第8話 風夏とアオハル

今日の体育はバスケ。

俺は男友達と話しながら麗蘭と風夏を見ていた。


「九条さんのポニテ可愛いー!

なぁ、遥斗、俺のこと紹介してくんね」

「クラスメイトだ、もう知ってるだろ」


クラスメイトで知らないとなるとよっぽど影が薄いか視界に入れたくないのどっちかだ。


「そうじゃなくて、俺のことどう思ってるかを聞いて欲しいんだよ!」

「ごめんね、小嶋くん、私、まだ恋とかそういうの興味ないの」


俺は麗蘭の口調を真似る。


「こじまじゃねぇ!おじまだよ!」

「鉄板ネタ披露出来たな、おめでとー」


お笑い芸人か、お前は。

俺は棒読みで返す。


「なぁ椎名、風夏って呼んだら怒るかな?」

「さぁ」

「呼んでみる!」

「がんば」


佐藤がわざわざ怒られに向かった。

バカか、こいつ。


「風夏〜」

「キモッ」

「フッ!」

「ロックオフ」


強烈に睨む風夏はボールを思いっきり投げ、中指を立てた。

素晴らしいコントロールだ。

ボールは顔面に向かって飛んで行く。


「風夏に罵られた、なんか気持ちぃ」


避けず顔面に食らった佐藤は倒れながらニヤつく。

キモい。


「なんかイラついてね」

「こいつのせいでな」


まだニヤつく佐藤を睨み続ける風夏。

これは女子が気の毒だ。

不機嫌風夏はバスケでえげつないプレーをするからな。


「エグ」

「何、あの綺麗な突破」


圧倒的スピードとテクニックであっという間に抜き去った風夏はパスをする気など毛頭ないのだろう。

ゴールへ突き進む。


「綺麗」


寸分の狂いもなく放たれたシュートを見たバスケ部が声を漏らした。


「風夏!ナイシュー!」

「ありがと♡」


俺は笑顔でいいねを向けた。

風夏は投げキッスで返す。

可愛い


「可愛い、流石トップ6」

「彼女にしてぇ」


男子の目にハートになる。

佐藤、お前は絶対に無理だ。

既に好感度がマイナス100を超えてる。


「勝負しよ」

「いいよ」


仕掛けたのは麗蘭。

麗蘭はほとんどのスポーツを経験者以上にこなせる。

風夏は微笑み、受け入れる。

全国最優秀選手VS2年No.1の運動神経を持つ女子野球界の至宝の戦いだ。


「抜かせない!」

「やるぅ」


先ほどより速いドリブルで抜こうとした風夏の動きは麗蘭に止められる。

二人ともまだまだ余裕がありそうだ。


「こっちなら?」

「まだ追いつけるよ」


逆方向に踏み込み、抜こうとする風夏。

普通なら抜けるが麗蘭は着いて行く。


「なら、正面!」


真っ直ぐ踏み込み、右手で後ろへと弾ませたボールを左手で捕り、踏み込んだ瞬間のパワーでスピードに乗せ、抜こうとする風夏。

麗蘭は右手に手を伸ばすがボールは逆方向だ。

誰もが抜いた、すげぇと思った。


「これが限界!でも、まだ追いつける!」

「うっそ、マジ!?、これで抜けなかったの全国にもいないんだけど!?

もう技ないんだけど!?」


麗蘭は風夏に追いついた。

風夏は驚き、声を張り上げる。

なんて瞬発力。

野球で日々瞬発力を鍛えているだけあるな。

周りは口を開け、ポカンとしている。


「そこだ!」

「なんてね♪」


手を伸ばす麗蘭。

風夏はニヤけ、唇を舐める。


「凄いじゃん。

でも、私のが凄い、本気見せてあげる」

「嘘」


風夏の醸し出す雰囲気が変わる。

麗蘭はビクッとなる。


「速すぎ...」


風夏は先ほどと同じ抜き方で圧倒。

麗蘭は尻餅をつきながら振り返り、スピードに乗ったままレイアップを決めた風夏を見つめる。


「すっげ」

「怪物やん」


思わず拍手してしまう俺たち。

まるでNBAを見ているようだった。


「ふぅ」


授業が終わると風夏は身体を伸ばしながら俺の元に走ってきた。

俺は軽く手を上げ、買っておいたスポドリを投げた。


「ありがと、昼休みは私があげるね」


見事にキャッチし、微笑む風夏。

良い匂いがする。


「遥斗ー」

「うん?」


更衣室まで歩く道中。

急に名前を呼ぶ風夏。

俺は首を傾げる。


「遥斗ー、遥斗ー」


風夏は笑いながら続ける。

ったく何が面白いんだか。


「だからなんだよ」

「呼んでみたくなった。なんかさ、二人きりで更衣室まで歩くっていいよね。」


風夏は微笑み、スポドリを開け、一口飲む。

確かにTOP6と二人きりなんて中々体験出来るもんじゃないな。


「なんだそれ」


俺はクスッと笑う。

二人きりが特別なのはわかるが急に名前を呼ぶのはマジでわからん。

流行ってるのか?


「アオハルだよ、知らないの?」

「知らん」


そんなアオハルは見たことも聞いたこともない。


「なら、教えてあげる。こうやって二人きりで歩くのをアオハルっていうの。

誰にも邪魔されない時間って特別じゃん」

「確かに」


誰にも邪魔されない時間か、特別なのは。

そうか、こういう時間も今しか味わえないんだよな。


「だよねー」

「冷て!」


風夏は俺の頬にスポドリを当てる。

俺は驚き、風夏から距離を取った。


「自販機で新しいの買ってくれてありがとー」


風夏は距離を詰め、満足そうに満面の笑みを浮かべている。


「風夏」

「うん?」

「お返し」

「冷た!」


俺は風夏からスポドリを奪い、お返しした。

風夏は楽しそうに驚く。

これもアオハルかな。







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