第49話 素材
「それで、あそこまで泳がせた理由は?」
僕は天の声に詰め寄った。
「だって、あんなムネアツ展開、終わらせられるわけないだろうが!」
「その熱意何なんだよ……」
僕はあきれ顔を披露しながら言った。
ただ、呆れというか怒りを抱いた女が一人いた。
「それで、これは何?」
「何って、楽しかっただろ?」
「楽しかったけど、心臓に悪いし、ストレス溜まるし、来栖は大怪我するし。ロクな世界じゃなかったわよ!」
「いや、別に俺だって好春を怪我させようなんて思ってなかったんだよ。中島看守長のキャラ設定的に過激なキャラクターだから、拳銃も平気で撃っちゃうんだよ」
奏真の言葉でゲームの裏側を見た気がして、ゲームクリアの余韻から冷めるところだった。
「見てたわよね、しずく心配で泣き崩れそうだったのよ?」
「だって、俺がゲームに介入したら面白くないでしょ⁉ おれだって胸痛かったわ!」
それは確かに、と思ってしまう自分がいた。
しかし、許さない人もやっぱりいて。
「奏真君、ハルくんを傷つけるようなことはしないで欲しいな~」
「だから、それが防げたら防いでたって!」
奏真は頑なに意見を変えようとしないから、僕が茶々を入れる。
「————素直に謝ったらどうなんだー!」
「お前はだまっとれ! 大体、中島看守長が銃を構えてる間、何で避けないんだよ!」
「お前分かって無いな。あれ避けてたら、あいつが腰を抜かすことも無かったし、もしかしたらゲームオーバーだったかもしれないんだぞ?」
「それでも、余裕の笑みで仁王立ちって。カッコいい通り越してもう恐怖だって!」
奏真の言葉に熱がこもっていた。どうやら本気で興奮していたようだ。
「それに、お前どんだけダクトから抜け出して、脱獄情報集めんだよ! カッコよすぎかよ!」
「まあ、俺もそうだけど、しずくも鳴宮も協力したからだからな」
「確かに、紫音の看守塔攻略も良かったな。月待ちゃんも何回監視カメラの停止すんだよって見てたわ!」
結局誰が一番興奮してるかって、このゲームの企画者だよな。
「1個聞いていいか?」
「うん、どうした?」
「クエストあったじゃんか。あのペンダントってどこにあったんだ?」
脱獄した後もずっと心残りだった。あらゆる場所を探索したが、最後まで手掛かりは無かった。
「あー、あれブラフなんだよね。ほら、中島看守長にスパイっていたでしょ? そのうちの一人なんだよ」
「えっ⁉ 嘘、その人のためにリスク取ってたの僕」
「ああ。まあ、分からなくもないけどな……」
奏真は哀れみな目線で僕を見る。
「でも、内村と島内の交際にたどり着くのは凄いな。あれ隠し要素的に入れといたんだよ。だって知らなくても脱獄自体は成立するからな」
確かに、最後のクエストは僕の好奇心で答えを求めに行った結果だった。
「本当、いいもの見せてもらったよ」
「へいへい。それはよござんした」
僕はテキトウに返事した。
「そこで4人に相談なんだけど――――」
「なんか嫌な予感がするわね……」
鳴宮が相槌的に言う。
「今回の映像をyoutubeにアップさせてくれない?」
「嫌だ」
「絶対に嫌」
「私も嫌かな~」
「私は別に良いけどねー!」
4人の意見はこのように分かれた。
これを受け、奏真が下した決断は――――
「じゃあ、上げてオッケーって感じか!」
「お前、民主主義無視すんなよ……」
「じゃあ、少数意見の尊重は無いのかい?」
「多数意見無視してるじゃんか」
僕が言うと、奏真は返す言葉が無い様子だった。
「お願い! 報酬もきちんと渡すからさ。いいでしょ~?」
「いくらかしら?」
「まあ、それはおいおい相談という事で」
鳴宮は案外納得した様子だが、しずくが未だ折れそうにない。
「ハル君がいいなら良いけど、やっぱり恥ずかしい部分も強いかな~」
「そうか。編集とかで何とかなるだろ?」
「なるんだけど、絶対に出したい部分がほとんどなんだよね」
奏真は食い下がると、しずくは悩んだ挙句、了承する決断に至った。
「分かった。そこまで必要なら使っていいよ~」
「大丈夫なのか? 無理しなくてもいいぞ」
「いいよ。見る人が楽しんでくれれば」
「しずく……」
僕はしずくの寛大さに感銘を受けた。
奏真も、土下座をするほど喜び感謝した。
「奏真、そろそろ現世に戻してくれ」
「ああ、分かった。じゃあ――――――」
奏真が僕らを先導しようとした時、言葉を遮った女がいた。
「なんで誰もウチに触れてくれないのー?」
遊馬がそう騒ぎ立てる。
明確にしておきたいのだが、彼女にも役割はあった。
鳴宮と話し合ったが、看守と信用構築のために清廉潔白な人が必要だった。
「そうね……」
「ねえ、ウチにだっていいとこあったでしょー!?」
「あ、ああ……」
「そんな薄い反応なの何でよー‼」
「なんか――ごめん」
「次はちゃんと柚月が目立てるような遊び考えるから!」
「本当?」
「もちろんだって……! 任しといてよ……!」
奏真は冷や汗を流しながら言った。
「まあ、後は現世に戻ってからにしようか」
「ええ、積もる話もあるでしょうしね」
そう締めくくって、僕らは現世に変えることが出来た。
ゲーム内時間1か月、現実では丸1日が経過し、全員が食事を取る前に眠ってしまった。それがこの度に行われたゲームの過酷さを物語っているような気がしてならなかった。
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