第15話 結末

ゲーム開始十五分。

ゲームもようやく中間地点を迎えた。



「ハルくん、これからどうするの?」



「ん……ゾンビの数がどれくらいか把握できていないけど、明らかに多すぎるな」



ーーどうする。



無暗に動けばしずくはもちろん、僕も捕まるだろう。無駄な動きは極力避けないといけない。



ただ、ゾンビに対して気づいたこともある。



「とりあえず、さっきも言ったけど、音を立てなきゃ大丈夫だから、待機する方がいいな」


 

僕はしずくを落ち着かせるような口調で言う。



どっかの映画みたいな設定で驚いたが、あのミーハー奏真の事だ。



なんでもパクるだろうよ。



「でも、かなり耳が良いみたいだね~」



「そんな呑気に言ってる場合か! ちょっとの声でも反応してくんだよ!」



「……ハルくん声大きいよ」



ーーお前のせいだよ!



そう言おうと思ったが、不意に近くで聞き覚えのあるうめき声が聞こえた。



僕はそれを聞くと、声を殺すようにして自分の口を押さえた。



教室の角で、体を重ねるようにしながら、ゾンビが去るのを待った。

ゾンビの姿を見ながら心の中で、バレるなと祈っていた。



しかし、そんな願いも虚しく、ゾンビが一体、じわじわ距離を縮めてきた。



動悸が上がる。

焦燥感が僕の身体中を駆け巡る。

打開策がないか、脳をフル回転させる。



しかし、突破口が見出せる事は無かった。



最低限、しずくだけでも逃がしたい。

鳴宮たちが生き残っているかは分からないけど、せめてこの子が二人の元に行って、最後まで逃げて欲しい。



だから僕は、さりげなくしずくを覆うような体勢をとった。



これで僕の心残りはない。

もう、どうにでもなってくれ。



僕は自暴自棄に似た気持ちで、事態の終焉を待った。



ドキドキしたまま、時間が流れて行く。

ゾンビのうめき声も相変わらずで、身動きがほとんど取れない様子だった。



そんな危機的状況の中、廊下側からどこか聞き覚えのある音が聞こえてきた。



うん? この音……



「しずちゃんー! ヨッシー!」



遊馬は、教室に入るやいなや、僕らの名前を大声で呼んだ。



そのおかげか、目の前のゾンビ達が、教室の入り口に方向転換した。

それはありがたい事だ。

体の自由が効くことにもつながるし。



しかし、入り口に敵を集めてしまっては元も子もない。

結局、逃げ場がないことに関しては、何一つ改善されないからだ。



ーーおい馬鹿! 声出すなって!



内心、遊馬にそんな怒号を飛ばしていた。



ーーお願い、何かの間違いでどっか行ってくれ!



僕は切に願った。



しかし僕の願い虚しく、

遊馬の大きな声には、周囲のゾンビ達を集結させるのに十分な効果があった。



「あぁ……あぁ……」



ほら言わんこっちゃない……



僕は呆れ顔を披露した。



でも、そんな事ばかりでは、一向に状況は好転しない。

とりあえず、この包囲網から逃げ出すルートを探ろう。



まず、この教室の脱出口は三つ。



二つの教室の出入り口とベランダへの通路。



廊下への出入り口がゾンビで塞がれている。

遊馬の声の影響だろう。



ただベランダには、それらしき姿は見受けられなかった。



「二人とも、後ろのベランダに逃げるぞ」



僕は二人を先にベランダへ逃す。

後を追うように僕も、逃げようと思ったその矢先、



「分かったよ、でもさこのままだと追いつかれないかなー」



しずくは後ろのゾンビを指差しながら言う。



ゾンビの大群は呻き声を上げながら、今にも手が届きそうな所にまで迫っていた。

ここまできたら、あなたを使うしかない。



「そっかーーーー分かった、僕が囮になる」



僕は二人をベランダに逃した後、扉の前に立ち、次の一手を考えていた。



「えっ、ハルくん? 何言ってるの? 駄目だよ、最後まで逃げようよ~!」



「いいから、今はそれしか方法がないでしょ。大丈夫だよ、命を無下にはしないから」



「本当だよね、約束だよ……?」



おいしずく、僕はこのゲームで死なないぞ? なんでそんな怯えてるんだ?



「しずちゃん、どうしたの?」



「私聞いちゃったの……捕まったらゾンビにされるって……」



「……えっ、ヨッシーそうなの?」



いい加減にしてくれ。今の状況分かってんのかよ。



「とりあえず話は後だ。早くベランダに行ってくれ!」



「そ、そうだね。早くいかないとかなり迫ってきてるね」



とりあえず二人をベランダに逃がした。



「さあて、どうしたもんだ」



教室のゾンビは八体。それぞれが均等に扉の前にいる。



とりあえず喋らずにゾンビが移動してくれるのを待つしかないよな。



心臓の鼓動がうるさい。



たかがゲーム、されどゲーム。

だけど僕らは本気で取り組んでいる。



なぜかって?



負けず嫌いだからかな。



だから捕まりたくないし、ほかのメンバーを見殺しにもしたくない。



それは誰のためでもない。



自分のプライドのためだ。



遊馬と鳴宮が一緒にいないことから、恐らく鳴宮はゾンビに喰われた。



だから全員というわけにはいかないだろうが、三人で絶対に脱出してやる!



僕は心に闘志を燃やしながら、ゾンビを行く末を見守った。



しかしゾンビたちは僕たちを捕まえる気が無いようで、その場を動こうとしない。



このままだと教室から脱出するどころか、この場から動くことすらできない。



緊張感が体中を駆け巡る。



外に目を配ると、二人の女子も息を殺して僕に帰りを待っていた。



ゾンビたちも僕の周りから遠ざかったり近づいたり、大きな動きを見せてはかなかった。





そういえば……



僕はあることを思い出した。



ゾンビは音に反応するんだよな……



僕はおもむろに自分のロッカーを静かに開けると、中から体育用の靴を取り出した。



そして、少し角度をつけたところから廊下の奥に靴を投げた。



「あぁ……?」



ゾンビたちはその音に反応して教室を後にしていく。

そしてゾンビの大群はあっという間にいなくなってしまった。



あれ、拍子抜けだな……



僕は安堵の表情を浮かべながらゾンビが去るのを待った。



「はあ……ようやく行ってくれた……」



「ハルくんお疲れ~」



「ヨッシーやるじゃん!」



なんだろう、あの危機を乗り越えたにしてはやけに軽い気が……



「……本当に思ってるか?」



「お、おも、思ってるってー!」



「……そんな泳いだ目で言われてもね……」



まったく、遊馬は本当に嘘がつけないやつだよな。



そんな話をしながらも、現状報告を兼ねた情報整理を行った。



僕の思った通り鳴宮は帰らぬ人(仮)になっていたそうだ。

そしてゾンビの数は二組の証言からおよそ二十体。おそらくもうすぐ数が増えるだろう。



逃げるとしてもゾンビは目があまり見えていない。



だからいたるところで体をぶつけている様子が見て取れる。



機動性には負けるはずがない。



しかし問題なのが量が多すぎること。

 


どの階層にも三~四体のゾンビがいる状況。

挟み撃ちは避けようのない事象になってしまう訳だ。



「ゲームも残り十分となりました。さらにゾンビを追加します」



これで一階あたり五体のゾンビがいる計算になっているはずだ。



そうなると三人での行動のリスクが上昇する。



「なんで分かれなきゃいけないの?」



「まとめてゾンビに捕まる危険性が高いからだよ。」



「高くなる?」



「ああ。はじめは一体や二体で捕まるリスクも少なかった。もしもの時に協力し合えるはずだ」



「ハルくん、別に変わらない気がするんだけど……」



「いいや、全然違うぞ」



単純な話密度が上がる。

今までこっちも相手も二人~三人だった。

しかしこっちは三人だが、相手はその倍近くいる。



ただ校舎の面積は変わっていない。そうなると必然的に逃げるスペースがなくなる。



初めの頃なら大した問題じゃない。でもゾンビの数が数倍にも増えてしまった。



「でも……心細いな……」



しずくは消えそうな声でそう言った。



「ねえヨッシー」



「どうした?」



「私は一人でいいから、しずくと一緒にいてあげてよ」



その言葉で僕は遊馬からしずくへ視線を移した。



両手が小刻みに震えている。



そこで僕は遊馬の真意を受け取った。



「分かった。僕が全力でしずくを守る。その代わり遊馬、お前が捕まったら許さないからな!」



「何言ってんのー! あんなノロマに捕まるわけないじゃーん!」



いつも通りの明るさだが、こういう時にこんな助かるとは思わなかった。



「それじゃあ、また生きて会おう!」



「うん! じゃあねー!」



そうして僕らは二手に分かれた。



「……ごめんね」



「おい、らしくないな。いつもの呑気さはどうした」



「だって、私迷惑かなって……それくらい私にもわかるよ~」



まったく。世話の焼ける幼馴染だよ。



「いつも僕の事散々からかってるしずくはどこ行ったんだよ」



「散々って……私そんなからかってないよ~」



あれが無意識とか勘弁してくれよ……



「嘘つけ、あれは楽しんでやってるでしょ」



「まあ、楽しんでやってるのは否定しないよ~?」



まったく調子のいいやつだよ。



「……でも、そんなのハルくんだけだもん……」



「し、しずく……」



なんだよ。そんなの卑怯じゃないか。



そんな上目遣い……どうしろっていうんだよ……



「あれ、もしかして照れてる~?」



「……お前、僕を騙したな?」



「そんな人聞き悪い~。私はハルくんと遊びたいだけだもん」



はあ、調子いいな。でも……



「そうじゃなきゃな、しずくは」



「えっ……あっ……」



「じゃあ、行くぞ」



「う、うん!」



そう、



そうやってずっと僕の隣で笑っててくれよ。



……ずっとさ


「さあ、あと数分だ! 逃げ切るよ!」



よし! あとは周りに気を付けて逃げ切るだけ。



というかなんか忘れてる気がするんだけど……気のせいかな?



まあいっか。とりあえず逃げ切ろう。



そして……



「終了ー! 逃走者もゾンビのみんなもお疲れー!」



「やったー! 何とか逃げ切ったー!」



遊馬は一人喜びに浸っていた。



「ハルくん、逃げ切ったね~」



「ああ、やったな!」



二人はハイタッチして喜びを分かち合った。



「はあ、なんで私だけゾンビで終わったのよ……」



鳴宮は一人落胆したような表情を浮かべていた。



それから、最初の教室に集まるとゲームマスターがようやく姿を現した。



「お疲れー!」



「お疲れー……じゃないわ! なんでこんなことしてんだよ」



「なんでって、楽しそうだったから?」



「あんたさ、そんなんで巻き込まないでよ」



「あっ、君生きてたんだな」



「何よそれ! 勝手に殺さないでよ!」



なんだかんだこの二人って相性良いんだよね。見てて面白いし。



「それでさ、三人に文句なんだけど」



ゲームマスターはどこか不満げに言った。



「あんた、話変えないでよ! 私納得してないんだからね!」

 


「後で話聞くから待ってくれよ……」



なんか熟年夫婦の会話だな。



「で? 不満ってなんだよ」



「俺が渡した注射、なんで使ってくれないんだよー!」



「……あっ、忘れてた」



「噓だろ!? あんだけ準備に時間かけたのに……」



そう言うとゲームマスターは肩を落として、その場に座り込んでしまった。



「なんか、ごめん……」



僕がそう言うと、鳴宮は何かを思い出したように。



「そうよ。なんでそれで私を助けてくれなかったのよ!」



「そうは言われても僕ら、鳴宮と会ってないし……」



「い、言われてみれば……私も見た覚えないわね……」

 


「お前残念だったな!」



なんで奏真が嬉しそうにしてんだよ。



「何よそれ! 私だって逃げたかったのにー!」



鳴宮がわがままな赤子に見えてきたのは僕だけだろうか。



そしてそのまま二人の痴話喧嘩は続き、僕らも苦笑するしかなかった。



「ハルくん、ありがとね」



「ん? なにが?」



「私の事守ってくれて」



「僕は別に守ってないよ。ただしずくの逃げ方が上手かっただけじゃない?」



「え~、じゃあ逃げ方のアドバイスをしてたのは誰だっけ?」



「う、うるさいな……別に良いだろ、しずくと逃げ切りたかっただけなんだしさ」



「へっ、へ~、そうだったんだ~」



「し、しずく? どうした? 顔赤いけど、熱中症なんじゃないか?」



「う、うん……ちょっと涼んでくるね~」



「おう、気をつけろよー!」



僕はしずくの背中にそう言った。



その時、背後では他の三人が呆れたような表情を浮かべていたのを知る由もなかった。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


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