第14話 朝練

「ナイスボール!!」


歌恋の放ったボールが麗蘭のミットを鳴らす。

麗蘭は元気よく返球。

今日が試合ならと思うほど良い球だ。


「オッケー!」

「へぇ、上手いじゃん」


詩のボールもキャッチャーのミットを気持ち良く鳴らす。

ブランクを感じさせない良い球だ。


「きれきれ〜」


ましろは眠そうな顔でキレの良いカーブを投げる。


「あ、チャイム〜」


嬉しそうに声を踊らせたのはましろ。

眠そうだったし、心待ちにしてたんだろうな。


「おしまい、片付け〜」

「はーい」

「ナイスキャッチ」

「あ、うん」


グラブを外し、微笑む詩はキャッチャーにグータッチを求めた。

キャッチャーは微笑み返し、手を添える。


「先輩、ラスト一球」

「オッケー」


歌恋と麗蘭は無視。

ったく。

だが、俺は見守ることに。


「あぁ、ずっときまんない!この球!」


麗蘭の頭上を抜けた歌恋の球。

歌恋はマウンドを蹴り飛ばす。


「なんの球投げてんの?」

「カーブ、遥斗教えてよー」


カーブか。

カーブは俺の得意球だ。

カーブの申し子と言っていいくらい評価されていた。


「腕は上から下に振り下ろすから、腕を縦方向に速く、強く振ってみ。」


俺は軽くシャドーをしてみせる。

歌恋はうんうんと頷き、マウンドへ戻って行く。


「麗蘭先輩〜」

「はいはい〜」


帰り支度をしていた麗蘭だが歌恋に呼ばれるともう一度防具を着ける。


「こうで、こう?」

「そうそう」


俺の言った通りにするとフォームは完璧になる。

俺は微笑み、腕を組む。


「ウラァ!」

「ナイスボール!完璧!」


声を漏らしながら思い切り腕を振り切った歌恋。

カーブは完璧に近い精度で麗蘭のミットを鳴らした。

麗蘭は驚きのあまり、声を裏返した。


「やった!やったよ!遥斗〜!やっぱり凄い〜」

「ありがとう」


テンション爆上がりで俺に抱きついて来た歌恋。

俺は受け止め、頭を撫でてやる。


「いやー、歌恋のカーブ凄かった」

「な、あれだけで投げられるのが凄いわ」

「シャドーが見やすかったのかな」

「かもな」

「名コーチだね、遥くん」

「それほどでも」


そして、俺たちはそれぞれの教室へ戻った。

俺と麗蘭は席に座りながら話す。


「今度は私ね」

「あぁ」


担任が来ると俺達はウインクし合う。

さぁ、これから退屈な授業の始まりだ。


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