第20話 球技大会⑥ すやぴ

「へぇ」


起床した俺はストレッチをしながらプロテニス選手のサーブ映像を見ていた。

もし、こんなサーブを打てたら梨依奈先輩と共に優勝出来るだろう。


「やってみるか」


俺はラケットを手にし、打ってみることにした。

家に投げ込みが出来るだけの庭があってよかった。


「ウラァ!」


空に向かって投げたボールをラケットで思い切り打つとボールはネットに向かって飛んで行く。


「下手くそ〜」

「うっさいな」


だが、ボールは急カーブし、壁に当たり、親父の車が停めてある辺りに跳ね返った。

歌恋がニヤつく。

俺は舌打ちした。


「やらせて」

「ダメ」

「私のが上手いから」

「尚更ダメ」


幼馴染より下手なんて俺のプライドが許さない。


「パパさんに言お、遥斗がパパさんの車あるのにテニスしてますって」


歌恋は窓を開け、俺にケツを向ける。

まずい、親父にバレたら殴られる。


「いいよ、やらせてやる」

「ありがとう」


俺はラケットを投げた。

歌恋は見事にキャッチし、微笑む。


「サーブはこうやって打つの!」

「おお」


華麗なジャンピングサーブを打ってみせる歌恋。

俺は拍手を送る。


「どんなもんだ」

「いや、今のままだとライナーで跳ね返ってくるだろ。」


ボールから目を離し、ドヤ顔の歌恋。

ボールはネットに向かって飛んで行っているがこのままだと壁に一直線だ。


「うそ!?」


壁に一直線に飛んで行ったボールはものすごい速度で跳ね返って来た。

歌恋は咄嗟によけ、ラケットを振った。


「バカ」


数々の強烈なピッチャーライナーをアウトにしたから歌恋が打ち返したボールを避けられるが普通は避けられない。

ボールは窓ガラスへ。


「遥斗!!貴様!!」

「俺じゃねぇ!」


当然窓ガラスは割れ、親父が怒り狂う。


「ごめんなさい!パパさん」

「流石にパパさん呼ぶからね」

「はい」


歌恋は申し訳なさそうに謝るが親父は許す気なし。

きっちり弁償させる気だろう。


「さきにやってたのは?」

「遥斗です」

「貴様!」

「痛っ!俺は割ってねぇだろ!

俺の打ったボールは親父の車の近くだ。」


歌恋が指差すと俺は思い切りぶん殴られた。

この親父、凛や姉貴は殴らねぇくせに俺だけガチで殴って来るから嫌いなんだ。


「貴様!俺の車に当てたかもしれないのか!」

「当ててねぇよ!」

「問答無用だ!」

「歌恋、テニスはもうやめよう」

「うん」


もう一発どころじゃなく、殴られまくり、ボコされた俺は歌恋に苦笑いを向ける。

歌恋は苦笑いを向け返す。


「あれ、凛どした?」

「眠い」


ソファでうつ伏せになる凛。


「ご飯は?」

「まだ」


クッションを抱きしめ、目を瞑る凛。

可愛い


「膝枕してやろうか?」


凛は小さい頃から膝枕が大好きな甘えん坊。


「うん」


凛は微笑み、起き上がる。

目は半分閉じ、身体はゆらゆら揺れている。


「膝枕しゅきぃ」

「おやすみ」


寝転がった凛は目を瞑り、すぐに寝息を立てる。

俺は髪を撫でながら優しい声色を放つ。


「凛ちゃん、すやぴか。可愛い寝顔だね〜」


珍しく早起きの姉貴が凛のほっぺをツンツンするが凛は全く起きない。


「あとちょっと寝てるままでいいから時間来たから言うね」

「あぁ」


朝メシを作りながら微笑むおふくろ。

ホントこの家の住人は末っ子の凛に甘い。

まぁ、こんなにかわいいからしょうがないか。

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