第9話 お泊まり①

「麗蘭、眠いのか?」

「ちょっとね」


部活を終え、帰路についているとあくびをする麗蘭。


「うち、泊まってくか?」

「いいの!?」


驚く麗蘭。

おふくろも親父も麗蘭なら大歓迎だろう。


「いいよな、歌恋」

「うん」

「来いよ、麗蘭」

「お邪魔します」


歌恋が了承し、俺が手を差し伸べると満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに手を握り返す麗蘭。

明日も当然学校だが氷室がいないため朝練はなし。

少し夜更かしするとしよう。


「麗蘭泊まるんだけど、良いか?親父」

「勿論だ。今日は寿司だな」

「やったー!作らなくていい〜!

パパありがとう〜!」

「この通り、理佐も大喜びだ遥斗」

「ありがとう、親父」


親父は嬉しそうに声を踊らせる。

麗蘭がウチに来るたび寿司にするのは何故だろうか。


「寿司だって」

「やったぁぁぁぁぁぁぁ!」

「楽しみ!」


歌恋は激しくガッツポーズし、雄叫びを上げ、麗蘭は微笑む。

ここまで喜んでくれるとなんだか俺まで嬉しくなってくる。


「麗蘭先輩、早くね」

「オッケー」


九条家に着くと麗蘭は階段を上がり、着替えや明日の準備物を取りに行く。

俺と歌恋は玄関に座って待つ。

ちなみにチラッと見えたが麗蘭の今日のパンツは白だった。

バチくそエロい。


「遥斗、見たでしょ、麗蘭先輩のパンティ」

「見てない」


じーと目を細める歌恋。

俺は真っ直ぐ見つめ返す。


「ホントにー?」

「ホント」


疑いの眼差しで顔を近づける歌恋。

俺は肩に触れ、遠ざける。


「遥兄見たのぉ?」

「見てない、てか、いたのか七海」


歌恋を遠ざけたのも束の間、今度は麗蘭の妹が顔を近づけてくる。

ちなみに七海は中3だ。


「さっき帰ってきた」

「おかえり七海〜」

「ただいま歌恋先輩〜」


微笑む七海を後ろから抱きしめる歌恋。

七海は微笑んだまま声を踊らせ、歌恋に身体を預ける。

この二人はかなり仲が良く、会うたびにこうして抱き合っている。


「あれ、七海少しおっきくなったね」

「やだ、先輩」


七海は中学生にしてはかなり大きい。

九条家はDNA的に大きいんだろうか。


「あら、七海、また歌恋ちゃんとイチャイチャしてるの?」

「あ、麗蘭ママさん、こんばんは」

「こんばんは〜」


麗蘭ママこと、九条麗葉さんがリビングから現れる。

麗蘭ママは実業家として名がかなり知られている。


「七海〜、揉まれるなら男の子の方が良いわよ〜」

「遥兄、揉みたい?」

「やめろ、バカ」


麗蘭ママの冗談を間に受け、頬を赤く染めながら聞いたこともないような妖艶な声色を放つ七海。

俺は視線を逸らした。

麗蘭にもこんな声があったりするのだろうか。


「お姉ちゃんが揉んであげる、七海。

それとお姉ちゃんの大事にしてるものには手を出さないこと。

それがルール。

Do you understand?」

「は、はい!」

「ギャァァァァァ」


怯えながらされるがままに胸を強く揉まれる七海は絶叫し、暴れる。


「行こっか、遥くん」

「あぁ」


倒れたままぜぇぜぇ言う七海から離れ、満面の笑みで微笑む麗蘭。

俺は声を震わせ、小さく頷く。

妹が絶叫しても自分が満足するまで手を緩めず、満足したら満面の笑みなのは怖すぎる。


「お大事に」

「お大事に〜」


七海はまだ起き上がれない。

ピンクの下着は丸見えだ。

俺と歌恋は苦笑いで手を振る。


「いらっしゃい麗蘭ちゃん」

「お邪魔します、お父さん」

「あと少しで特上来るからね」

「わぁ、嬉しい」

「歌恋、女って怖いな」

「うん」


親父と楽しそうに声を弾ませて話す麗蘭。

俺はさっきの光景を思い出す。


「そうだよ〜、特に麗蘭ちゃんみたいなタイプは怒ると手がつけられない。

覚えときなね、遥斗」

「姉貴から見て、麗蘭って怖いのか?」


俺から見た麗蘭は常に笑顔が絶えず、どんなやつにも優しい理想の女性だ。

だが、それは男から見た姿。

つまり、異性から見た姿である。

異性から見た姿と言うのは同性とは全く違う。

麗蘭のようなどんなやつにも優しい理想の女性は同性から見るとどう見えるんだろうか。


「しっかり見たことないからあれだけど、誰にでも優しいカーストトップほど、心の中は怖かったりする。

笑顔を作る才能がある子は特にね。」


これは男でも一緒だな。

優しいやつほど、何かの拍子でキレた時は怖い。


「麗蘭の笑顔は作り笑顔だと?」

「歌恋ちゃんのが詳しいんじゃないかな。

これ、女にしかわからないよ」


確かにそうかもしれない。

現に俺は麗蘭の笑顔が作り笑顔だと思ったことはないからな。


「なんとなく分かるかな。

私は皆に優しく出来ないからアレだけど、皆に優しいって、凄く大変だと思う。

ストレスやばそう」

「ほら。

遥斗、コーチになったなら麗蘭ちゃんが爆発しないように時々ガス抜きしてあげるのも重要な仕事だよ」

「あぁ」


俺は息を吐き捨て、麗蘭の背中を見つめる。

麗蘭がどんな気持ちで日々過ごしているのか知るのも指導には必要だ。


────────────────────


「お泊まりは嬉しいけど、歌恋、正直邪魔なんだよね」


私はお父さんに向けた笑顔を崩す。

最愛の人の家に来れたのは良いがあの幼馴染だけは邪魔だ。

どうにか出来ないだろうか。

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