第7話

 階段がある。それも下に続いている。


 とりあえず、ここはダンジョンで確定だな。もしかしたら、階段がある洞窟―――て、それはもうダンジョンか。


 あー、どうしようかなー。


 まぁ、別にここがダンジョンてことはどうでもいい。


 じゃあ何が問題かって、見つけた階段が下向きということだ。


 俺の今の目標は魔王になることで、そのためには恐らく強くなることが必要だ。


 だから、本当はもっと強い魔物がいるであろう下層に向かうべきだ。


 だが、俺は今生においてもう1つの目標を得てしまった。美味しい物を食べることだ。


 俺は今生は満腹になることの無い胃と付き合うことが決まっている。


 だからか、食欲が前世より何倍もある。


 そして、死んでしまっては美味しい物を食べることは出来ない。


 つまり、魔王になるために魔物を狩って食べなければならないが、食べるためにも死んではならない。ちょうどいい相手としか戦えないのだ。


 俺は下層にどれ程の強さを持つ魔物がいるか知らない。


『下層へと向かうことを推奨します』


 平坦な声が下層へと向かうことを推奨してきた。


 うーん、じゃあ下層に行くか。


 悩んでいたのは、決定的な理由がないだけで、絶対行きたくないということは無かった。


 俺は階段を下ろうとするが、あることに気づいてしまった。


 これ、どうやって降りよ…


 進化して少し大きくなったとしても、人間の頃みたいには大きくなく、足もそこまで長くない。


 ええと、犬とか猫って階段どうやって降りてたんだっけ·····思い出せ、思い出せ·····あ、ジャンプだ!


 そう思ってジャンプした。だが、俺にはそこまでジャンプ力はなく、階段の半ばで着地したと思えばジャンプの衝撃に耐えきれず、そのまま階段をころころと転がって行った。


 いてて…


 回りすぎて平衡感覚が狂い、ふらふらな体をどうにか起こした。


 しかし、起きたものの、またすぐに倒されてしまった。


 何かと思えば、醜悪なにたにたした猿の魔物がすぐそばで拳を握っていた。


 くそ、やられた!


 落ちて来てからの攻撃の時間的に恐らく、近くで待ち伏せしていたのだろう。


「くぉっ!」


 《狐火》で牽制しようと、スキルを発動すると、ちょうど再度殴ろうとしている猿の魔物に直撃した。


 ズッバーーン!


 先程までそこにいた猿の魔物は黒く焦げた肉片へと成っていた。


 うわぁー、これ完全なオーバーキルだな。


 それに、焦げすぎたせいであまり、美味しくなさそうだし…


 お腹空いていたから、これまではどんな物でも食べようとしたけど、これほとんど炭なんだよな·····うーん。


『食べた方が強くなりますよ』


 いや、それは分かってるんだけどさ、ほとんど炭みたいな物を食べるのは少し抵抗が…


『あなたがしたんですよね?』


 あ、はい。その通りです。


 責任を持とうと思って、炭のような肉を拾い、口に入れる。


 ·····まずい。


 パリパリしていると言えば美味しそうに聞こえるが、ウィンナーのように肉汁が溢れるようなこともなく、ゴムを噛んでるようだ。


 極力狐火は封印しよう·····そう思った。

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