第7話 襲来

定期テストが終わった後、

僕らの学校では終業式まで暇な時間がある。

僕にはこれといった予定もなく、

家でしずくとのんびり過ごす日々が続いていた。


そんな現在、時刻は昼前。

買い出しに向かった僕は、

汗を滲まねながら冷房の効いたスーパーを目指していた。

そんな折、歩道を歩いていた僕は、

後ろから肩をトントン叩かれた感覚があった。


「はい?」


僕は振り返りざまにそう言ったが、

どういう訳か誰もいなかった。


ーーん? 気のせいだったのかな。


僕はそう思ってもう一度歩き始めた。

しかしまた肩を叩かれた。


「なんですか?」


またそこに人はいなかった。


ーー何これ、誰かのイタズラか? 

しずくは面倒臭がってやらないだろうし、他の友達は近くに住んでないし。


えっ、まさか幽霊……?


な訳ないか。

まあ、早く買い物終わらせて帰ろう。


それから少し歩いたところで、

再び肩をトントンする感触があった。

今度は何度か無視してみた。

そして、我慢の限界に達した時にその手を捕まえた。


「しつこいな! なんだよ!」


「ご、ごめんなさい。つ、つい楽しくなっちゃって……」


振り返ってみると見たことのない女子が二人僕の後ろにいた。


「えっと、誰ですか?」


「……その前に手を離してもらってもいい?」


「ああ、ごめん、なさい……」


って、何で僕が謝ってるんだろう?


「何でこんな事を?」


「いやー、君を見つけて嬉しくなって、ついね」


ついね、じゃないんだよ! 

てか、僕とは初対面のはずでしょ?

それともなんだ。

僕と君とは幼馴染で、

久しぶりの再会だねー。

なんて事言い出す気が?

悪いが、それはしずく以外にいないんだよ!


「会ったことあったっけ?」


「無いよー!」


そんな事、元気に言わんでよろしい。

それは無関係だと言っているのと同じだからさ。


「えっと……状況が掴めないんだけど……」


僕がそう言うと、隣の女子がなにやら話し始めた。


「ごめんね、この子が変な事して。」


「ううん、それはいいんだけど。僕、買い物に行きたいんだよね」


「それは出来ない相談ね」


「えっ、何で?」


僕がそう言うと、女子は少し笑って。


「あなた……いや来栖好春! あなたの家にはある女がいるわね!」


「ちょ、ちょ待って。そんな大声出さないでよ」


てか、なんでそれを知ってるんだよ。


「何でそんなこと知ってるんだよ、って顔してるわね。」


「……エスパーか何かですか?」


とりあえず、

心の声読むのやめてもらっていいですか……


「違うわよ! まあ、それは置いといて……」


この女子の話からすると、

どうやら二人は遊馬柚月(あすまゆずき)と鳴宮紫音(なるみやしおん)という名前らしい。

何でもしずくと親友なんだと。


「で、その親友さんは何の要件なの?」


「君がしずくの幼馴染に足る人物が、見させてもらうわ!」


「……はぁ!?」


幼馴染に足る人物かなんて、

小学生より前からの仲なんだから、

そりゃ幼馴染でしょ。

今更なんだって言うんだ。


「僕にどうしろと?」


「とりあえず家まで案内して」


「まあ、それくらいなら……」


男子じゃなければ、別にしずくに危害が加わる事も無いか。


「ただ、その前に買い物に付き合ってくれ」


「いいよー! 早く済ませてしずちゃん家に行こうよ!」


「あんた、何でそんなノリノリなのよ……」


「だってしずちゃんのプライベートな姿が拝めるんだもん!」


「別に、二人の前と変わらない気もするけどな」


まあ、この感じ拒否したとしても諦めてくれそうな気配がない。

僕は諦めて共にスーパーに向かった。

そして二人と共に買い物を済ませた後家に帰った。


「ただいま」


「おかえり〜!」


しずくの声が居間から聞こえる。

おそらく寝っ転がりながらスマホでもいじってるんのだろう。


「うわー、しずちゃん無防備だね」


「いつもこんな感じだよ?」


「想像以上のダメ猫ね……」


そこまで言うか……

まあ、分かってしまう自分がいるのも否定はできないけど。


「えっ、ええっ!? 何で二人がここにいるの〜?」


「なんか絡まれた」


色々怖い絡まれ方されたな。


「うん、だる絡みしたよー!」


そんな明るく言わんでよろしい!

まったく、またキャラの濃い人達が集まったな……


「しずちゃーん、会いたかったよー」


「柚月、痛いって」


そう言うしずくの顔は嬉しそうだった。


「来栖君、ごめんなさいね突然」


「もう今更だよ」


「そうね、とりあえず作るの手伝うわ」


「いいよ、座って待ってなって」


「でも……」


「炎天下の中でずっといたから疲れたでしょ。休んでなって」


帰りに聞いたのだが、

僕の家に行くまでに道に迷ってしまったらしい。

あんな炎天下の中で歩き続けたのなら、体力の消耗も酷いはずだ。


「そうね、言葉に甘えさせてもらうわ」


何だ、

いい子じゃないか。

さっきの言葉とは全然印象が違うな。


「でも、味が酷かったら許さないわよ?」


「はっ、はい! 気をつけます!」


「よろしい。では作業に取り掛かりなさい」


前言撤回。

あんな恐ろしい女、中々いない。


しかもかなりのお嬢様気質だと見た。

傲慢で上から目線、言葉にも猛毒が備わっている。

僕はいつも以上に味に気をつけながら料理をしていた。

こんな緊張感のあるクッキング初めてだった。


「今日はパスタだよ」


「うんー、いい匂いだねー」


「まあ、見た目は良しね」


とりあえず第一関門は突破したようだな。


「んで、何であんな所にいたんだよ」


「そっ、それは……」


なんでさっきはちゃんも答えられたのに、

どうして今になって口ごもるんだ?


「そうだね、二人ともなんでこんな事してたの〜?」


「はぁ……観念して白状するわよ……」


すると鳴宮さんはこの状態を説明した。


要するに僕がしずくと同居する事を聞いて、

心配になったそうだ。

周りには体目当ての「エロ猿」しかいなかった。

だから、幼馴染としても体目当ての男なら引き離すつもりだったようだ。


「二人とも大丈夫だよ〜。ハルくんにそんな勇気ないからね〜」


それはそれで男としてどうなんだ?


「でも、お風呂とかトイレ、寝る時に襲いたくならないの?」


「まあ、本能的に反応しちゃう時はあるけど、別に我慢できるから問題ないよ」


「あんた、本当に素直なのね……」


鳴宮はそう呆れた様子で言った。


そうは言われても思ったこと言っただけだからな……

他に言いようないし……


「本当に? 初めてのお風呂の時とか、寝る時とかどんな感じだったのー?」


そんな事気になるのか? 

別に大したことは……あったな。


僕はあの時を回想したのだった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


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