第8話

 てくてくと、足場の悪い道を歩い行く。


 ここまで狐に不親切な場所はないだろう。


 上の階のあの歩きやすさと打って変わって、ゴツゴツとした岩がそこら中にあり、その岩をどうにか登ったりしなければならなかったりする。


 そして、これが1番嫌なのだが、岩に苦戦していると、大丈夫? 助けようか? のノリであの猿の魔物が襲ってくる。この前鑑定してみると――


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【名前】ー

【種族】クラブモンキー

【状態】良好

【レベル】6

【HP】 23/23

【MP】 14/14

【攻撃力】 11

【防御力】 13

【魔法力】 7

【素早さ】 23

【称号】ー


 《棒術》 《悪知恵》


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 ステータスは俺とあまり変わらない。だが、光魔法で目眩しをして、その間に首筋に《噛み付く》という必勝パターンを俺は生み出した。


 猿の魔物は高確率でクラブモンキーで棍棒を持っているため、俺が《噛み付く》と棍棒を振り回してくる。


 そして、大した実戦経験のない俺は簡単に棍棒に当たってしまい、ダメージを負う。俺は紙装甲のためHPが大変なことになってしまう。


 そのため、俺は戦いの終わった後には必ずボロボロになってしまう。だが、そこで出てくるのが魔物の肉だ。


 《無限の胃袋》のスキル効果なのかは知らないが、魔物の肉を食べるとHPが回復する。この回復がなかったら、俺はとっくに死んでいただろう。


 あと、クラブモンキーの肉は意外と美味かった。


 ていうか、俺どこ向かっているんだろ……


 下層に来たのは良いものの、さっきからずっと直進している。


 いやー、魔王になるっていう目標はあるんだけどね、直近の目標が無いんだよ。別にダンジョン制覇しようとも思っていないし、外に出ようとも思ってないし。


 ここが意外と居心地いいんだよなー、魔物は襲ってくるけど、勝てば美味しいご飯にありつけるし。


『ダンジョンの最下層目指しましょう』


 平坦な声が久しぶりに聞こえた。


 なんだよ、俺から話しかけても無視したくせに。


『私はアドバイスするための存在です』


 いや、分かってるけどさ、俺一人で寂しいんだよ。孤独死しちゃうよ?


『とりあえず、最下層を目指しましょう』


 可哀想アピールをしても、冷徹な平坦な声が自分の意見を通してくる。


 なんで、そんな最下層を推してくるの。


『魔王になるのに近道だからです』


 あ、そう。


 最近クラスメートたちの優先順位が下がってきた。


 倒されるのは世界の美味しい物全部食べてからでいいかなと思い始めるくらいだ。


 ま、別に代案とかある訳じゃないし、最下層に向かうけど。


 といっても、下へ続く階段が見つからないんだけどな。


『そこら辺は地道に行きましょう。私が見たダンジョン内部の構造を記憶していくので、効率はいいはずです』


 よろしく頼むよ、アドバイスさん? 分身体さん? それとも、ステータスさん?


『締まりませんね、ちゃんと私の名前考えておいて下さいよ』


 うーん、じゃあアイスね。


『なんか適当な気がしますが……まぁ、いいでしょう。私はアイスです』


 候補を上げた3つの中の言葉を適当に並べただけだが、アイスは平坦な声でも喜んでいることが分かる。


 ちょっと嬉しい。

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