第36話 共同生活

「来栖はここね」



「えっ……」



男子棟が倒壊して30分後、僕は島内看守に連れられて一時避難の房にいた。



「他に空いてる房が無いのよ。ちょっとの間ここにいてもらうわ」



「別に良いですけど、こいつらは大丈夫なんですか?」



「ええ、先に了承は取ってるわよ。さあ、入って」



僕は房に入る。



「あんた、変な事したら承知しないわよ」



「しないよ……!」



「紫音ちゃん安心して~。マー君は無害だから」



「それはそれで、何か複雑だな……」



「確かにそんな勇気なさそうだし――――まあ、いっか」



僕は言いたい放題を許し、全ての攻撃を受けた後で看守の顔を見た。



「あなた、甲斐性なしだったね……」



「看守、ほっといてください…………」



僕は総攻撃のダメージを抱えながら返した。

心が痛むし、回復不可能かと勘違いするほどだ。



「まあ、とりあえず今日は房で大人しくしといて」



「了解です」



「はーい!!」



僕らの反応を聞いて看守は早足で去っていった。



「これは、好都合って事でいいか?」



「そうね。あなたが変なことしなかったらね」



「しないわ!! もっと信頼してくれ」



「あなたはどこまでいっても男なのよ――――当分は無理ね」



「じゃあどうする?」



「私たちが寝る時、そのベッドから動かないで」



「了解。それだけなら全然オーケー」



鳴宮は応急処置として付け加えられたベッドを指さし、僕をけん制するように言った。



「じゃあ、私もそこで寝る~」



「しずく、今は我慢しなさい。現世に戻ってからいくらでもやっていいから」



「お前無責任な……」



僕はため息交じりに言う。



「しずく、今は脱出に専念しないといけないんだ」



「分かったよぉ……」



しずくは明らかに残念そうな表情を浮かべた。



とはいえ、今できる事が限られてくるし、なにより一番重要な報告をしなければならなかった。



「僕、レベル2のカードキー以外の持ち物が無くなったんだよ」



そう、崩壊の影響でクローゼットにしまっておいた、特にトランシーバーなど重要アイテムを消失してしまった。



「それは痛いけど、行動の時だけ二人の借りるしかないわね」



「じゃあ、ウチ行動してきていいかなー?」



遊馬が勢いよく提案すると、鳴宮が冷静に制止する。



「駄目よ。確かに看守の巡回は緩いけど、どうやらスパイがいるみたいじゃない」



「ああ。スパイは考えるだろうな。この時間に行動するから注意深く観察しようって」



「そう。だからスパイの所在と人物が分からない内は動かない方がいいわね」



「そういう事だ遊馬。考え方は良いけど、タイミングが悪いんだよな」



「そっかー。じゃあ仕方ないねー」



遊馬は僕らの説得にあっさりと納得して自身のベッドに腰かけた。



それからは、暇な時間が続き、4人で雑談の時間を過ごした。

おおよそ1か月の刑務所生活で起こった出来事を語り合った。

刑務所生活の危機的状況で、こんなにも穏やかな雰囲気が流れるとは、小説よりも奇なりだった。



そして夜が訪れる。

辺りで看守たちが囚人の様子を見る中、僕らの房にも島内さんがやってきた。



「やっぱり、4人は仲いいわね」



「そりゃまあ、ね」



「何よその歯切れの悪い言い方……! ハッキリ友達だって、言えばいいじゃない」



「そういう事です」



「来栖、大変ね……」



「分かります?」



「ええ、なんとなく」



島内さんは慰めるように言った。



「それで、何があったんですか?」



「詳しいことは分からないけど、ハッキリ言えるのは人為的な崩壊だったという事ね」



「人為的って――――事件じゃないですか⁉」



「ええ。しかも、中島派の仕業である可能性が高いのよ」



「どうしてですか?」



「今回、残念ながら犠牲者が出てしまったのよ。そこで確認された人が、中島派だけど内村派に傾きかけた人と、内村派で中島派を表立って批判していた、合計10人だったの」



「邪魔だった――――って事ですか……」



「ええ、私たちはそう考えてるわ。でも、君たちからしたら好都合でしょ」



「確かにそうですね。見つかりにくくなりますし」



「だからね、今これ渡しておくわ。この混乱に乗じて、くすねてきたのよ」



「あなたも悪ですね……」



「囚人に言われたくないわよ」



そう言いながら島内看守はレベル3のカードキーを手渡してくれた。

これなら看守塔と、職員棟の一部以外は全て行けるようになった。



「これから数日間は房内待機で、私も来られないから騒ぎ起こさないでよね」



「ええ、島内看守。私たちを信じてください」



鳴宮は笑顔で言った。

再び足早に消えた看守を見送り、僕らは次に手立てを考える。



「今日からにする?」



「でも、どこ行くの?」



「とりあえず職員棟に行く。監視カメラ制御室の中とか見ておきたいしな」



「なるほど。私は何をすればいい?」



「なら――――スパイの情報集めてくれないか」



「ダクトからでいいのかしら」



「もちろん。だが注意しろよ。僕以上に注意が必要なミッションだからな」



「ええ。分かったわ」



鳴宮は決意に満ちた表情で言った。



「ウチらは?」



「房で待っててくれ。もしものために待機しておいて」



「了解!」



遊馬は笑顔で言った。

僕は眩いばかりの、太陽に似た笑顔に心を痛めたのだった。























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