第3話 少女が呼ばれたワケ
「ということは、あなた方が私をここに呼んだのですか?」
上空から現れた、青い肌をした者達を見て、エリーティアは改めて自分が違う世界に来たのだという現実を理解した。
同時に自分に近い側にいる若者らしい男が落胆した様子を見せたことにも気づく。
(とても救世主に見えない、期待外れの女がやってきた、って思っているのかな?)
「そうだ。ここにいるブシュワスカが儀式をして召喚した。本来なら、神殿に現れるはずだったのだが、何らかの手違いで違う場所になったらしい」
「あっ、神殿は見ましたよ。多分、向かう途中で割れ目みたいなものがあって、私がそっちに向かったので違う場所に出てしまったのだと思います」
「そうか……」
引き続き落胆している。
「しかし、完全な失敗だった……、まさか人間が来るとは……」
男が老人を睨みつける。老人は「申し訳ございませぬ」と平謝りをしていた。
「どういうことですか?」
エリーティアが尋ねると、男は「見れば分かるだろう」とばかりに自らの手を見せた。顔同様に青い肌に鋭く伸びた爪が見える。
「我々は俗に言う悪魔だ。そして、現在、人間と相争っている」
「あぁ、なるほど……」
彼女は納得した。
「つまり、私は人間だから、敵陣営につくだろうというわけですね?」
「少なくとも悪魔の味方をしたくはないだろう?」
「ま~、確かに私の世界でも悪魔はあまりいい評判ではないですよね……。でも、悪魔なのに人間に負けているのですか?」
救世主を求めている、ということは状況が不利だからだろう。勝っているのに救世主を必要とすることはない。
しかし、悪魔と人間が戦い、悪魔が負けるというのは不思議な話である。
神や天使相手ならともかく、人間と悪魔なら、悪魔の方が強いのではないか。
「結構勘違いしている者が多いようだが、悪魔というものは人間が堕落した存在だ。堕落した者と、していない者、どちらが強いと思う?」
「な、なるほど……」
そういうものだったのか。
悪魔という存在を見るのは初めてで、その口から直接に聞くと納得ができる。
「しかも、悪魔は楽をしたい、欲望だけ満たしたいということで粗暴で軽率な行為が多い。徒党を組んで金を奪ったりするが、同じ人数なら人間の方が強い」
「待ってください。それって……典型的なダメ人間って言いません?」
悪魔をダメ人間というのはおかしいことなのかもしれないが。
「そういう奴らがほとんどなのだ。自らの粗暴な行為で人間共を怒らせ、攻め込まれても楽ばかりしようとして負け続けている。それが悪魔の実情よ」
「で、負け続けて起死回生の策を生み出す知識も努力もないので、救世主を呼んで楽に反撃しようとしたら、間違えて人間を呼んでしまったというわけですね」
「グハッ!」
「あっ、ごめんなさい……ついうっかり本当のことを」
図星すぎる発言は、まだしもまともたらんとする悪魔の心に深い傷を与えてしまったらしい。エリーティアは謝罪した。
どうしたものか。
赤黒い空を見上げながら、エリーティアは思案する。
(さすがに悪魔の手伝いというのは……ちょっと気が引けるわね……)
と思いつつも、惹かれる部分もある。
(だけど、悪魔の社会なら、人間社会のタブーとか規則は関係ないから、思い切って踏み込んだこともできるんじゃないかしら?)
ましてや、人間に負けるかもしれないという非常事態の時である。イチかバチかというようなことでもやるしかない。
安定したから、踏み込むことに警戒するようになった自分の社会のことを思い出す。全く真逆の世界に呼ばれたのは、悪魔が失敗しただけでなく、自分の中にある不満に何者かが応えてくれた結果なのかもしれない。
「……分かりました。救世主になれるかどうかは分かりませんが、手伝いますよ」
「……何?」
若い悪魔が振り返った。
「同じ人間と戦うことも辞さないというのか?」
「そもそも他所の世界から来たわけですし、どうせ違う場所なら全く違うものを経験した方が面白いと思いますから」
「お、面白い……?」
「考えることは好きなので、できる限りのことはします。よろしくお願いしますね」
エリーティアはそう言って、裾をつまんで頭を下げた。
「あ、あぁ、こちらこそ、よろしく」
つられて、悪魔の男もお辞儀をした。
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