第3話
銀の輝きが線を描く。
その軌跡に沿うようにして、そこにあった全てのものが分かたれていった。
そのまま幾度となく銀閃光が煌めき、目の前の存在が細切れになっていく。
最後の一閃を区切りにピタリと止まったその輝きには、
「何度見ても化け物じみた動きだな」
「そいつぁどうも」
ネアンからの皮肉めいた称賛に軽口で返し、銀色に光る剣を鞘に
一見すると狼のような見た目をしているものの、頭部からは鋭く尖った角が生えておりただの獣との違いを見せている。
大きさも通常の狼より一回り大きく、何よりもさっきまで生きて動いていた際普通の獣にはありえない身軽な動きで辺りを跳ね回っていた。
『ホーンウルフ』。
この『へギン大渓谷』を縄張りにしている狼型のモンスターである。
先程から二人はこの『ホーンウルフ』を筆頭に多種多様なモンスター達に何度も襲われていた。
「ここのモンスター共はそこいらのモンスターとは桁違いの実力だと聞いたがな」
「そうだなぁ、この渓谷に住んでいるモンスターは確かに他の地域に住んでいるやつより
「その割にはお前はさっきからどのモンスターも一撃で屠っているがな」
「そりゃなんやかんやでこれでも世界最強なんでね」
本人の言うとおり襲いかかってくるモンスターを尽く剣の一振りで斬り落としていくラウナが異常なだけであって、ここに住むモンスター達の質は非常に高い。
ここに住むモンスターと同種の個体だろうと別の地域で生まれ育ったモンスターの場合天と地ほど実力に開きがある。
最早この場所と別の地域ではモンスターは別種の存在であると考えたほうがいい。
そもそも本来モンスター達は本能的に実力差を悟ってかラウナに襲いかかろうとすることはまずない。
なまじこの場所のモンスター達は他より強すぎるが故にラウナが相手でも襲いかかってしまい、返り討ちにあっているという訳だ。
「確か魔王城が近いせいで強力な上級魔族達とも会うことがあるせいで人が来なくなったからモンスターが集まってきたんだっけ」
「そうだ。その大量のモンスター達が互いに殺し合いをしより強い存在が生き残ってきたから強力なモンスターの巣窟となったという訳だ。ついでに言えばこの場所自体がモンスターが産まれるのに必要な『マナ』の宝庫だというのもある」
万物の根源とも言われる『マナ』。
魔力とも言われる魔法を使用するための燃料であるそれは、魔物の体を構築する素体でもある。
人や魔族は『マナ』を身に宿しそれを消費することで魔法を行使する事ができる。
『マナ』は目に見えず触れることもできない。そもそもこの世に物質として存在しているかも判らない謎のエネルギーだ。
唯一分かっているのは不可能を可能にする奇跡が起こせるということ。
創生の神【アドミナ】によって世界に与えられたとされているこのエネルギーは万物に宿り人々によって利用されている。
しかし良いことだけではなくモンスターを生みだし人々にとって危険も与えている。
謎多き力という訳だ。
ともかく、モンスターの体は『マナ』によって作られている。
故に普段はともかくモンスターが生まれる際には『マナ』が必須なわけだ。
必然『マナ』が豊富な場所にはモンスターが集まりやすく強力なモンスター達の徘徊する魔境となることが多い。
ここ『へギン大渓谷』はその最たる例という訳だ。
「まあ強いモンスターは山程来るがその分人と出くわさないのがのがこういう場所の利点だな」
「確かに面倒な関わりは無くていい」
顔が知られていないネアンは別に人間と会ったところで何も問題がないが世界的に超有名なラウナに関しては人と出逢えば色々と面倒事が待っている。
それが嫌なために昔から割とよくこういう危険地帯に居たりもした。
まあそれが原因で危険なモンスターなんかと
嫌な記憶を思い出し、ラウナは少し顔を
「しかしそろそろお前が言っていた拠点とやらに着かないのか。城を出てから移動し続けているが未だに影も形も見当たらないぞ」
「ああ、それならそろそろ着くぞ」
ラウナが指を指した先、砂塵が舞い上がり隠れていた遠方の岩陰に小さな小屋が建っていた。
まあ小屋と言うには周りが随分と無骨な見た目ではあったが。
小屋の外壁は全て金属で出来ていて、この渓谷に住むモンスターに壊されないような頑丈な設計となっている。
中でも扉に至っては世界最硬の金属と言われるオリハルコンで出来ており、この辺りのモンスターに最大限気を使っているのが分かる。
小屋というよりは重厚な金属の巨箱と言った方がいいあれは、ラウナ曰くこのへギン大渓谷での活動拠点だという。
どこを拠点にしているのだと言いたい所だがこれでもこの辺りは渓谷内でもまだモンスターが少ない地帯だ。
その証拠にさっきまで続いていた襲撃が今は治まっている。
一応場所に関してはちゃんと気を使っているらしい。
まあそもそもこの渓谷内に拠点を作っているところがおかしいのだが。
「やれやれ、やっと到着か」
「言っても城を出てからまだ三日だけどなぁ」
小屋の前まで辿り着き少し体を伸ばす。
歩き続けてきたので少しだけ気疲れはある。ここでしばらくは休んでいこう。
(しかし、あいつにネアンのことどう言ったもんかなぁ)
小屋の中でこちらを待っているであろう連れの顔を思い浮かべ頭を抱える。
どう考えても面倒事が待っている為になかなか扉を開ける気になれなかった。
「おい、何をバカみたいに突っ立っている」
「あちょっ、待っ……!」
そんな悩みをこいつが知るわけもなく、一人先に扉を開けて入ろうとする。
慌てて止めようとするももう遅かった。
「あ、やっと帰ってきた?」
そう言ってこっちを振り向いてくる影が一つ。
「おかえり〜ラウ……」
「誰だこいつは?」
当然先に入ってしまったネアンとのご対面になり目を点にして固まる。
一番面倒なことになったと察したが無視しよう。
もうこうなったらなるようになるだけだ。
「よっ。久しぶりだな、アンテ」
「なっ、ななな……」
こちらを、というか主にネアンを見つめながら口をパクパクさせている。
まあそうなるわなぁと思うもののそこまでいい
まあいつも少し
そんなこいつは暫く口をパクパクさせ続けた後、勢い良くこちらに跳びついて、いやっ跳びかかって来た。
「こいつ誰よ!?」
こうしてネアンを指差しているのが、俺の唯一の仲間、というか契約した精霊であるアンテ。
一応この場所に置いてある食料品なんかの荷物を守ってもらっていた旅の仲間だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます