第14話 苦悩

ゲームが始まる前、女子三人はトイレに向かっていた。



「ねえ、なんでこれに私たちが参加しなきゃいけないの?」



鳴宮はどこかうんざりした様子だった。



「ハルくんが言うには、奏真くんがまた新しい遊びを思いついたから、あの時のメンツを集めて欲しいって」



「いいじゃん、楽しそうだしー」



遊馬は相変わらず前向きな様相だった。

どうやら奏真の企画に前向きらしい。



「だってさ、面倒じゃない。こんな暑い中でなんで三十分も鬼ごっこしなきゃならないのよ」



鳴宮は不満全開でそう言った。



運動に対して苦手意識のある鳴宮だから、苦手なことに参加するのは些か抵抗があるのだろう。



「でもなんで参加してくれたのー?」



遊馬は純粋無垢なまま、鳴宮に質問を投げかけた。



「それは……しずくを見てみたかった、って感じかな」



「私を?」



「ええ、あなたが選んだあの男がどんな人かをね」



「別にここじゃなくてもよくない?」



しずくはど正論をかましたが、紫音には何か考えがあるようだった。



「しずく、こういう時に人の素ってものが出るのよ」



「でも、死ぬわけじゃないしさ。そんな出ないんじゃ……」



「分からないわよ。三十分間ずっと気を張ってるなんてそうできることじゃないし。しずくの前なら、更に気を使わないでしょうしね」



鳴宮はなにやら得意げな顔を浮かべているが、二人にはその感覚が分からないようだった。



「とりあえず二人ずつに分かれようよー」



「そうね。助け合えたりできるし、捕まる確率も下がりそうね」



今回の逃走者は僕と女子3人の計4人。

正直校舎の大きさを考えると、逃走者の人数が少ない気がする。



「足が速い人と遅い人がペアになるのが妥当ね。じゃあしずくは来栖とお願い」



鳴宮はそう提案をした。



「うん、分かったよ~」



鳴宮はしずくの少し嬉しそうな表情を見て、いい獲物を見つけたような顔をしていた。



「じゃあ後で惚気話でも聞かせてもらいましょうか。ね、しずく?」



「惚気話、なに話せばいいの?」



「そりゃ、二人のイチャイチャエピソードとか」



「ん~、後ろからハグされたとかかな?」



「えっ、なにそれ……あなたたちもうそんなとこまで進んでんの?」



鳴宮が呆気にとられた表情を浮かべていると、遊馬はしずくの顔を見て笑った。



「あっ、しずちゃん顔あかーい!」



「そ、そんなことないよ……」



しずくは慌てて顔を背けた。

どこか二人を面と向かって見れないような様子で、彼女は遊馬の言葉を否定した。



「何々、いつもは澄ました顔してるのに、ヨッシーの事になると、思い出して照れちゃうんだー!」



遊馬はワクワクしながらしずくをイジっていた。

その様子はとてもイキイキとしていて、自分がしずくの立場になると考えると、身体中鳥肌が立った。



それからも、しずくは二人のおもちゃとして、いじくり回されていた。

いつも僕をおもちゃのように扱うしずくが、この話になるといじられる側にまわる

僕がこの場にいたら、いい気味だと思わざるを得なかった。



その後もお腹をつついたり、”リア充”なんて嫉妬まがいの言葉でイジったり、照れた顔を笑ったり、一通りしずくで遊ぶのだった。



そして、しずくがイジられ疲れた時、それまで笑顔で遊んでいた鳴宮がふと我に返ったような表情を浮かべていた。



「でもさ、来栖のどんなとこがいいのよ。地味で目立たなくて、これといった特技もない。顔立ちは普通だけど、意外と優しい側面がある……それくらいなら誰でも当てはまりそうだけど」



鳴宮は少し攻めた質問をした。

もしかしたらしずくの機嫌が悪くなるかもしれない。それでも親友として聞いておきたかったようだ。



「確かにー。中学の時からあんまり男子に興味なさげだったのにー、どんな心境の変化があったのかなって。私も気になるー!」



遊馬の元気な言葉を聞いて、鳴宮は少しだけ中学校の事を思い出していた。








あの頃の三人もこうやって遊んでいた。



朝早く学校行って冗談で笑い合って、

放課後帰路を歩きながら突然鬼ごっこを始めてみたり、

コンビニでアイス奢りのジャンケンをやって喜怒哀楽が別れたりと、

平凡な中学生活を謳歌していた。



中一で同じクラスになった三人は、三年間を共に過ごし奇跡的にずっと同じクラスだった。



授業間の休み時間、昼食、放課後、学校行事。何から何までずっと一緒にいた。



ーーーー彼氏はいなかったのかって?



私と柚月には縁がなかったけど、しずくは結構告白されていた。

もちろん相談にも乗ったし、ツラい想いをした現場も見てきた。



でも、そんな私達でも、しずくの口から好きな人の名を聞くことは無かった。

だから、こんな表情をする親友を初めて見た。



照れて顔を赤くして、思い出しながら顔をニヤけさせて、嬉しそうに恋焦がれる相手の話をする。

そんな当たり前を、私たちは見た事がなかった。



だからこそ、私は興味があった。

中学のどんなイケメンでも、優しい子でも靡かなかったしずくにこんな顔をさせる男の事が、真底知りたかった。



「私、思ったの。誰か私自身を見てくれる人っていないのかなって」



しずくも空気を読んだ声の調子で、話しを切り出した。



多分何度も話に出てきてるわよね、この子のスタイルの話。



顔、胸、お尻、くびれ、身長……



全てにおいて男が好む体型だ。

街中で大人のビデオのスカウトにも声をかけられたらしい。


それも十五の時。



考えられる? 

そんな年齢の子が二十を超えた大人に間違われるって。



もちろんそんな子男子どもは放ってはおかない。



まず校内の男子が片っ端から告白してたわね。

よく私たちも橋渡し役になったっけ。


そのあと近隣の学校からもアプローチが来るようになって。



その中にかっこいい男子もいて、女子たちから反感を買うことも少なくなかった。



軽いいじめのようなこともあったわね。



わざと聞こえる声で悪口を言ってくることも多かった。



しかもそれを庇うのが下心丸出しの男子だから、事態は更にエスカレートしていった。



しずくのメンタルもかなりやばかったわね。

そのまま中学を卒業して高校に入るときには、もう感情をあまり外に出さなくなってたわ。



理由は中学での影響ね。

笑う回数も怒る回数も極端に減った。



だから、来栖といるしずくを見てるとなんか懐かしい気持ちになるのよね。



正直、私には分かってたわよ。

しずくを理解できるのは”来栖好春”しかいないってね。



「たまたま同じ高校に通ってるって知って、しかも同居まで」



「それは、別に狙ったことじゃないよ!」



「知ってるわよ、火事のせいでしょ。しかもあなたを逆恨みした同級生だったなんてね。」



全くしずくは悪くない。

私はそう思ってる。



でも私たちがどう頑張っても、しずくの魅力に勝れないのも事実。

生まれつき備わった特性に勝つなんて、そんな負け戦、誰がするものですか。



「でも、世の中にはあなたの魅力でも落ちない男もいる」



「うん、落ち込むくらいにね……」



でもあの子なら、しずくのすべてを受け入れられるかもしれない。



元から男女とも分け隔てなく接せられる人で、思春期という不安定な時期のせいで、しずくの個性が悪く映っている。

あざとい、尻軽、勘違いさせ女などなど。個性をないがしろにする発言が多かった。



けど、来栖はどうだろう。



しずくと会話を重ねて、久しぶりに会った幼馴染があの頃と何も変わってなくて、自分も男性という自覚があって、その中でもしずくの事をちゃんと見ようとしている。



他の男のように理性に負けることも、外見で判断することもない。



思春期男子には珍しい傾向だ。



だからこそしずくは一緒にいたいと思った。

一緒にいて楽だと思った。楽しいとも思った。



「しずく、あんな男なかなかいないわよ?」



「う、うん……」



「そんな構えない! あのタイプは大人になってからモテるタイプなのよ。だから今頑張れば何の心配もないわ」



「頑張るって、なにを?」



「そりゃ、来栖を落とすのよ」



「どうやってやればいいの~!」



しずくは頭を抱えていた。

今までだって、距離感を近くしてアプローチしたり、体のラインが際立つ服を着たりなど、出来る事は色々やってきたが、ハルくんが変わる事は無かった。



もしかして、鈍感なだけなんじゃ……



二人の間にそんな仮説が立ったのだった。



「ーーーーあのー、二人の話についていけなかったんだけど……」



二人は遊馬の声を聞いて、驚いたような表情を浮かべた。



「ーーーー確かに柚月、ずっと黙ってたわね」



「なんか二人とも真剣な話してるからウチ、どうしていいか分かんなくて!」



「ーーーー話に入ってきなさいよ。あんただって見てたんだから」



「だって難しい会話が飛び交ってて、全く分かんなかったんだもん!」



どうやら、入れなかったのはタイミングがなかった訳じゃなく、話の内容が理解できていなかっただけらしい。



鳴宮は遊馬の話を聞いて呆れた顔を浮かべた。



そして、鳴宮としずくは顔を見合わせると……



「はははっ……!」



「なんで笑うのー! 私真剣なのにー!」



「ごめんごめん。なんか柚月見てたら、真面目な話するのが馬鹿らしくなって」



「なんでよー!」

 


そうやって二人は、遊馬の納得のいかないような顔を見て笑いながらトイレに入って行くだった。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


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