第5話 八月六日

あれから一ヶ月以上の時が経ち、俺たち家族は北海道への避難は完了していた。


しかし吉田さんと出会ったあの日から柚木のことを探してみたがついに見つけることは出来なかった。


柚木のご両親は事故で他界してしまっているため家にいるのはおばあちゃん一人である。


柚木のおばあちゃんを訪ねても、柚木のことは『知らない』の一点張りで全く話にならなかった。


ボケてるんじゃないかと思った俺は柚木のおばあちゃんも一緒に北海道への避難を決めた。




「ついに宇宙人侵略の前日まで来ちまったよ、、、柚木のやつほんとになにしてるんだ」


その時柚木のあの言葉がちらついた。


【『私、あいつら倒してくる!!』】


「ハハッまさかな、、ついに地球が滅亡する前日になってヤキが回ったか、、」


と思わず自分への呆れ笑いが溢れる。


途端に心配になり柚木への鬼コール、しかし応答はなし。


「流石に北海道に来てなきゃやばいぞ」


正直どこが安全かはわからないが、全世界の勢力を持って軍隊が東京中に集まってるのを考えれば断然北海道の方が安全である。


「おいばあさん!!ほんとに柚木の場所知らないのか!!」


『知らんと言っておろうが!!!たとえ知っていてもお前なんぞに教えてやらん!!』


な、なんだよ急に、、今まであんなにおとなしかったのに、、


「ばあさん、、さては、知ってるな、、??」


『ゆず、、、、ゆず、、、、、』


だめだこれは、もうばあさんに頼るのはやめよう。

「もう一度避難所を探してみよう。俺たちの区画から避難しているなら近くにいるはずだ!!」


「柚木ーーー!!いるなら返事してくれ!!!」


いままで出したことのないほどの大声で叫んで探し回った。


『あ!!京一郎!!』


「柚木か!!」


そう俺の名前呼ぶのは驚いた顔をした吉田さんだった。


『京一郎!!やっぱり柚木を探してたんだね!!』


「ああ!あいつ一人じゃ何もできないだろ!!だから心配で!!」


『京一郎くん、、実は、、、』


吉田さんは急におとなしくなったような小さな声で話し始めた。


『実は、、、実はね!!私、柚木にあったの!!』


「え!本当か!よかった〜じゃああいつは北海道にいるんだな??」


『違うの、、私が会ったのは千葉でなの、、。』


「は!?じゃああいつは何してんだよ!?」


『柚木ね、、東京に残るんだって、、、東京に残ってあいつら倒すんだって、、、』


そう言って泣き崩れる吉田さんの前で俺の頭は真っ白になった。


「う、うそだろ、、、あいつ、、本気でそのつもりだったのかよ、、しんじらんねえ、、。」


「だいたい、、残るっつったってあいつには何もできないだろうが!!」


『柚木はね!!!!超能力者なの!!!!!』

「は???」

『4ヶ月前くらいから突然使えるようになったんだって…それもこの時のためだったんだって…』

もう自分では処理しきれなかった、、こんなとこ突然言われて納得できるなんてそれこそ超能力者か何かだろう。


「意味わかんねえ、、だいたい、そんなこと俺には一言も、、」


『言ったって!!でも!!信じてくれなかったって』


「そ、そんな、、」


『泣いてた、、、』


俺は膝から崩れ落ちた。


「俺あいつの泣いてる姿なんて一度も、、いや小学生の時以来見てないぞ、、。」


そこまで追い詰めてしまっていたのか柚木のことを、あんな、馬鹿げた信じられないような言葉を信じてやらなかったことに深く後悔した。


「でも!!それでもあいつが俺に会いに来なかった理由にはならないだろ!何か一言言ってくれてもよかったんじゃ無いのか!?」


『柚木ね、嘘、つきたくなかったんだって。』


『もし一緒に北海道に逃げるって言ったら嘘になるから、京一郎には絶対に嘘つきたくないんだ、だから会わないって。」


そこで俺は今までの柚木との会話を思い出した。


「あいつは、、何一つ嘘なんかついてなかったんだ!!」


こんなに後悔したままあいつを東京に置き去りになんかできない。


「吉田!おれ!東京いく!」


「おれ!あいつ連れ戻さなきゃ!!」


そう決意した俺はすぐにおばあさんの元へ向かった。


「ばあさん!すまなかった!!あいつのこと信じてやらなくて!!」


『全て知ったんじゃね、、ゆずのこと。』


「いや、俺あいつのこと何にもわかってやれてない!だからこれからもっと知りたいんだ!」


「だから、、すまなかったそれだけ!じゃあ!!」


「まちな!あんたは覚えとらんのかね、ゆずが小学生の頃のこと、、』

「小学生の頃???」


『あの子な、あの時両親とのドライブ中事故にあったじゃろ、、そこであの子だけ助かったか頬にその時できた大きな傷が残っとるじゃろ。』


『まだ小さかったあの子は両親の死を受け入れられずその傷のことを大きな怪獣にやられたんだ!!ってずっと言い張ったったんじゃ。』


『そのせいであの子はクラスで浮いてしまっていてな、、でもその時にあんたが言ってくれたらしいんじゃよ


「柚木!俺は何があってもお前を信じてるぞ!でっかい怪獣と戦ったんだってな!お前すげえじゃん!」


とな。』


今でもあの子は覚えとったぞ、嬉しそうに話すんじゃ。


【あの時の私にとっては私のことを全力で信じてくれる人がいるだけで心強かっんだ!でもあんな嘘信じちゃうなんてほんと京一郎って素直すぎるよね!!もう京一郎には絶対に嘘なんか付けないや!】ってな。当の本人は忘れとったようじゃがの。』


「そっかぁ、、ごめんなぁ柚木ぃ」


『謝るんなら直接言ってきな!』


「うん、、、、!わかったよおばあちゃん!!」


そうして俺は柚木のいる東京へ向かうことを決意した。


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