第7話 おあいこ
「お腹空いたわね。ねえ、串カツ食べない? 大阪と言ったらやっぱり串カツよ」
ヒマリは異論を唱える元気もないみたいだ。ホテルに行く前に僕たちは串カツ屋に行って夕食を食べた。ヒマリは小さな体に似合わず、ガツガツ食べた。半ばやけ食いだった。
僕たちはホテルの部屋に戻ると、3人ともベッドの上に倒れ込んだ。一日中歩いて、もうクタクタだった。
「ねえ、お風呂入りましょう」
確かにそんな時間だった。さて、誰が先に入るか。
「僕は最後でいいよ」
「私も後でいいです」
「私先入りたい」
さすがアカネ。遠慮というものを知らない。彼女はスタスタと風呂場に向かうと、扉の前で振り返り、ニヤニヤしながら言った。
「ヒマリ、一緒に入らない?」
ヒマリは大きなため息をついて、
「二人も入るスペースないでしょ」
「まあ、なんとか入るでしょ。ほらほら」
そう言ってアカネはヒマリを引っ張っていった。ヒマリの抵抗も虚しく、彼女風呂場に連行されていく。あの細い体のどこにそんな力があるんだろう?
僕は風呂場の扉に向かって、
「僕、ちょっと散歩してくるよ」
と声を掛けた。明日のことを考えないといけない。
「何、ジロジロ見て」
バスタブの中のアカネちゃんが、体を洗っている私の体をジロジロ見てくる。
「ヒマリの裸、初めて見たけどさ、なんていうか……」
私はアカネちゃんの顔面にシャワーをかけた。この前、私の家に来たときに、着替え中の私を見て、コイツは私の体を幼児体型と言ってきたやがったのだ。……否定は出来ないが。
「ちょっと、呼吸が、ゲホゲホ」
仕方ない。苦しそうなのでシャワーを逸らしてやる。私は体を洗い終えると、アカネちゃんの前に座り、彼女の体にもたれ掛かった。背中から感じる2つの膨らみが憎い。
「ごめんごめん、元気なかったから慰めようと思って」
「セクハラが慰めになるわけないでしょ」
そう言いながらも、少し元気が出てきたのは事実だ。まだ明日がある。諦めたらそこで終わりなんだ。
バスタブから出るとあることに気づいた。
「下着、キャリアケースの中だ」
アカネちゃんに連行されて来たので、下着を持っていくのを忘れたのだ。当然、アカネちゃんも持って来ていない。
「コーセーさんが外出中でよかった」
そう言いながら風呂場を出た。キャリアケースの中から下着を探していると、アカネちゃんが、
「えっ、ヒマリってブラジャーいるの?」
流石にカチンときた。
「そんなに言うなら触ってみなよ、ホラ!」
そう言ってアカネちゃんの右手を私の左胸に押し付けた。その時……
「ただいまー」
コーセーさんが部屋に入ってきた。
5秒ほど、時が止まった。
「きゃーーーーー」
「うわーーーーー」
私とコーセーさんが叫ぶ。アカネちゃんは何故か堂々としている。私は急いでバスローブを羽織った。アカネちゃんにもバスローブを投げつける。さっさと着ろ。
「その、僕、お風呂入ってくる!」
コーセーさんが風呂場に駆け込んだ。
完全に、見られた。上から下まで、全部見られた。もうお嫁にいけない。
「まあ、その……ドンマイ」
ドンマイじゃねえ。アカネちゃんは彼氏に見られたのだからいいだろうが、私は部活の先輩に見られたのだ。被害の度が違う。
するとアカネちゃんは、呆然とする私の手を引くと、風呂場の扉の前に連れて行った。中からシャワーの音が聞こえる。アカネちゃんは扉を思いっきり開けた。コーセーさんが体を洗っていた。
「これでおあいこってことで」
そういうとアカネちゃんは扉を締めた。
しっかり、見てしまった。
「……立ってたわね」
立ってた、じゃねえよ。立ってたけど。そりゃあ立つだろ。
「それにあの感じ、被ってるわね。まあ、私は気にしないけど」
コーセーさん、まあ、その……ドンマイ。
それにしても、完全にお互い裸を見合ってしまった。明日からどんな顔して接すればいいんだろう。いや、もう、なんだか、どうでもよくなってしまった。私は悟りを開いたような気分になった。裸が何だ、もう知るか。どうせただの裸だ。裸は裸であり、それ以上でもそれ以下でもない。つまり、私は裸を見られ、そして裸を見た。ただそれだけだ。ただそれだけなんだ。私はトボトボとベッドに向かい、そのままダイブして寝た。
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