放課後、哲学、生死

極論だが、我々は皆コピーに過ぎないと思う

親や兄弟、創作の人物や歴史上の人物、彼らから我々は影響を受ける

意識する、しないにしろ事実、我々は引用をしている

であれば、オリジナルとはどこにあるんだろうか?

私が自分で作り上げたものなんてあるのだろうか?


「ツギハギだらけの贋作とはまさに私にぴったりな表現だ」

放課後の夕暮れに照らされ、少女は憂鬱そうに言葉を吐いていた


「お前ほど個性的なやつは今まで見たことないんだけど…」

あいも変わらず、少年は『煙』の隣の席に座っていた


「それ、君が無知なだけ」

毒だ、純度100%の罵倒が少年を襲う


「知ってんだよ、そんなこと」

珍しく苛立ちを含んだ声を少年が発した


「『無知の知』、ね」

ポツリと溢れる水滴のように一言


「ソクラテスだっけ、それ?」

爪を弄りながら少年は問いた


「うん…レスバ、しすぎて、殺された」

煙はどこか悲しい口調で言った


「馬鹿だよな、冤罪なのに逃げることは正しくないからって死んだの」

少年は実感の篭った声で嘲笑った


「それ、違う」

強い否定だった


「もし逃走したのなら、彼は今までの自分を殺したのも同然」

「ソクラテスは最後まで自分の信じる正しさを追求したの」

氾濫する川の流れのように激しい言葉だった


「……ふん、信念を貫いたって、死んだら終わりだろ?」

少年は少しの沈黙の後にそう言った


……

パン!勢いよくピンク色の手帳が閉じられる

少女は黙って立ち上がると、教壇へ歩み出す


少年は不思議に思いながらも、授業を受けるかのように教壇に視線を送った


「ある人はこう言った『跪いて生きるより、立って死ぬ方がマシだ』と」

「我々は死を迎えようとも、我々の信念が残れば、そこに生きた意味が生まれる」

「無意味で惰性な生よりも、無意味な死よりも、きっと意味を残して死んだ方がいい」

「そう思わないなら、君は君の無様で空虚な生を謳歌すればいい」

「一生隅で蹲ってればいい」


そう言い残し、少女は教室を出て行った


「…お前はどんな意味を残したいんだ?」

呆然と夕焼けの赫い雲を眺める


「……といか、いつもの喋り方はどうした」

届かない言葉を零しながら少年は考える


それは、誰に向けた言葉なんだ?


隣の机にあるピンク色の手帳が妙に目を惹いた


といか…荷物どうすんのこれ?

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