第14話 終演
あの日以来、私とマシロの距離はぐっと縮まった。ライブハウスではいつも飄々としているマシロだったが、私の前では暗い顔も見せるようになった。本人は、「もうバレちゃったんだし、今更カッコつけてもしょうがないでしょ」と言っていた。
私たちの関係が深まることで、オリジナルソングの作詞・作曲に大きな変化が起きた。今までのやや乱暴とも言える作詞は深い悲しみや孤独を伴うようになった。作詞の変化に合わせて、自然と私の作曲も変化した。結果、熱情的なファンはやや減ったものの、本格的なバンドとして評価されることも珍しくなくなった。
しかし、去年の8月頃、若菜と萌恵がバンドを脱退することになった。元々、二人は別のバンドにいた。そのバンドには私たちの2歳上、つまり大学1年生の人がいて、一昨年は受験勉強ためにバンド活動を休んでいたのだが、受験が終わり活動を再開することとなった。そしてそのバンドが復活することになったのだ。それでも二人はもう少しこのバンドを続けたいと言って、夏頃まで共に活動してきた。しかし、さすがにそろそろ元のバンドに戻らなければならなかった。
それに、脱退する理由はそれだけではない。当時、私とマシロは凄まじい熱量でバンド活動に打ち込んでいた。しかし、若菜と萌恵は高校卒業後はすぐに就職するつもりだったので、遊び半分でバンドをしていた。明らかに方向性異なっていたのである。
こうして、去年の夏休みに、Green Sisters & Miss White Smokeは解散ライブを行った。小さなライブハウスに多くの客が集まり、ステージは恐ろしいほどの熱気に包まれた。ライブが終わっても、「別に最期のお別れじゃないんだから」と言ってマシロは平気そうな顔をしていたが、誰もいなくなったライブハウスのトイレで激しく泣きじゃくっていたことを私は知っている。
リズム隊を失った私たちはバンド活動を継続することが出来なくなった。少ない人脈を辿り、バンドを組んでくれる人を探したが見つからなかった。
しかし、私にバンドに入るよう勧誘してくれる人は多くいた。小さなライブハウスでは、作曲ができる人は貴重だったのだ。
ところが、マシロには誰からも声をかけられなかった。彼女の実力は誰もが認めていた。しかし、彼女がバンドに入れば、そのバンドは彼女のバンドになってしまう。彼女は尊敬される同時に煙がられた。
ある日マシロは小さな声で、
「ミドリ、貴女、いくつか声かけられてるでしょ? 私、貴女に音楽を続けてほしいわ。だって、貴女の作る曲、本当に素敵なんだもの。私のことは心配しないで。一人には慣れてるから」
私は泣きながら頷いた。
私が別のバンドに入って3ヶ月が経った。その日は少し雨が降っていた。私はふと、いつかマシロと話したあの公園に行ってみたくなった。スーパーの袋をぶら下げたまま、私は公園に向かった。
公園に着くと、懐かしい声が聞こえた。マシロは、雨に打たれながら、あのベンチでギターを弾いて歌っていた。
「マシロ!?」
私はレジ袋と傘を投げ出して彼女のもとに駆け寄った。彼女の顔は真っ青だった。
「どうしたの!? こんなところで何してるの?」
マシロは苦笑いしながら言った。
「家出してきちゃった」
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