第29話 アメリス、追求される

「それで、救うと言ったってどうするつもりなんですか?」


 向かいに座るロストスは私に言った。ローナは緊張の糸が切れてしまったのか、話終わるとすぐに眠ってしまった。アルドたちに頼んで彼女をベットまで運んでもらい、今はすっかり夢の世界だ。私みたいにへんな夢を見てなければいいけど。


「それは……」


 私は一旦言葉を区切り、一息おいた。三人も固唾を飲んで私の発言に注目している。責任重大だ、しっかりと舵を取らなければならない。だが、そんなことが頭で分かっているからといって全てを見通すほどの頭があれば、追放などされずに策略を張り巡らせていただろう。だから、正直に彼らに言った。


「……何にも考えてなかったわ」


「「「はあぁ?」」」


 三人の息がピッタリと揃って、床から立ち上がり私に詰め寄ってきた。三人の視線が痛い。申し訳なさでいっぱいだが、口をもごもごさせて目を逸らすことしかできない。


「ならなんであんな大見えをきったんですか?」


 まずはヨーデルの追求の矢が飛んでくる。


「だって、可哀想じゃない! だからついどうにかしなきゃってなって、勢いで……」


「勢いで問題が解決できるならもうとっくにマスタール州が解決してますよ!」


 ロストスがヨーデルの援護をする。二人の仲の良さが滲み出ているわね。


「でも……」


「でもじゃありません! 昔からその場の感情で動く前に一考しなさいと言っていたでしょう」


 アルドがトドメを刺してくる。グサグサとめった打ちにされてしまい、もう私の心はボロボロである。何よ、確かに考えなしに行動したのは事実だけどそこまで言わなくてもいいじゃない。今回の無鉄砲な振る舞いは私が悪いかもしれない、でもだからって目の前の可哀想な少女を放っておいていいっていうの?


「なら私にあの子を、ローナを見捨てろっていうの? そんなことできるわけないじゃない! 目の前で苦しんでいる子がいるのに救いの手を差し伸べるのに理由なんていらないわよ!」


 またやってしまった。完全な逆ギレだ、そんなことは分かっている。だが言わずにはいられなかった。これが私の、アメリスの貫いてきた信念だから。


 私は迫ってきている三人の顔をゆっくりと見回して、一人一人目を合わせて想いを伝えようとする。何と反論されるかと思い覚悟をしたが、追求の言葉は飛んでこなかった。


 三人は表情を変えることなく、ポカンとした表情で私のことを見つめている。まるで信じられないものを見ているかのようだ。


 一体どうしたの。そう言おうとして口を動かそうとした時だった。


「アメリス様らしいというか、本当に真っ直ぐな人ですねあなたは」


「全く、アメリスさんはどんな時も変わりませんね。これだから僕はあなたに惚れてしまったんだ」


「いつもあなたに振り回されるこちらの気持ちにもなってください。でもそんなあなただからこそ、私や兵士たちもついてきたんですけどね」


 三人は口々にそう言うと、押さえていたものを解放するかのように笑い出した。


「ちょっと、なんで笑うのよ。私は真剣なのよ!」


 なんだか馬鹿にされているような気がして、嫌な気持ちになる。失礼しちゃうわ。


「すみませんアメリス様。別にあなたのことをからかっているわけではありません。ただ、アメリス様はいつでもアメリス様だと思っただけですよ」


 ヨーデルがそう言うと、二人も同意した。


「じゃあ三人とも怒っているわけじゃないのね?」


 私がそういうと、三人とも頷いてくれた。笑われたことは釈然としなかったが、三人とも私のことを責めるつもりはないらしい。


「それなら私と一緒にこれからどうすればいいか考えてくれない? 確かにあなたたちの言う通り、無策のまま突っ走ったことは良くなかったと思う。でもその選択を私は後悔していないし、間違っていたとも思わない。だからあなたたちの力を、知恵を借りたいの」


 ローナのことを諦める道に進むことなどあり得ない。私は三人に力強く声を張り上げて言い放つ。私だけでは何もできない、でも彼らがいてくれる。これはローナにも言ったことだ、一人ではダメかもしれないが、二人なら何とかなるかもしれない。私と彼らがいれば、どんな困難も打ち破れるに違いない。


 私がそう言った時、ふとベットの方から音がした。もしかしてローナのことを起こしてしまったのかしら。


 ベットの方を見ると、彼女は天使のような寝顔でむにゃむにゃと寝言を言っていた。どうやら寝返りを打っただけらしい。あれだけの声を出して起きないということはよっぽど疲れていたのだろう、夜も満足に眠れない日が続いていたのは想像に難くない。


 ベットのそばにある窓からは光が差し込んでいる。暖かい日差しは、疲れ切った彼女のことを優しく包み込んでいるようであった。

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