第3話〈消える〉

「オミくんが〈消えた〉って」

「はい、人が〈消える〉と噂のバスターミナルで。俺、アヅマが〈消える〉とこ、見たんですよ」

 俺が本題を切り出す。

 ウサギ先輩は返答に窮す、という顔をした。噂は噂、都市伝説や思い込みの話にすぎないと思っているようだった。

 聞きにくいことを聞くが、という体裁でウサギ先輩が口を開いた。

「オミくんとタケくん、喧嘩でもしたの」

「喧嘩ですか」

 思わぬ問いに、今度は俺が黙り込んでしまう。アヅマが〈消えた〉ことと、あの日の諍いが関係あるものだとは到底思われなかったのだ。俺はウサギ先輩に話を解ってもらえなかったようで、悔しくなった。

「アヅマが〈消えた〉のは、とんだとか、そういう現実的な話じゃないんです。もっと超常的な、神隠しのような……」

「わかってる。目の前で〈消えた〉んだろう。あのバスターミナルで」

 ウサギ先輩は店内の鳩時計を気にかけながら、俺に向かって微笑みかける。わかってる、全部解ってる。心配いらない。という風に。

「俺の知り合いに、この街で、特にあのターミナルでの失踪事件について調べてるやつがいる。そいつを訪ねてみるといい」

 あ、いや別に、俺はそいつとグル、って訳じゃないんだよ。金をとるようなやつじゃないし。

 ウサギ先輩は汗をかきながら弁明した。

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