第3話
◼️
<下屋敷さんの家>
「今日で押沢さんと距離を取り始めてから三週間ですね」
「うん……」
この三週間、朝は通学路でなるべく会わないように早めに家を出て、もし出会ってしまっても極力話さず、ご飯や登下校に誘われても適当に理由をつけて全て断った。
「そろそろ次のステップに進みましょう」
「次は何をすればいいの?」
「はい。春日井くんには明日からこれを付けてほしいのです」
見せられたのはとても綺麗な指輪だった。
「これって指輪だよね?」
「春日井くんには明日から女性の影を匂わせてもらいます」
「ど、どういうこと?」
「急に春日井くんがこのような指輪を付け始めたら、押沢さんはきっと不思議がりますよね」
「う、うん。指輪なんて付けたことないから」
「そこに加えて明日からは私が春日井くんのお弁当も用意します。なので明日からはお弁当を持参していただかなくて大丈夫です」
「そんなの悪いよ。下屋敷さんの家も忙しいのにお弁当を作ってもらうなんて」
「大丈夫ですよ。使用人はたくさんいるので、弁当が一つ増えたところでそんなに変わりません」
確かに下屋敷さんの家には人がたくさんいる。使用人さんだけでも10人以上はいると思う。
「これも仕返しのためですよ」
……これも仕返しのため。
「じゃ、じゃあお願いしてもいい?」
「もちろんです」
申し訳ない気持ちが強いけどここは下屋敷さんに甘えさせてもらおう。
「今回は押沢さんに春日井くんが他の女性と親密になっているという疑いを持ってもらえれば成功です」
「わかった」
「大丈夫です。私を信じてください。この仕返しは必ず成功します」
■
<通学路>
「千尋、おはよう!」
「おはよう」
朝からとても元気な声で挨拶をする恵美。
「久しぶりだね一緒に登校するの! 最近、千尋一人で行っちゃうから寂しいよ」
今日は昨日の下屋敷さんの作戦を実行するためにわざと恵美がいつも通学する時間帯に家を出た。
「あのね話したいことがいっぱいある……千尋、どうしたのそれ?」
もう気づいてくれた。恵美が僕の付けている指輪を指さす。
「もらったんだ」
「誰から?」
「友達だよ」
「本当に? その子本当に友達?」
「うん」
「……そっか。そうだよね。友達だよね。ごめんね変なこと聞いて」
さっきまでの元気はどこかに行ってしまった恵美。結局恵美はこの後、僕に話しかけてはくれるがいつもとどこか様子が違うように感じた。
■
<昼休み>
「千尋、今日は用事ないよね。ご飯食べよう?」
「うんいいよ」
「えっほ、本当に!?」
この三週間は何か理由を付けて断ってきたけど、今日は朝の指輪と一緒でお弁当を恵美に気付いてもらう為に誘いを受け入れる。
「やった! 誘っておいてなんだけどてっきり今日も断られるかと思ってたんだよー……あれ? それいつもの弁当箱じゃないね」
弁当を取り出すと恵美がすぐに気づいてくれる。
「うん。今日作ってもらったんだ」
「そうなんだ。お姉さんに?」
「ううん。友達だよ」
「へえ。…………その友達ってさ、もしかしてその指輪の子と一緒?」
「そうだよ」
「それって女の子だよね?」
「……うん」
さっきまでの明るい表情から曇りが見え始める恵美。
「……千尋、その子とあんまり仲良くしてほしくないかなって」
「どうして?」
「だって千尋には彼女の私がいるのにさ、弁当作ってくるとか……ちょっと変じゃん」
「そうかな?」
「そうだよ。…………絶対おかしいもんそれ」
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