第5話 テス勉

突然だが、これから僕にとって悪魔のような時間がやってくる。


「好春頼むよー、勉強教えてくれよー」


「嫌だね」


「なんでだよー、俺らの仲だろー」


奏真は幼子のようにわがままを言って来た。


面倒臭いなぁ、もう! 僕だって勉強しなきゃいけないんだ! 人に教えられるほど時間ないんだよ。


「好春成績いいんだから、俺に教えるのなんて造作もないことだろ!」


「努力の結晶だよ」


奏真め、人の努力も知らないで簡単に言いやがって! 

しかもこっちには先客がいるんだ!


「ハルく〜ん。勉強教えて〜」


「しずく、お前、待っててって言ったでしょ!」


「え〜、だって遅いからさぁ」


しずくはそう言いながら僕の隣の席に座り、すぐ隣まで椅子を持って来た。


「おまっ……もうちょっとそっちいってくれない?」


「何で? 近い方が教えやすいでしょ?」


「まあ、そうかもだけど……」


ああ、もうなんで二人教えなきゃいけないんだ。

――こうなったらもう知らん!


「えっ!? 月待ちゃん!? 何でここに!?」


「ああ、放課後に勉強を教えるって約束してたんだよ」


「どうも月待しずくです。ハルくんと幼馴染です〜」


「そんな紹介、いちいちしなくていいよ!」


「へー好春、ハルくんなんて呼ばれてるんだな」


「——お前、何ニヤニヤしてんだよ。教えてやんないぞ?」


僕の脅迫にも我関せずといった様子で奏真はしずくに話しかけた。


もしかして、これ完全なるアウェーってやつじゃない? 凄いやりづらい環境なんじゃ……


「月待ちゃん初めまして、俺の名前は天方奏真。そうちゃんって呼んでよな!」


「よろしくねぇ~、そうちゃん」


ハッキリ凄いと思った。正直、奏真はボケで言っただけだと思う。それを上回る距離感の縮め方をしてきた。


「お、おう、よろしく月待ちゃん」


「あのさぁ、そうちゃんって友達が他にいるから、奏真君でいい?」


「あ、うん。呼び方は何でもいいよ」


何だこの会話のラリー。仲良いんだか悪いんだかよく分からない。

しずくって意外とミステリアスな部分がある感じなんだな。でも、すぐそうちゃんなんて呼ぶあたり、勘違いされやすいタイプに見える。

そういう隙の多い性格に見られるだろうから。


「んで、なにから教えればいいんだよ」


「まず数学から〜!」


何だかこの感じが懐かしい。小学生の頃も、僕の家にしずくが来て勉強を僕が教える場面も多かった。

その時も今みたいにノリノリで勉強していた。面倒臭がってしないだけで、もしかしたら好きなのかも知れない。


それから時間の許す限り沢山の教科を教えた。そのせいで僕の勉強時間は皆無になってしまった。


「ハルくん、トイレ行ってくるから待ってて~」


「はいよー」


しずくがトイレに席を外したタイミングで、僕らは教科書類の片付けをしていた。


「月待さん、いい人だったなー」


「あ、ああ。そ、そうだよな……」


「何でそんな、思っていないようなこと言ってるような感じなんだよ?」


「いや、他の人と関わるしずくを初めて見たからさ、ちょっと驚いてただけだよ」


案外僕との距離感の差を感じなかった。それは無防備が故の事だろうと思うけど、それにしても奏真の鼻の下は始終伸びっぱなしだったな。

しかも奏真はボケでセクハラ紛いの事ばっかだったけど、しずくもしずくで面白がってたのか乗っかってボケてたから、全然勉強進まなかった。

もう教えんのやめようと思った。


「月待ちゃん、案外ノリいい人で話しやすかったな」


「まあ、そういう奴だから。僕もからかわれてばっかだよ……」


「へー、結構友達になれそうな気がして来たな」


「それは僕も否定しないよ。何だかんだ相性良さそうだったし」


思い出してみると意外と面白かったかも知れない。


例えば……


「なあ、このグラフあれじゃない?」


いきなり奏真がピクトグラムを見てそう言った。


「おい、ふざけてないで勉強しろ!」


「奏真くん、やっぱりこれあれだよね〜」


「あっ、月待ちゃん分かる?」


おいおい、話盛り上がって来ちゃってるじゃないの。

全然進みそうにないな……


「紙にしては結構大きめだね」


「いい形してるよね〜」


「やっぱり真ん中の長さとね、両隣の長さが均等な所がまたいいよな」


「お前らそんな詳しく説明せんでよろしい!!」


何でそんな小学生の下ネタで盛り上がんだよ!


「何で〜? ちゃんとした方が面白いよ?」


「そうだよ、こんな綺麗な形無いって」


「やっぱりバランスも良いよね〜」


「確かにな! これは男から見ても最高だぜ!」


まったく、コイツらずっと何の話してんだよ……


「——なあ、無駄話するんなら帰るけど」


「ああ、ごめんごめん。ちゃんとやるから」


「そうだね〜、そろそろちゃんとしないと時間もやばいしね」


ったくしずくの奴何呑気なこと言ってんだよ。お前も責任の一端を担ってるのに。


「んで? 何の話してたんだ?」


「え? きになるのぉ、ハルくん」


「べ、別に、そうじゃ無いけどさ……」


「素直になろうぜ親友、俺らの話に混ざりたいならそう言えよ」


「だから違うって! 話の内容を知りたいだけなんだよ」


「ああ、そう言うことね。このグラフのこれがソーセージとミートボールに見えるなって話してたんだよ」


――えっ?


「奏真君もそう思う? その話しててお腹空いて来たんだよね〜」


――えっ、えっ?


「あー、この時間だから仕方ないな。帰りにコンビニでも寄ってくー?」


――えっ、えっ、えっー?


「おい好春、何で困惑した顔してんだよ」


「そりゃ、そんないきなり仲良くなってるの見てびっくりしたんだよ!」


なんて事があったんだが。

いきなり仲良くなってるし、してる会話が噛み合ってて思い出し笑いしちゃうしで、何だかんだ二人の相性良いんじゃない? って思ったんだよな。


それから片付けを終えた僕らの元に、トイレから戻ったしずくと共に二人で帰って行った。


「どうだった、奏真は」


「ん〜、今まで視線がいやらしいなって思ってたんだけど、ノリが合うなぁ〜と思ってね」


あんなノリをするしずくを見たのはいつぶりだろうか。それは思い出せないくらい昔の話。もしかしたら初めてだったのかもしれない。


僕は少し複雑な気持ちでいた。

嬉しい気持ちとどこか寂しい気持ちが混在しているような感じだった。


「奏真君、面白い人だったなぁ〜」


しずくにしては、男に対しての評価が高い気がする。


――何だよ、そんな奏真がいいのかよ。


「しずくはどうなりたいの?」


気づいた時にはすでに言葉になっていた。


「ん〜、ボケ続けたい感じかなぁ〜」


「何だよそれ」


僕のその言葉には安堵がこもっていた。


何だよこの気持ち。

胸が詰まるような、キューって締め付けられるような、辛い気持ちを持っていた。


「そんな事聞いて、ハルくんはどうしたのかなぁ〜?」


「ど、どうもしてないけど?」


「ふ〜ん、まあそういう事にしておくかなぁ〜」


ったく、危ないな。暗くて助かったよ。


薄暗い中で隣の彼女の顔を見てみると、例のいじめっ子になっていた。

それからは他愛も無い話を交わしながら帰路を歩いた。

どこか疲労感を抱きながら、今日もからかわれ続ける僕がいたのだった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


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