第11話 最終兵器

「コーセーくん、本当にやるの?」

 ヒマリは不安そうに僕の顔を見た。申し訳ないが、これしか方法はない。

「うん。とにかくマシロ先輩に縁のある曲をたくさん弾いてくれ」

 堺駅の前のバス停の近くで、ヒマリは路上ライブを始めた。


 苅谷さんは夏休みの間は学校に来ない。しかし、彼女はきっとこの堺駅に現れるはずだった。苅谷さんは高校3年生、つまり受験生だ。ということは、この夏は受験勉強に追われているはずだ。そして学校では補習があまり行われていないとなると、塾の夏期講習などを受講している可能性が高い。そして多くの塾は駅周辺にあることから、この堺駅周辺の塾に苅谷さんが通っている可能性は大いにあるはずだ。そこで多くの塾生が帰るこの時間に堺駅で待ち伏せしようという作戦だ。たいていの塾生がこの時間に帰宅することは、昨日ホテルに戻るときに確認済みだ。

 ただ、問題はここからだ。堺駅は人通りが多い。つまり、仮に苅谷さんがこの駅に来たとしても見つけるのは困難だ。そこでこの路上ライブである。マシロさんのバンドの曲など、マシロさんに関係する曲をヒマリが演奏していれば、きっと苅谷さんは何らかの反応を見せるはず。そう考えたのだ。


「お姉ちゃんのバンドの曲で、私の知ってる曲はもうないなぁ。どうしよう」

「マシロ先輩が一番好きだった曲でも弾いてみたら?」

 ヒマリは少し考えると、

「そういえばお姉ちゃん、苅谷さんとカラオケ行くとき、いつもこの曲歌うって言ってたなぁ」

 そう言って、ヒマリはギターを弾き、歌い始めた。力強い声とギターの奥に、繊細さが隠れていた。曲が終盤に差し掛かると、遠くからショートカットの女子高生がもの凄い勢いで走ってきた。そして彼女はヒマリを見ると、大きな声で叫んだ。

「マシロ!!」


 苅谷さんはヒマリの隣にいる僕とアカネを怪訝そうな顔で見た。僕は彼女に微笑みながら自己紹介した。

「僕は原田康青です。こっちは中村茜。僕たちはヒマリの親友です」

「親友……」

 苅谷さんは「親友」という言葉を繰り返すと、少し俯いた。

「マシロは私にとって唯一の親友だったんだ。私はアイツのことが大好きだった。でも、私にはもうアイツのことを親友だなんて呼ぶ資格はないんだ。アイツは、私が殺したんだ」

 ヒマリは一歩前に出て、両手の拳を握りしめ言った。

「苅谷さん、教えてください。貴女とお姉ちゃんとの間に、いったい何があったんですか?」

 苅谷さんは大きなため息をつくと、

「わざわざ大阪まで来てもらったのに、手ぶらで帰らすわけにもいかないよな」

 彼女は駅と反対方向に歩き出し、

「場所を変えよう。近くにいい喫茶店があるんだ」

 


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