第10話 peace
目覚まし時計がけたたましく鳴った。7時だ。アカネは目をこすりながら起き上がった。
「あれ、ヒマリ、素っ裸で何してるの?」
寝起きだからだろうか、珍しくまともなことを言う。
「アカネちゃんからまともなことを言われると、何だかすごくイラッとくる」
ヒマリの切れ味はやはり抜群だ。日本刀より切れ味がいいんじゃないだろうか? アカネがいつか切り刻まれなければいいが。
「それにアカネちゃんも素っ裸でしょ」
アカネは自分の体を見る。ややした後、アカネは「まあいっか」と言った。いや、全くもってよくないんだが……
「それより、お腹空いたわ。ねえ、サンドイッチ食べましょ? ホテルの朝食と言ったらやっぱりサンドイッチよ」
僕らは着替えると、受付でもらったサンドイッチを食べ始めた。
「それで、今日はどうするの?」
アカネが聞くと、ヒマリは暗い顔をした。
「大丈夫。策はあるよ」
僕がそう言うと、アカネはサンドイッチを頬張りながら、
「さすが参謀総長」
アカネ、しゃべるか食べるかどっちかにしてくれ。あと参謀総長ってなんだ。なぜかヒマリも真面目な顔で頷く。
「今日の夕方16時頃に堺駅に行こう。最終兵器を持ってね」
「最終兵器?」
ヒマリがひそめる。僕はヒマリの座る椅子の横に立てかけられた、「最終兵器」を指さした。
苅谷緑は塾から出ると、堺駅へ歩き出した。ワイヤレスイヤホンはつけない。マシロが死んだあの日から音楽とはすっかり縁を切ってしまった。ギターも触っていない。それでも脳内には音楽が鳴り続けている。andymoriの『peace』。マシロはこの曲をカラオケでよく歌ってた。気づけば駅がすぐそこに見える。ロータリーの外周を歩きながら、私はいつの間にかマシロが好きだったあの曲を口ずさんでいた。
弟よ 二人でじゃれた日々が懐かしいんだ
姉さん 会いたいよ いつでも思ってるよ
こんな儚い世界の中に信じた歌がある
こんな儚い世界の中に信じた人がいる
いや、これは私の声じゃない。意外と低くて力強い声。少し荒々しいアコースティックギター。私は思わず駆け出した。バス停の近くの電柱に寄りかかりながら、彼女は演奏していた。懐かしいシルエット。長い髪と小さな体。そしてあの鋭い目。気づけば私は叫んでいた。
「マシロ!!」
私の目の前には、ショートカットの女子高生が、泣きそうな顔で、肩で息をしながら立っていた。私はニコリと微笑んで言った。
「お久しぶりです、苅谷さん。覚えていますか? マシロの妹、ヒマリです」
「ヒマリ……ちゃん?」
苅谷さんは鞄を地面に落とし、呆然としている。
「苅谷さん、今日は貴女から、お話を伺いに来たんです。私の姉で、貴女の親友だった、マシロの話を」
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