第38話 アメリス、気づく
「とりあえず目下の問題は二つね」
私は三人に向かって指を二本立てて、前にずいと腕を伸ばした。
とりあえず事情があれよあれよと進み、ヨース村の人間を解放することには成功したので(私のおかげではないが)、とりあえずタート村のみんなはこれからヨース村の人々と協力して生活を営んでくことになる。だから彼らに関してはひとまずの解決をみた。
しかし、だ。
私たちにはまだまだ問題は山積みである。
「第一に、お母様たちがどう動くかがわからないところが怖いわね。いくらマスタール州とマルストラス領で挟み撃ちにしてるからといって、動かないとは限らないわ。ペイギは大丈夫と言っていたけど、正直不安要素は拭えないわよね」
私がそう言うと、アルドが「確かにそうですね、私たちが前線に派遣されたように、テレース様の動きは読めません」と返事をした。
「でもアメリスさん、これに関しては手の打ちようがあるんですかね。一応アメリスさんはマスタール州で保護できたし、今のところは相手の出方を伺うしかない気がするんですが」
そこにロストスが口を挟む。確かに。彼の言うことはもっともだ。ロナデシア領が動かない限り、私たちが動く必要はない。
「そうね、こっちの問題は様子見が最善かも」
私は彼の言葉に頷く。するとロストスは少し誇らしそうな顔をした。それをヨーデルが睨みつける。相変わらずの仲の良さだ。
彼らの微笑ましい光景に少し笑みが溢れそうになりながら、私はもう一つの問題を口にした。
「二つ目の問題はやっぱりヨース村を恐怖に陥れた女性になるわよね。宗教指導者らしいけど、狡猾に行方をくらませているらしいし」
「ええ、結局ナゲル連邦内をうろちょろしているらしいんですけど、どうにも正体をつかめていません」
ロストスが付け足す。
「それに……あの男が言っていたことも気になるわ」
私はてっきり草の出所を辿れば、宗教指導者である女性にたどり着くと考えていた。しかし実際にはあのおとぎ話にしか存在しないような魔法を使う、謎の男にたどり着いた。
しかも男はなぜか私のことを知っているような口ぶりで話し、魔法が効かないだの淫魔だの訳のわからないことを捲し立てて、挙げ句の果てに村の人々を解放した。
うん、これも考えてもダメそう。
そもそも男の行動原理がわからない。結局何がしたかったのかが何もつかめない。
あいつは言った、私の紡ぐ物語を見せてくれと。
だからもしあいつのことを探ろうとして動いたとして、どうしても彼の手のひらで踊らされてしまっているようで、どうにも恐ろしかった。
「私にとってはそれが一番気になります。もし男がテレース様やバルト様のことを知っているなら、何か重大な秘密を握っているととってもいいような口ぶりだと思います」
「ええそうね……でもこちらからできることなんて、せいぜい探索を出すくらい。それさえもさっきみたいに兵士たちが操られるリスクを考えると、やめた方がいいのかもしれないけど」
思わずう~んと腕を組んで唸り声を上げる。これではこちらからできることなど何もないじゃないか。私が呼び込んだ問題だからどうにかして動きたいのに。
「私は立ち止まってる場合じゃないのに……!」
悔しさで思わず歯噛みする。するとヨーデルが、
「俺は少し立ち止まってもいいと思いますよ。アメリス様はここまで常人なら耐えられるはずがないほどの困難に遭遇してきました。俺だったらとっくに諦めてますよ。テレース様からは冷たくあたられ、アサス様とマリス様とさんざん比べられてきました。ここらで一息ついたってバチは当たりませんよ」
とまるでコーヒーに溶かした砂糖のように甘い声色で語りかけてくる。ロストスとアルドもそれに同調して、うんうんと頷いている。
確かに私はここまでがむしゃらに突っ走ってきた。どんな困難にも立ち向かってきた。そして、そうあらねばならないと思っていた。
でも、そんな風に優しい言葉をかけられてしまうと、少し休みたくなってしまうという気持ちがあるのも嘘ではない。
お母様にだっていじめられてきたし、それにお姉様にも……。
そこまで考えて、私はふとアサスお姉様について、少し違和感を覚えた。
あの人は何よりも利益を重視し、何よりも効率を重視する。そんな人が隣り合う二つの地域からこんな目に遭わされていて、平気でいられるのだろうか。この状況が生む被害総額は計り知れないものだろう。
……もしかして、つけ込む余地があるんじゃないかしら?
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