第6話 詰み

 大阪に着くと、僕たちは電車に乗り堺に向かった。堺につくと、駅の近くのホテルに行きチェックインをすると、部屋で荷物をおろした。

「お腹空いたわね。ねえ、お好み焼き食べない? 大阪と言ったらやっぱりお好み焼きよ」

 僕もヒマリも異論はなかった。僕たちは近くのお好み焼き屋で昼食を済ませた。13時半。ライブハウスが開くまで、まだ2時間半もある。

「堺と言ったらやっぱり大仙古墳よ。ライブハウスも近いし、行きましょう」

 アカネが何だかいきいきしている。よっぽど観光が楽しみだったのか。僕たちは電車で大仙古墳に行き、1時間半ほど観光を楽しんだ。アカネは歴史に興味があるというより、観光気分を味わいたかったようだった。元気よく古墳周辺を闊歩する。一方のヒマリは優等生らしく興味深そうに遺物を眺めていた。

「大仙古墳って世界3大墳墓の一つなんですね」

 看板を見てヒマリが言うと、

「え? 私が世界3大美女の一人だって?」

 どこをどう聞き間違えたらそうなるんだろう……

「はい。アカネさんは世界3大奇人の一人です」

「世界3大貴人?いやー照れるなぁ」

 アカネ、「き」の字が違うぞ。ヒマリは絶対零度の目でアカネを見ている。少し前はこんな目をする子じゃなかったんだが……


 大仙古墳を十分満喫すると、ライブハウスに向かった。前田さんから教えてもらった住所を頼りに行くと、ちょうど16時頃にライブハウスに到着した。

「2回目でもやっぱり慣れないわね」

 アカネが緊張した面持ちで言った。前回同様ファイティングポーズをしている。カチコミにいくわけじゃないんだが……

「大丈夫ですよ。今日はただ話を聞きに来ただけです。すぐ済みますから」

 ヒマリが快活に言った。

 僕たちはライブハウスに入ると、まっすぐ受付に向かった。

「すいません。出演者の中に苅谷緑という名前の方はいらっしゃいませんか?」

 ヒマリが丁寧に尋ねると、受付の人は「ちょっと待って」と言ってパソコンで何か調べだした。

「悪いけど、苅谷さんって人はウチには来てないよ。過去の出演者を調べてもいなかったから間違いない。まあ、お客さんとして来てたなら話は別だけど」

 ヒマリは暗い声で、

「そうですか。すいません、ありがとうございました」

 僕とアカネは、トボトボと出口に向かうヒマリの後を追った。


「どうしましょう……これじゃあ、苅谷さんに会うのは難しそうですね」

 ヒマリは落ち込んだ様子で言った。

「諦めるのはまだ早いさ。この近くの高校に行って、下校中の人に話を聞いてみよう。もしかしたら知り合いがいるかもしれないよ」

 僕たちは近くの高校に向かった。校門の前に立ち、3年生っぽい人を中心に何人かに話しかけた。アカネは人見知りが発動して僕の後ろに隠れている。大仙古墳での元気はどこにいったのか……

 もう20人目かというところで、やっと苅谷さんを知っている人に会うことが出来た。

「苅谷緑? ああ、あの転校生か。でもアイツ、けっこう無口でさ。転校してまだ半年しか経ってないし、連絡先知ってる人は一人もいないと思うよ。電車通学だから、どの辺に住んでるのかもよく分かんないし。そのうえ、今は夏休みで、部活に来る人以外は学校来ないから、少なくとも夏休みの間は学校に来ることはないんじゃないかな? うちの学校は補習とかほとんどやってないから、それで来るってこともないし」

 いよいよ手がかりがなくなってしまった。彼女は夏休みの間学校に来ない。高校に友達らしき人もいない。つまり、夏休みの間、彼女はほとんど家にいると予想される。しかし、その家がどこにあるのか分からない。

「こりゃあ、完全に詰んだわね」

 アカネがそう言うと、ヒマリはガックリと肩を落とす。地べたに座りこむと、下からアカネのスカートを除き、「今日は黒なんですね」と呟いた。アカネがヒマリに拳骨を食らわす。ショックのあまり、完全に壊れてしまったようだ。

「とりあえず、今日のところはホテルに戻ろう」

 僕がそう言うと、ヒマリは小さく頷いた。



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