第24話 球技大会⑩

「なぁ、遥斗」

「なんだよ」

「この風は俺を祝う勝利の風か?」

「お前がそう思うならそうだ。」

「やはりな」


サッカーの学年別準決勝キックオフまであと数分。

俺は横のナルシストと話していた。

このナルシストの名は黒川汐恩

こいつは高校サッカー界でもかなりの有名人で既に日本のクラブは勿論、海外からもスカウトされているほどの実力者である。


「狙うぜ」


ボールに足をかけた他クラスの女子を見つめながら唇を舐める汐恩。

別の意味にしか聞こえない。


「おっせ」


キックオフの笛が鳴り響き、汐恩に見つめられた女子が他の女子にパスした瞬間、汐恩は走り出した。

俺も合わせるように走り出す。


「クロちゃん!?」

「俺をその名で呼ぶんじゃねぇ!」


汐恩はクロちゃんと言われるとブチギレる。

男子なら半殺しだ。

汐恩は強引にボールを奪う。


「もう、ちょっとは手加減してよ!」


尻餅をついた女子が叫ぶ。

流石は一流選手。

転ばせ方も一流だ。


「遥斗、麗蘭、風夏、俺の動きにジョインしろ。」

「あぁ」

「う、うん」

「やだ、遥斗に合わせる。それと下の名前で呼ぶな、ナルシスト」


ボールを奪った汐恩は俺たちに指示を出す。

俺と麗蘭は従うが風夏はプイッと視線を逸らし、俺の横に来た。


「ったく、素直じゃねぇな」

「べぇだ」


汐恩がディフェンスを抜きながら睨むと風夏はあっかんべーをする。

言うまでもないと思うが風夏は汐恩が嫌いだ。


「しゃべってんなよ、天才」

「黙れ、雑魚が!遥斗!」

「1、2、3で上がるぞ」

「うん!」

「来い、汐恩、ゴール前で渡してやる」


踵で俺にパスを出した汐恩。

俺は麗蘭と風夏を使い、トライアングルを作り、上がって行く。


「風夏!」

「あいさ!」


前にディフェンス二人。

俺は風夏に強めのパスを出した。


「麗蘭!」

「遥くん!」


風夏のマークにつく一人が近づくと風夏は麗蘭にパスを出し、前へ走り出す。

パスを受け取った麗蘭は女子を一人交わし、俺へ強めのパスを出した。


「汐恩には3人か」


敵は汐恩を使わせない気だ。

なら、俺らで決めるしかねぇ。


「邪魔」


俺はシザーズで抜き、風夏へパスを出した。


「やばい、一之瀬につけ!」

「チャンス」


俺はニヤリとほくそ笑み、ゴールへ走り込む。

汐恩のマークが緩む。


「麗蘭!」

「遥くん!」


風夏は目一杯引きつけ、麗蘭にパスを出した。

麗蘭はすかさず、俺に出す。


「ウラぁ!」


俺はそのままシュートした。


「決まった...」


キーパーが飛ぶが間に合わないだろう。

俺は先制を確信し、拳を握る。


「ナイスキーパー!」

「嘘だろ!?」


寸前で弾いたキーパー、俺は声を張り上げる。


「何がナイスだ、このフィールドには俺がいるんだぞ」


ボールの落下点に走る汐恩。


「ほら、運まで俺の味方」

「先制」


汐恩は胸でトラップし、そのまま足を振り抜いた。

ボールはゴールへ突き刺さった。

そして、この後も汐恩は止まらず、5得点を叩き出し、俺たちは7ー0で勝利した。


「なぁ、風夏、デートしてくれよ」

「いや、死んでもいや」

「そこをなんとか」

「触んな!」

「風夏〜」

「下の名前呼ぶなぁ!遥斗〜!」


試合後、風夏に抱きつく汐恩。

風夏は蹴り飛ばした。

汐恩は倒れながら手を伸ばす。

風夏は俺に走ってくる。


「キモいから殺して」

「それは無理、風夏行こうぜ」

「うん」


俺は苦笑いを向けながら抱きつく風夏の頭を撫でる。

すると風夏はご機嫌になり、俺の右腕に抱きつく。


「私とも行こ、遥くん」


左腕には麗蘭。

さぁ、楽しいお昼ご飯の始まりだ。


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