第4話
■
<下屋敷さんの家>
「今日まで面白いくらい想定通りの反応で驚いています」
「ものすごく疑ってたよ。指輪とかお弁当のこと」
「ふふっ……。明らかに挙動不審でしたね」
口に手を当てて笑う下屋敷さん。
この一週間ほど2人で話している時も恵美は指輪の方を数え切れないほど見てきてたし、お弁当も食べている時は聞こえなかったが何かをブツブツと呟いていた……。
「予定より早いですけど次に進みましょう。次からは岩成さんにも仕返しをしていきます」
いよいよここからは恵美の浮気相手である岩成くんにも仕返しをしていくようだ。
「次は何をするの?」
「押沢さんと岩成さんに喧嘩をしてもらって、春日井くんに押沢さんを助けてもらいます」
「えっ喧嘩?」
「はい」
「……それって上手くいくかな?」
今回の作戦は難しいと思う。
そんなに都合よく二人が喧嘩をするなんて考えにくい。それこそ下屋敷さんが人の心を操られるなら別だけど……。
「大丈夫です。あの二人は近いうちに必ず喧嘩をしますから」
僕の心配とは裏腹に自信満々に言い切る下屋敷さん。
「か、必ずって」
「大丈夫です。私を信じてください」
「……うん。わかった」
僕は下屋敷さんを信じることにした。下屋敷さんのことだから何か二人が喧嘩をすると言い切れる根拠があるのだろう。
「あっ下屋敷さん、一つ聞きたいことがあるんだけど……」
「あら何でしょか?」
「僕のお弁当って誰が作ってくれてるの?」
「私の家で雇っているシェフが作っています。……もしかして美味しくなかったですか?」
「ううん。ものすごく美味しかったから。それに僕の好きなものとかばっかりだったし」
作ってもらっているお弁当は彩りも良くとても美味しくて僕の大好物がたくさん入っている。
「そのシェフの方にお礼が言いたくて。こんな美味しいお弁当を作っていただいているから」
「そうですか。あいにく今日は不在なので私から伝えておきますね」
「ありがとう」
この後も他愛のない話をして下屋敷さんと楽しい時間を過ごすことができた。
「…………ふふっ。喜んでくれてよかった」
□■□
<通学路>
最近、恵美の付き合いが悪い。
何回かデートに誘ってみるが『今は忙しい』と断られてばかりだ。少し前は誘ったら彼氏に嘘を吐いてでもオッケーしてくれたのに。
「おい」
家までの近道の裏道を歩いていると悪そうな雰囲気が漂っている三人組の男たちに声を掛けられる。三人とも体も大きくがっしりとしていて、威圧感がある。
「お前、岩成俊介か?」
「……そうですけど。何か用すか?」
何で俺の名前を知っているんだ? こんな怖そうな人たちと知り合った覚えはないけどな……。
男たちは小言で何かを確認し合い頷くと、突然男たちの中の一人が俺の腹を殴ってきた。
「ぐふっ……!!」
あまりの痛さに地べたに膝から落ちてしまう。上手く息ができない……。
「かっ……い、いきなり何すんだよっ!?」
男たちに問いかけるが返事はかえってこず、そのまま一方的に殴られる。
「……やめっ……くっ……かはっ!?」
な、なんだ…………な、何で俺はいきなり会ったこともない男に殴られてるんだ? 反撃することもできず、終わらない暴力の嵐を必死にガードをする。
「あなたたち何をしているの?」
「あん?」
女性の声が聞こえ、殴っていた男たちの手が止まる。
「関係ないだろう。引っ込んでろ」
「…………警察を呼びますよ」
男たちに威嚇されるも女性は怯むことなく堂々とした声を発する。
「ちっ……逃げるぞ」
男たちは女性を睨みつけるとそのまま逃げて行った。男たちがいなくなった後、女性がこちらに近寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
「…………し、下屋敷さん」
助けてくれた女性はうちの学校の有名人である下屋敷さんだった。下屋敷さんがどうしてこんなところに……。
「傷だらけですね。病院に行った方がいいかもしれません」
「い、いやこれくらい…………」
下屋敷さんの言う通り傷だらけではあるが、病院に行くまではないほどだ。痛みに耐えながら立ち上がる。
「あの人たちと喧嘩でもしていたのですか?」
「喧嘩じゃない。あいつらから一方的に殴られたんだ……」
「まあひどい。あの人たちに殴られる心当たりは?」
「何もない。……何もないのに殴られたんだ」
「そうですか…………」
…………本当に何も心当たりがない。第一、あの男たちとは今日が初対面だ。
「もしかすると…………。いや、あり得ません。すいません、忘れてください」
下屋敷さんが何か心当たりがあったようだが、少し考えた後首を振る。
「こ、心当たりがあるのか?」
「…………」
「教えてくれ。お願いだ。下屋敷さんに教えてもらったことは絶対に誰にも言わないから」
このまま只々殴られて何もしないなんてあり得ない。…………絶対にやり返してやりたい。
必死に頭を下げると、下屋敷さんは数秒悩んだ後口を開く。
「………………岩成さん。実は――」
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