第9話 青い恋

 後ろでバサッと音がした。振り向くとアカネが布団を吹き飛ばしていた。

「アカネちゃん寝相悪」

 ヒマリは朝から辛辣だ。ヒマリは椅子から立つとベッドの上に座ってあぐらをかき、僕の顔を見てニヤニヤしながら尋ねた。

「ところで、コーセーくんはさ、アカネちゃんのどんなところが好きなの?」

 どんなところ……そうだなぁ……

「アカネって、知らない人の前では静かだけど、本当はけっこうおしゃべりでしょ。あのおしゃべりのお陰で、退屈だった文芸部がすごく楽しくなったんだ」


 アカネが文芸部に来る前、第2多目的室はほとんど僕の読書室だった。特にやりたいこともなく、ただ時間を潰すために本を読む。たまに聞こえてくる他の部活の活気溢れる声に少し羨ましさを感じながら、しかしそう言った活気は僕には無縁なのだと諦めながら、ただひたすら文字を追う。こんな日々の繰り返し。明日が来なければ、と思ったりした。どうせ代わり映えしない日々が続くだけだ。案外、死んでしまったほうが幸せかもしれない。

 しかし、アカネが文芸部に入部すると、退屈だったはずの時間に彩りが加わった。

「ねえ、知ってる? ヨッシーが授業中に立ちながら寝てて、それを清水先生に見られてこっぴどく叱られたんだって。授業中に立ちながら寝るって、ヨッシー意外と器用よね。今度どうやってやるか教えてもらおうかしら」

 こんな具合に、アカネはくだらない話ばかりするのだが、そのくだらない話が僕には新鮮で面白かった。第2多目的室にいるだけで、色々なところに行って、色々なものを見ているような、そんな気分になった。


「アカネは僕のかわりに楽しいこと、面白いことをたくさん見つけて来てくれたんだ。アカネの好奇心こそが、僕にとっての最大の救いだったんだよ」

「でも好奇心の塊なのは、実はコーセーくんの方かもね」

 ヒマリは少し意地悪そうな顔で言った。ヒマリは寝ているアカネの頭を優しく撫でる。

「だって、こんなに困ったちゃんのアカネちゃんのことを好きになって、散々振り回された挙げ句、色んなものが見れて楽しかったって言っちゃうんだもん」

 確かにそうかもしれない。きっとアカネは、自分が自分らしくいられる安住の地を、安心して座れる「席」を探していた。そして対照的に僕は、アカネを通して「席」を離れ、色々なところを旅したいと思っていたのだ。

 アカネとずっと一緒にいたい。僕はアカネの「席」でありたいし、アカネと一緒に面白い冒険をしたい。アカネと一緒に明日を夢見ていたい。いま初めて分かった。僕はアカネのことが、本当に好きなのだ。


「ところでヒマリ、さすがにそろそろ服を着てくれないか? せめて、その姿勢はやめてくれ。目のやり場に困る」

 あぐらをかいているせいで、秘密の場所がほとんど露わになってしまっている。ヒマリはなぜか嬉しそうに笑った。

「アカネちゃんったら、私のこと幼児体型って言うんだよ。確かに否定は出来ないんだけど、人から言われるとさすがにイラッとするよね。でも、コーセーくんが目のやり場に困るくらいの魅力はあったみたいで、少しホッとした」

 確かに胸はほとんどないが、陰毛はしっかり生えている。確かに女子高生の裸だ。意識しないわけがない。

 そう思っていると、アカネが寝返りをうった。バスローブがはだける。ほとんど丸裸だ。胸はそれほど大きくないが、それでも丸みを帯びていて柔らかそうだ。陰毛は少し薄く、うっすらと割れ目が見えている。アカネの裸に釘付けになっている僕を見て、ヒマリはフフッと笑った。

「やっぱり彼女の裸が一番みたいだね」

 僕は赤くなった。

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