベンチを飛び出した。


「あの時、あそこにいなかったら...」


少し走ったところで足が止まり、事故がフラッシュバックする。

俺は膝に手をつく。

大人しく家にいればよかった。

本なんてネットで買えばいいのに。

何度そう思っただろう。


「焦らなくていいんじゃない?」

「麗蘭」


バックハグする麗蘭。

俺は麗蘭の手を握りしめる。


「ごめん、ちょっと泣かせて」

「いいよ」


周りに人はいない。

俺は麗蘭に抱きしめて貰いながら泣き叫んだ。

いつになったらこのトラウマは癒えるんだろうか。


────────────────────


「遥斗...」


あの日、本屋さんに行こうと言ったのは私だ。

横断歩道で遥斗は事故に遭った。

私を守って。


「ちょうど雨、これで隠せるね」


あの時に戻れるなら私は家にいる。

大人しく。

あぁ、戻って、やり直したい。


「遥斗、ごめんね、私のせいだよね。」


立ち上がる遥斗と麗蘭。

どうやったら償えるんだろう。

一生償えないのかな?





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