第6話
「じゃあその、国内でも有数の長者モガリの加美山に狙われてるってわけ……?」
夏の日差しを拒む室内で、和泉は神妙に繰り返した。
昨日に言われたことを処理するのに半日は要したのだ。長らく様子のおかしい千和を気遣っていた和泉だが、無理に聞き出すことはしなかった。そして自ら口を開いた千和の話を聞き、見たことがないほどに険しい表情を浮かべていた。
「でも……でも大丈夫よ。仁さんがどうにかするって言ってるし、何も害はないはず。だってほら、あんたが昔変な記者に追われた時だって、ストーカーされた時だってどうにかなったし、それと同じだよ」
それぞれ過去のものとなった事件を思い出す。変な記者には付きまとわれ、ストーカー紛いの末に盗撮の罪で送検まで行った。高校時代に遭ったストーカーは正真正銘、辞書通りのストーカーで、二人の人生史上最悪の存在だった。家を特定されたために引っ越し、転校せざるを得なかった。
しかしそのどれもがなんとか解決に至った。時折力技でどうにかしたこともあったが、最終的には公権力で収めた。今回に関しては仁の力がどれほど及ぶのかが未知数ではあるが、あの長者番付を信じれば、そこそこ戦えるだろう。
そんな千和の目算は和泉に届いたのだろうか。
「目をつけられちゃったなら、しょうがないとは言えないけど、もうどうしようもない」
「いつも目つけられてる側の覚悟は段違いですわ」
「嬉しくないな、その講評。……後は仁さんに頼るしか……でも千和に何かあったら、俺だって黙ってないからね」
いつもの千和みたいに、と形のいい眉を潜める。いつになく気概を込める和泉に千和はふっと笑って言い返した。
「じゃあいざという時のために稽古つけてあげるよ」
「うっ……それはまた話が違ってくるかも」
フィジカルの強さは千和に分があり、頭脳は和泉に分がある。潜在する力が見事に分散されている様は双子らしいとも言える。まるでお互いを補い合うことが生まれながらにして決められているかのようだった。
その反面で二人に平等に与えられた美貌。天はそれぞれに二物を与えた。
*
数日後。
夏休みを満喫しつつ、レポートに悩む千和の元に届いたメール。それは慣れた様子で予定に割り込み、千和の腰を上げさせた。
「和泉、ちょっと行ってくるから」
慌ただしく靴を引っかけながら言うと、奥から弟がやって来る。
「晩御飯はあり合わせでなんかつくっておくからお気になさらずー」
「ありがとっ。それじゃ」
そこら辺の主婦顔負けの対応力に感謝が溢れる。千和も料理はできるが和泉には敵わない。繊細な味付けやレパートリーなど、どこから繰り出しているのかと思うほどである。
外に出れば、照り返す日差しが肌に刺さる。そしてその光をも吸収してしまいそうな黒塗りの車がひっそりと停車していた。近づくとガシャリと鍵の開く音がする。乗車許可と同義のそれを確認してからそれに乗り込む。
「今日もお願いします」
鷲田はいつも後ろを一切振り向かない。運転中に面と向かう事はほぼ無いし、目線が逢うこともない。
「ああ」
いつもこの短いやり取りだけが交わされていた。
発車してしばらく、目的地が既に通い慣れた京月邸とは違うことに気が付いた。良く知らない道を走っている。
「染原」
「は、はい」
珍しい呼びかけに千和の返事も上ずる。自然と背筋が伸びた。
「今日はボディーガードじゃない。目的地には若が先に到着している。それだけ覚えておけ」
「分かりました……?」
相変わらずの説明不足だと思うが、この先に仁が先乗りしていることが分かっただけ収穫である。唐突に登場されるのは心臓に悪い。
京月邸より近い三十分程で車は目的地に到着したようだった。
五階建てのマンションのような建物。だがそれらしい名前も看板も何も掲げられていない。駐車場も満足に無い。物置もない。
「来い」
先に降りた鷲田について行くと、エレベーターホールと思われる場所に郵便受けが設置されていた。だがそれは全ての口がガムテープで塞がれており、居住者などいないと示していた。
千和の心に一気に不信感が募る。密かに警戒を強めて背の広い鷲田について行く。
鷲田が入室したのは三階の一室。どこをどう見ても単なるアパートのようだが、生活感はない。
「鷲田さ――」
「若」
千和の問いは鷲田の声に遮られた。その視線の先にはソファに座する仁の姿。普段過ごしている執務室とは雲泥の差がある日常感に、千和は何度か目を瞬いた。
「お待たせしました」
「ご苦労。後はいい」
小さく頷いた鷲田はそのまま部屋を後にした。
二人きりの室内。護衛でもなく執務でもない現状に千和の混乱は加速していく。
「困ってるな」
「ええ……だって何も説明されていませんから」
「では、質問したいことがあれば聞こう」
その言葉にキュッと眉を寄せる。聞きたいことは山ほどあるが、簡潔に述べるのが吉であるとは十二分に理解している。
「じゃあまず、ここはなんなんですか」
「ここは、スタジオだ」
「スタジオ?」
千和は部屋を見渡すが照明や音響機材などはないし、何よりスタッフなどいない。仁に怪訝な視線を注ぐ。
「とはいっても、表通りを歩けるようなスタジオじゃない。裏通りの御用達だ」
「…………」
「ここに今は我々だけ。別に撮影なんかはしない。ここにいるという事実を加美山に伝えるためだけに来た」
忌まわしい名前から、これは仁が先日言っていた〝工作〟の一環なのだと気が付いた。すると自ずとこの場所の意義も浮き出てくる。
「……ここにいれば、私を狙う理由が無くなる、ということですか」
「このスタジオに男と女。俺らの世界じゃそれで伝わる」
千和は口を真一文字に結んだ。この世界もその世界も、どんな世界のことも知らない。ただ今分かるのは、自分が生きる何の変哲もない日常からかけ離れた場所に放置されているということだけ。そう思うと、どうしても落ち着かなかった。
「別に自由にして構わない。イスに座ってもいいし、ベッドにダイブしてもいい。レポートを書いてくれたってかまわないよ」
体を固くする千和に仁は薄く笑って言った。
「レポートを書く道具は持ってないので……座っています」
せっかくの提案だが、勉強道具は家に置いてきてしまった。今度こういう事をするなら事前に行って欲しいものだと内心思う。
「提出期限まで残り少ないが、進捗はいかがかな?」
「……プレッシャーかけないでください」
「ハハ、健闘を祈るよ。千和の実力なら優は簡単に取れるだろう。目指すは秀だ。もちろん、和泉くんもね」
「そういうのがプレッシャーって言うんですよ……!」
学校の話題でいくらか心がほぐれる。久々に見た教授としての仁に安心したのもある。教室で見ていた温和な表情だったからだ。
そんな簡単なことで千和は少し元気を取り戻した。
「あの、聞いてもいいですか」
「質問による」
「教授職のことです。なんで教授をされているのかなって、ずっと疑問で」
ああ、と仁は空を仰ぎ見た。なんてことない英単語の質問に答えるかのように口を開いた。
「前も簡単に言ったかもしれないが教授職は暇つぶしだ。父が健在の頃は俺のモガリとしての執務も多くはなかった。ちょうど英国留学で教授に必要な単位は取っていたし、気の慰めになればと思ってやっていたことが今も続いているというだけだ」
「……すごいですね」
「そうでもない。英語や文学には、昔救われた恩がある」
「恩?」
「そろそろ分かってきたと思うが、この世界は虚像に満ち溢れている。一方で文学も多くは虚像を求めて描かれた虚構だ。同じ虚像を追うのなら、救いのあるものを追いたくてね。多感な時期は色んな世界の文学を読み漁ったものだ」
「……仁さんにもそんな時期があったんですね」
「俺をなんだと思っているんだか」
千和が目を丸くしたのに対し、仁は可笑しそうに微笑んだ。
二つの顔を使い分ける彼にも、千和たちのような若い時期があったのだと改めて認識した。それほどまでに仁は別世界の人間で、過去さえも簡単には読み取れない存在だったのだ。
「一番好きな作品はあるんですか?」
続く質問会に、仁はふっと唇を緩めた。まだまだ青い若人に教えを諭すような表情である。
「一番を決める問いは最も愚問だとは思わないかい? この世には人の数の倍ほども作品があると言うのに」
「それは……そうですね」
「人は好みでも地位でも、すぐに一番を求めたがるが、それになんの意味があるだろうか」
「……というと?」
「モガリだってそうだ。勢力図なんて、一夜で塗り替えられるような脆い土台の上に立っている。全てが不出来な一夜城だ。そしてそのるつぼにいる人々は命が尽きるまで捕らわれる。上を目指し、もがき苦しみ、手を汚し……そんな世界にいると、文学の美しささえ、香り高いだけの嗜好品に思えてくる」
千和はそっと口をつぐんだ。秘密の繋がりができてから冷徹で淡白に見えていた仁に、人間らしさを見た。それは初めてとも言えるもので、彼も彼で置かれた現状に憂いているのだと分かる。そして大学の職を続けている理由も。
「でもせんせ――仁さんは、美しい文学作品に救われてるんですよね。英語版の源氏物語とか」
「先生」と言いかけて、千和は慌てて言い直した。かつて夢見た、京月准教授と他愛もない会話をしている気分に陥ったのだ。
「よく覚えているな。さすが、我が講義で優秀な学生だけある」
この場にいる本来の目的さえ忘れてしまいそうなほど、千和にとっては有意義な時間だった。仁とは業務以上に立ち入った話はあまりしたことがなかった。その分この時間はレポートを書くよりも貴重なものとなったのだった。
その後もゆっくりと話をし、仁がふと時計に目を落としたのをきっかけに呼び鈴が鳴った。
「千和は鷲田と。俺は別で戻る」
鷲田の姿を確認すると、仁は短くそう言った。教育者の顔はすっと裏に消えていた。
「あのっ」
その変化に少しまごつきながらも千和は狭い玄関の仁に追いつく。
「今日は、ありがとうございました」
ボディーガードとしてではなく、彼の生徒として頭を下げた。
それに返事は無かった。ただドアが静かに閉まる音だけが室内に響いた。
*
翌日。この日は夕方になっても、千和は相も変わらずレポートの処理に悩んでいた。提出は明後日と迫っている。今日で何も進展が無ければ、向こうの部屋にいる弟を引きずりだそうと密かに考える。
するとスマホが振動した。
千和は微かに顔を引きつらせる。この時間にメッセージを送ってくるような相手は想像に難くない。
小さな抵抗として薄目で見てみると、案の定だった。差し出し人は鷲田。出発時刻だけが記されている。
「和泉ー!」
仕方なく用意しながら叫ぶと、奥の部屋からパタパタ駆け寄って来る。
「まさか今日も呼び出し?」
千和の様子を一目見るなり和泉はゲッという顔をした。千和は昨日の詳細を語ってはいないが、ボディーガードの仕事ではなかったのは察しているようだった。
「そう、急にね。ていうか最近人使い荒くない? 夏休みとはいえ、レポート残ってるんだけどぉ」
仁はその辺の事情を理解していそうだが、千和に関してのっぴきならない事態がまとわりついているのも事実だ。早いところどうにかしたいと言う彼の気持ちも分からないでもないし、放置して自分たちに危害が加わろうものなら、とんでもないことである。千和としても妥協せざるを得ない状況である。
「ってことでごめん。今日もまた留守にする」
「うん。気を付けてね。でも明日は買い物があるから呼び出されないように言っておいてよ。ウチの冷蔵庫もピンチなんですって」
「了解。それくらいは死守しないとね」
いってきまーすと声高に言う。しっかり戸締りをして出、鷲田の車に乗り込む。
外はもう夕暮れにも近かった。遠くの山に太陽が隠れそうで、街は薄闇に包まれている。黒塗りの車はそれに紛れて静かに走る。
今日の目的地は京月邸だった。
しかし中には入らない。ここで待てと指示されたのは玄関にも近いロータリー。そして鷲田の運転する車は去って行った。
首を傾げて待っていると、もう一台の車がやってきた。鷲田のではない。名前は知らないが、前に街で見かけたのを和泉が「高いやつ」と言っていたのを思い出した。つまりこれは高級車だ。洗車したてかのように汚れは無い。ライトが控えめに、だがスポットライトのように千和を照らした。
「千和、乗れ」
「……仁さん⁉」
車から顔を出したのは仁。歩道側に運転席があるということは、これは外国車だ。
言われるがまま、クエスチョンマークをたくさん浮かべながら助手席に乗り込む。
車は静かに走り出した。騒音など無い車内には優雅にノクターンが流れる。
「あの……」
「なんだ」
「今日……珍しいですね」
恐らくこれは仁の愛車。全てが反対になっている運転には大分慣れているようだ。片手でハンドルを回し、リラックスしている様子である。そんな仁のせいで、千和は混乱に拍車がかかる。ここに乗っている現状もなぜなのか分からず、千和の心臓はただ忙しくなるしかなかった。
「今日も昨日の続きだ」
「え」
唐突に言ったきり、それ以上何も言わなかった。
昨日の続き、と言われて分からないほど千和は子供でもない。また同じように密室に引きこもるのだろうか、それとも……。今後に備えようと頭を巡らせるが、予想できる知識など大して持ち合わせてはいない。千和はしょうがなく外の景色を眺めた。
早くもネオン光る繁華街を過ぎようとしていた。この先は暗い。
やがて到着したのは街の郊外、京月邸の反対側とも言える場所だ。控えめな看板のあるここは、一応何かの店らしい。ペンションのような小さい建物がいくつも並んでいる。
「なんですかここ、一軒家?」
車はその中の一軒に停車した。促されて降車し、周囲を眺める。
他の建物には車が何台か停められていて、室内に明かりも点いていた。
「プライベートを確保できる、男女のための休憩場所だ」
「……それって……」
千和の少ない知識でもピンとくるものがあった。もちろん来たことなど無いが、先日のスタジオに比べれば耳にしたことのある場所だった。
「二人きりでここに入って、何もせずに出てくる、なんて興覚めたこと、普通はしないだろう」
「これでダメ押しってことですか」
「そうだ。奴はきっと見張っているから、このことも伝わるはずだ」
「むしろ逆上しませんかね。こんなにあからさまに行動して……」
すると仁はおかしそうに肩をすくめた。
「逆上して自壊してくれれば一番楽なことはないんだけどな。今のところ、その我慢強さだけはあるようだ」
室内は大して広くもない。仮にも家の形をしていたスタジオと比べたら、ワンルームといったところか。カーテン付きの大きなベッドがいやらしくて千和は目を逸らした。
「基本的には男社会のモガリだ。千和の美貌に喰いつくやつは今後も出てくるだろう。その度にこんなことはしてられない。加美山ほど厄介な奴はいないがな」
「じゃあ私を表に出さないようにすべきでは?」
適当にソファに座った千和は少しムッとして返した。加美山の件も、慣れないドレスアップのせいではないかと勘繰っていたのだ。
「それが一番簡単だが、毎回そうもいかない。だからこれを渡しておく」
ツカツカと歩いてきた仁はコトリと小さな薄紫の箱をテーブルに置く。
「…………?」
開けなさいと言われて従えば、細いシルバーのリングが嵌められていた。シルバーの至ってシンプルなリングだが、よく見れば外側に細い金細工が掘られていた。
「京月組の指輪だ」
「これがなんの役に立つんです?」
千和は怪訝そうに仁を見た。彼の表情は普段通りで、特別なプレゼントといった風でもない。ただレジュメのプリントを手渡すような気軽さだった。
「これを着けてるのは組員手つきの女集。組員と言っても、これを所持できるのは上層部だけだ」
「手つきの……これを着けていれば、加美山みたいなことは無くなるってことですか?」
「大体そういうことだ。組内だけじゃなく、ある程度なら外部にも影響はあるから、こちらの仕事で表に出るときは着けているといい」
「これがあるなら、なんで早く貸してくれなかったんですか」
「まぁこちらにも色々とあってね」
「……どの指でもいいんですか?」
「どこでもいい。ちょうどよくはまればな」
千和はまごつきながらも指輪をはめてみた。親指では太すぎるし、小指では細すぎる。結局、何の抵抗もなく、外れて落ちることもなくはまったのは薬指だった。
「…………」
左にはめてみたが、意味が強すぎる気がして右に移動させた。そこでもきちんとはまったので、そのまま右手に着けておくことにした。
その様子を仁はどこか楽し気に眺めていた。
「何事にも動じないのが君の良いところだ」
「……動じていないように見えますか?」
「いや、もっと言うならば、内心動じているが表面を繕うのが上手い」
千和は微かに目を細めた。そういう自覚は無かったが、思い返してみればそうかもしれない。見透かされた気がして気恥ずかしくなる。
「和泉くんを護る上で、自分の気持ちを外に出すのを避けていたようにも見える」
「っ……それは――」
「和泉くんといる時、彼と引き離されて今のように一人の時、千和は全く違う顔をする。言うなれば、そうだな……素直な年頃の少女、いや女性と言うべきか」
この会話で何を求められているのかは分からなかった。ただ何か詰められているという感覚に陥る。
「だけどそれにも慣れていないみたいだね。表情が硬いことがよくある。これまでいた環境があまり健全では無かったからだろう」
「……私の人生を否定するんですか」
「いいや。むしろ尊重したい。君にはこれまで一人の時間が無かった。染原千和という一人の女性が生きるには、あまりにも狭い鳥かごだ。その先に、少しの庭園を加えたい」
「それが、京月組での時間だと?」
これは口説きだ。千和は直感した。とはいえ、色恋に興じての事ではない。自分を見つめるモガリの目が熱いのは、組として利用価値があるから。
「一人で行動すると、和泉くんのことが心配だろう。あの家に置いておくのも完全に安全とは言えない。だからどうだろう、君たち二人でうちに来るというのは」
「え……」
ドクン、と心臓が動いた。これまで組の目が及んでいたのは千和がボディーガードとして動いていた時だけ。だがそれ以上に和泉までもが、四六時中、京月組の監視の下に置かれるということだ。安全性は申し分ないだろう。だが組との距離はこれまで以上に近くなることになる。つまるところ自分たちを本格的に取り込むつもりのようだ。
「今は、動じているね」
「それは、そうでしょう。いきなり家に来いだなんて」
どうしようもなくなって口ごもる。目線を落とせば、先程もらった指輪が目に入る。まるで自分の指ではないかのようだった。言葉などまとまらない。
するとモガリは攻める手法を変えたようだった。
「君は、自分の将来の事を考えたことがあるか?」
「…………」
「和泉くんの側に居続けるのは、今後は難しいだろう。君たちのご両親の遺産だって無限ではない。いずれ稼ぐ必要がある。その時は一緒にいられるのか。君が働けば、和泉くんは外に出られない。それでいいのか」
「じゃあ、どうしろと言うんですか」
「京月組に入りなさい」
やはりと目を細めるしかなかった。千和はそのまま仁のボディーガードとして、和泉は和泉で優秀な頭脳でなんでもできるはずだ。仁が適切に配置しそうである。そして恐らくだが、仁の周辺の治安はいい。和泉が何かに巻き込まれることもないだろう。
「それは、断れるものなんですか」
「もちろん。以前とは違って、これは勧誘だからね」
仁は爽やかな笑みで頷く。目線の鋭さとの切り替えが実にズルいと実感する。
「ただ、前も言ったが君らはどこにいても目立つ存在だ。そこら辺を麻の寝巻で歩いているより、合金の鎧を着ていた方が安全に暮らせるのは分かるだろう?」
それに、と仁は少し慎重に息を吸った。
「実は、寛大なる母からそろそろ身を固めろと詰められている。俺もそれについても考えなきゃいけない時期に来たようだ」
「……はぁ、それは……大変ですね」
千和は目をパチリと瞬く。唐突な話だと感じる裏で、仁と釣り合う女性の像が勝手にちらついた。
すると仁はふふっと笑みを零した。
「和泉くんとのことは二人で話し合ってみるといい。返事は急かさない」
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