第30話 アメリス、猪突猛進
私が三人に力になってくれるように頼むと、彼らは二つ返事で承諾してくれた。
「それじゃあまずは僕が持っている情報から話しましょうか。他の二人よりも僕の方が詳しいはずですし」
するとロストスはズボンのポケットから手帳を取り出して軽く目を通しながら語り出した。
「ヨース村の人間を連れ去った宗教指導者のことですが、正直正体が掴めていません。ナゲル連邦内のマスタール州以外の場所でも似たような事件は起きているそうですが、それが一人による反抗なのか、それとも大きな組織によるものなのかは判明していないのです」
「じゃあ分かっているのは女性ということと商人に変装していたということぐらいなのね」
他の地域でも同じような事件が起きているのだとしたら、組織的な犯罪である可能性が高いと思うが、これだけ上手く言葉巧みに村の人間を騙しているのだ、一人の犯行という線も捨てきれない。
「とりあえずマスタール州としては、さらに捜査の手を拡大することにします。ローナの情報を元に犯人の人相を書いた手配書を町中に掲示するのも有効かと」
「ありがとう、お願いしてもいいかしら」
私がロストスに言うと、お安いご用ですと言って再び手帳を開いてペンを走らせ始めた。
「ロストスの協力は嬉しいんだけど、他にも何かできることはないかしら」
こめかみをぐりぐりと押しながら、何か見落としていることがないかを考える。
「他の手がかりとなると、俺が作物を下ろしていた店か、作物の種をくれた旅人ということになりますね」
腕を組んでどっしりと構えているヨーデルが言った。確かに、あの店なら直接的な足取りがつかめるかもしれない。一方で旅人の方はだいぶ前にタート村に訪れたのだ、何かを得ることは難しいだろう。
「それじゃあ、早速あの怪しいお店にみんなで詰め掛けましょう! 数で押し通せば逃げられないはずよ!」
なんとか一本の糸を手繰り寄せることができた。ならば行動あるのみであると思い、早速移動しようとして立ち上がったが、アルドに服を引っ張られて再び床に座る姿勢に戻ってしまった。
「ちょっと、何するのよ!」
私がアルドの方を向くと、先ほどよりも眉間に皺を深く寄せてため息をついてから、
「だ、か、ら、どうしてあなたはいつもいつも突っ走ろうとするんですか。その度胸はあなたの素晴らしいとところですけど同時に短所でもあるんです。もっと深く考えてから行動してください」
と嗜めるように言った。そう言われて私は少し頬に熱が帯びたのを感じた。先ほどもローナの件で突っ走り過ぎだと言われたばかりなのに。ああ、自分の短絡さが嫌になる。
「それもそうかもしれないわね、でも早めに行動に移すに越したことはないんじゃない?」
アルドの考えには一理ある、しかしながら私の考えだって一応筋は通っていると思うのだ。
「よく考えてください、そのまま押しかけて何も吐かなかったらそれまでになってしまうじゃありませんか。私たちが追わなければならないのはより大きな全体の流れであって、その薬屋を問い詰めることじゃありません。ただの下請けの可能性も考えられますしね」
「……たしかにそうね。じゃあ早速あの薬屋を見張りに行きましょう」
アルドの意見がもっともだ。私たちの敵が何なのか全体像が掴めていない段階で直接的な行動は危険だし、トカゲの尻尾切りのように逃げられてします可能性だってある。彼の考えにしたがって薬屋の尾行に向かおうとして立ち上がると、またもや洋服を掴まれて阻止されてしまう。重みを感じた方を見ると、今度はヨーデルが服を引っ張っていた。
「ちょっと、あなたまで何よ。もう問題はないでしょう?」
こうしている間にも薬屋は逃げる準備をしているかもしれないし、それにヨース村の人は苦しんでいるのかもしれない。私には立ち止まることなど許されていないの!
「だからってアメリス様がいくことないでしょう。他の村人や兵士たちに任せるべきです」
ヨーデルは私が座った後も、私が逃げるのとでも思っているのか服を掴んだままだ。
「でも、やっぱり私が動くべきだと思うの。私がローナと約束したんだしそれに……」
やはり私が危険であっても一番に立って行動しなければならないと思うの。そう言おうとした時であった。
「……でもアメリス様、これまで結構思わぬところでドジ踏んでますよね?」
ゔっ。
痛いところを突かれてしまった。ヨーデルがじっとりとした視線を向けてくる。
もちろんそんなことはないと反論したかったが、思い当たる節がありすぎるのだ。ロストスと出会ったのも私が無闇に定食屋さんに入ったからだし、お父様を蹴り上げて問題をややこしくしたのも私だし、虫に驚いて声をあげてさらにつまずいたせいでアルドたちにも見つかった。
事態はたまたま最悪をくぐり抜けてここまでやってきたが、一歩間違えば死んでいてもおかしくない場所が多々ある。
アルドやロストスに助けを求めようとして彼らの顔を見るが、うんうんと頷いて何かを噛み締めるかのように同意をしているだけであり、助け舟どころかヨーデルの発言の追い風になっていた。
「……わかったわよ。ひとまずは兵士たちの中から偵察に優れている人を見張りに派遣しましょう」
私が苦笑いしながらそう言うと、三人ともそれがいいそれがいいと全力で肯定してきた。今までは自分のやりたいことを通してきたが、今回ばかりはそうもいかないらしい。
そして何より、今回も何かやらかさないかと言われて、絶対大丈夫と言える自信がなかった。
もしかして私ってドジっ子なのかしら。
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