第45話 集会

翌朝、しずくと雑談中だった僕らの元に島内看守が訪れる。



「4人とも起きなさい!」



昨日振りに姿を見せた島内さんが、どことなく険しい表情をしていた。



「どうしたんですか、そんな怖い顔して」



しずくが呑気な様子で返すと、島内看守は焦燥感を露わにしながら用件を伝える。



「これから緊急集会があるのよ……! 中島の奴、機嫌が悪いから早く集合させろってうるさいのよ」



「もしかして、僕らの作戦についてバレたからとか……」



僕が恐る恐る聞くと、島内看守は何か言いたげな表情を浮かべた。



「——————まあ、後で話すわ。とりあえず行きましょうか」



「わ、分かりました……」



僕は恐怖心と不安感を抱えたまま、心細げな返答をした。



その後、就寝中だった鳴宮と遊馬を起こして、集会が行われる自由広場に向かった。

広場には男女様々な囚人が集まっていた。最近の房内待機とは打って変わって、自然の音だけが耳に届いた。



僕らは一番左側に並び、看守塔の最上階に視線を送る。

どうやらそこには、昨日体調を崩した(崩させた)中島看守長がイライラした様子で見降ろしていた。



「4人はここに並んで。とりあえず、一言も喋らず前向いてて」



島内看守はそれだけを伝えると、看守塔に入っていった。

僕らは島内看守の言いつけ通り、一切口を開けることなく、整列完了を待った。

そしてようやく全員が揃った後、マイクを持った中島が話始める。



「囚人諸君、お前らには報告をしなければならない事が二点ある」



中島看守はそう切り込む。



「まず一点目、元看守長であり脱獄未遂事件を未然に防げなかった、内村看守が一週間後にこの島を去ることになった。理由は、事件の責任ともう一つ――――」



中島は、意味深な間を作り、そして不敵な笑みを浮かべていた。



「囚人を味方につけ、脱獄事件を起こそうとした……‼」



僕は言葉を聞いた瞬間に、心臓の動悸が早くなったのを感じた。



――――バレていた⁉ いつどこで僕らがへまをしたって言うんだ‼



僕は疑問に思ったが、中島は発見の経緯について語った。



「実はな、看守塔にあったはずのカードキーが盗まれている。昨日俺は体調不良で早退し、看守塔はもぬけの殻だった。その隙をついて脱獄囚はカードキーを盗んだ」



僕は中島の話を聞いて腑に落ちた。

あれだけ見やすい位置に置かれていたカードキーが無くなれば、誰でも不審に思う。バレるのは時間の問題だったわけだ。



「それだけじゃない。俺が囚人に化けさせて送ったスパイから情報があってな、どうやら脱獄はダクトを通り行われているらしい。とても狡猾な奴らだと断言しよう」



そうか、鳴宮が言っいてたのはこの事だったのか。



「そこでだ。中々、ダクトを塞ぐことは難しいし、時間もかかる。だから、房内トイレの使用を禁ずる事にした。用を足したい場合は看守に申し出ろ。常駐の看守がトイレに同行する」



中島の発表に、ざわつきだす囚人たち。内村さんの看守交代の件と脱獄計画犯のニュースとである事ない事話していた。



「そして、この件に付随して二つ目。もし怪しい行動があれば看守に報告すること。もし、脱獄犯の特定につながる重要な報告があった場合、好待遇を約束しよう」



中島の一言に、囚人たちは色めきだった。

対照的に僕らは、喜ぶフリを見せて、内心焦っていた。



「報告は以上だ。囚人は速やかに房に戻るように。それと脱獄犯が見つかるまでは房内待機を継続する」



房内待機は管理のしやすさからだろうが、こちらとしても好都合。トイレからの脱出は可能のままだ。ただ懸念事項もある。

中島は『常駐の看守』と言った。という事は、今までいなかった看守が張り付きになるという事だ。



僕は不安感を抱えながら、他の囚人と共に房へ戻っていく。



「今日から私、ここで囚人を見ることになったのよ」



房に戻った四人に突如訪れた朗報は、不安感をかき消すほどの衝撃を与えた。

しかし、彼女の表情が晴れない。



「内村さん、残念ですね……」



「ええ――――とっても……」




彼女はそれ以上の言葉を紡げなかった。

でも、その少ない言葉だけでも、僕らの心に深く届いた。



「一週間で絶対ケリ、つけて見せますよ」



「あら、そんな大口叩いて大丈夫かしら」



「それくらいプレッシャー与えないと、燃えないんでね」



僕は小さな声で、溢れんばかりの固い意志を届けた。



「まあ、期待してるわ。あと、足りないのは何かあるの?」



「レベル5のカードキーだけです。それで準備は整います」



「嘘、思ったより進んでるじゃない」



「だから言ったでしょ。けりつけるって」



僕が言うと、彼女は眉尻を下げて笑った。



「待ってるわ、良い報告を」



「はい、大船に乗った気持ちで待っててください」



島内看守は僕の声を聴くと、すぐに房の反対側に立ち、監視を始めた。



「大丈夫なのかしら、そんなハードル上げちゃって」



「いんだよ。ここまで来たんだ。自分たちに自信持って行こうぜ」



「そうね。じゃあ後は託したわよ、リーダー」



鳴宮は微笑みながら言った。

僕は反論も考えたが、ぐっと抑え飲み込んだ。



「ああ。任しとけ」



僕は端的に言うと。すぐさまダクトに向かった。



「あんた正気⁉ まだ昼間よ? 時間無いのは分かるけど、流石に悪手だわ」



「いや、いいんだよ。見てみろよ周りを」



集会が終わってから、囚人たちはさっきの話でもちきり。

静まる気配もなく、うるさくて睡眠もできない音量があった。



「ダクトの音に敏感になった囚人たちがいる中で、深夜の静寂はリスクだと思う」



「そうだけど、看守は多いわよ?」



「房の監視に取られてるし、しかも男子房崩落の片付けも終わって無いから、変わんないんじゃないか?」



結局僕と鳴宮の議論は平行線の様相しかみせない。



「まあ、行くだけ行ってみて様子見てくるよ」



「そうね、埒空かなそうだし」



僕は、鳴宮と話が落ち着くとダクトへ上がった。

島内看守ともアイコンタクトで黙認してくれたようだった。

















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