第2話 落涙2
授業が始まると先生の
「えー。まず
ちなみに作業アーム(マニピュレータ)が腕部。推進装置が脚部。複合センサーが頭部。分析及び制御モジュールが胴体部に位置し、人型を形成している。
「えー。AnDの原型はクラーク教授が開発した船外活動用ロボット・エイリーと言われいる。この時点では人型ではなく球体に近い形だったらしい」
本当におさらいなんだな。
「えー。次にAnDの名前の由来だが、これは
えー。アンディはAnDの開発責任者であり、同時にデルタジェネレータという小型核融合炉を使用したジェネレータを開発した研究者だ。えー。
これにより、レールガンの小型化の実現及び荷電粒子砲の実現化に成功した」
正確にはデルタジェネレータは副産物として粒子の加速を引き起こしてると考えられる。が、諸説あり今だに結論は出ていないらしい。そもそもデルタジェネレータはよく分かっていない部分が多い。
「先生!質問いいですか?」
急に
「どうした?」
「Andyが名前の由来なら、どうしてAnDのDは大文字なんですか?」
確かにAndやANDでも良かったんじゃないか?
「えー。理由が二つあってだな。一つ目は英語のandと間違われたくないという事らしい。二つ目はアンディ教授が駄々をこねたそうだ」
二つ目は聞きたくなかった……。大の大人が駄々こねたなんて。
「そうですか。ありがとうございます」
孝も若干、引いてた。
「まあ、他に特別な意味があるんじゃないかという人もいるがな。……他に質問はないか?続き始めるぞ!」
誰も質問はないようだ。
「えー。どこまでやったけ。そうそう。AnDの武装は基本的にはレールガンとミサイルだな。荷電粒子砲は局地戦に使用される。
えー。例えば、隕石やデブリの破壊それから敵拠点への襲撃だな」
この先生は何回えーって言うんだ……。
「レールガンは様々な種類があってだな……。
えー。連射性や命中精度、破壊力などで種類が分かれている。詳しくは教科書に載っているので参考にするように」
教科書を見ると様々な武装が記載されている。これ覚えきれないだろ……。
「そうだな競技で使用するハンドガンやアサルトライフル、スナイパーライフルは覚えておくように。
ハンドガンは連射性高く取り回しやい。ただ命中精度が低く破壊力も低い。スナイパーライフルは命中精度が高く破壊力も高い。が、全長が長いので取り回しずらく、連射性が低い。
まあ接近戦には向かないな」
「……えー。ミサイルにも様々な種類がある。例えばこのマイクロミサイルは小型なので破壊力はないが対人戦や陽動、センサーなどの防御の低いものにも有効だな。
えー。後はこの――」
今日は晴れだったけ?窓の外を見てそう思う。
コロニーでは時々、気温や湿度、風量を調節している。田畑や街路樹などを育てるためである。地球の環境をある程度、再現しているのだ。
地球が忘れらないのかもしれない。
地震もなく台風もない雷も冬もない。コロニーは地球以上の安定性がある。
ただし酸素や水などの管理や時折、隕石やデブリが飛来する。その隕石やデブリの破壊も自衛隊の仕事だ。
放課後、更衣室へと向かう。今日は新型機のテスト運用だ。テストパイロットではない自分はほとんどする事はない。ただ今回の新型機は
そういった事を考えながら、更衣室に入り着替えを済ませる。更衣室からミーティングルームへ移動すると、途中から無重力地区に変わる。
無重力地区では靴裏のマグネットか、通路の左右にある電動式のベルトを利用するのが一般的だ。
前方で
「じゃあ、先に行ってるから。遅れないようにね」
そう言って、菫はその場を立ち去る。
「うん。分かった!」
菫に対し
「自分に何か用か?」
「用ってほどでもなけど」
少し困った表情で話しを続ける。
「今日は手加減してね!」
「まあ、機体のテストや操縦性をみるのが目的だしな。それにテストを行うときは隕石やデブリの少ない宙域だろうし、大丈夫だろ」
「それもそうだね。じゃあ私達も行こうか!」
「ああ」
ミーティングルームではすでに他のメンバーが十人ほど揃っていたが、怒られる事もない。なぜなら今、メカニックやエンジニアが新型機をいじっているからだ。それが終わるまでパイロットは待機だそうだ。
待機中に一通り説明を受けた。
場合によっては
六月から八月にかけて行われる全国大会にも投入する予定だと。今なら二ヶ月近く準備期間があるので十分まにあうだろうと。
試験運用前のデータ収集が終わり、いよいよ
競技用のAnDとはいえ実践用のAnDとは大差ない。リミッターを組み込みバーニアなどの出力を抑えているのと、武装が競技用以外使用出来ない事。後はセンサーの感度が低い事が軍用機との違いだ。
また、軍用機は個々にカスタマイズされているらしい。その場合、AnDの背中にジェネレータや武装、推進装置といった追加装備を行うらしい。他にもカラーリングを変えたり、追加装甲を行うらしい。
ところでサポートって何をすればいいいんだ?
「すいません!遅れました!」
「気にするな。それよりも無事、合流できたな」
熊が
「少しピーキーですね。遊びが少ないです!」
「なるほど。操作性には慣れが必要という事か」
熊の通信は全員に送られている。同時にこの通信は記録されている。
「よし!最高速度を出してみろ!他の連中もついて来い」
熊の呼びかけに全員が答える。
すごい。早いぞ。
「よし!そこまでだ!」
全員が一斉に制動をかけ、
熊の声は明るかった。それほどまでに好調な滑り出しだった。
「すごい!まだ行けそうでしたよ!」
「無理はするな!何かあっても追いつけないんだぞ!」
「そうでした。気をつけます!」
「今日はデブリも多い。無理は禁物だ」
「はい!」
「次は武装の扱いかたのテストだ」
「はい!」
等間隔に的を配置する。
的に命中する。それを何度か行う。的に当たらなくなったところが最大射程になる。
「すごいですよ!今までの一割増しです!」
「命中率も上がってるな!センサーの精度が上がったのか」
熊は驚きの声を上げる。
基本的に訓練用、競技用のAnDは軍事用AnDの中古品を使っている。そのため軍用機の性能が向上するとその中古品である訓練用機、競技用機の性能も向上する。
ただし、軍用機に比べ一世代も二世代も遅れている事にはなる。新型競技用のAnDとは言え軍用機の中古品を改修したものになる。
「よし!次は
熊の命令に自分と火月は答える。
「了解」
「ちっ。また茂とかよ……」
「不満か?」
熊は少し威圧的に聞く。
「ハイハイ。フォーメンションに加わりますよ」
「
「はい!分かりました!よろしくお願いします!」
「「よろしく!」」
水越と菫がほぼ同時に答える。孝、船越、舞、貴彦がそれぞれ返事をする。
孝と船越は
「よし!準備は整ったな!
「もちろんだ。もともとデータはこちらでもとっているしな」
顧問の岩沼は問題がないと判断したのか承諾した。
やはり演習をするのか。しかし演習は負担がかかるので休憩を取ってからでも良いのでは?と思った。
まあそれ程、たいした事はしていないし自分も早く
「はい!わかりました!」
「起動します……」
ザザッ
通信が切れ、ノイズが入る。今頃、演習モードに切り替えているのだろう。こちらも演習モードに切り替える。
レーダが前方の三機を順番にNo1、No2、No3と割り振って行く。そのデータを味方機である熊と火月に転送し同期させる。
「演習開始!」
岩沼の合図と同時に
さて、どうなうか。
「火月は下がれ。内藤は左から回り込め。俺は右から行く」
「へーい」
「了解」
火月と自分が答えると相手のフォーメーションが変わる。
熊と自分が行動を開始すると、火月にめがけて敵三機が移動しながら火月に攻撃を開始する。
自分と熊がそれぞれハンドガンとアサルトライフルを撃つと両脇の機体のシールドに受け止められる。火月がシールドで受け止めつつ応戦するが、三機の連携、波状攻撃にやられ被弾する。三機が今度は熊に向かう。
「まずいな。内藤、あの三機をなんとかできないか?」
「了解。やってみます」
三機と熊の間に割って入る。シールドを前面に突き出し体当たりしようとする。
「熊部長、連携を崩すので狙い打ってください」
「分かった。内藤、気をつけろ!」
ザザッ
なんだ? ノイズが入ったぞ。通信機の故障か?
そう思った瞬間、No1が急上昇する。No2とNo3はその場でフリーズする。
なんだ? 何が起きているんだ?
「どういう事だ。何かの戦術か?」
熊の疑問は自分も感じた。しかし、No2とNo3がフリーズし慣性でのみ動いているのが分からない。突撃するのを止め、様子を伺う。
「中村、どうした? 応答しろ! 水越、植木、何があった」
「……分からない! どういう事だ!」
岩沼が向こうのチームと連絡をとっているようだ。
「萩、犬飼どうなってる?」
熊がメカニックとシステムエンジニアを問いただす。
「分かりません。全て正常値です!」
焦っている事が手に取るように分かる。しかし異常な行動に思える。
「
「先輩に分からないのにうちに分かる訳ないですよ!」
萩の質問に朱里が涙目で答える。
「
「なかったです!なっ?」
「あ、ありませんでした!」
犬飼が問うと優衣も一郎も慌てて返事をする。通信回線を普及させようとする熊。同期してるのでデータがいくつもモニターに出てくる。
「どーなってるんすか?」
火月が近づきながら慌てて聞いてくる。自分は機体をNo1に向けてめいいっぱい飛ばす。
「中村の通信だけ復旧しない! どうしてだ?」
熊の嘆く声が聞こえる。
まずい。このまま行くと
まずい。まずい。さすがに
「内藤! 俺達が今、ハッキングしてる。余計な事するな!」
「了解」
急げ!急げ!
「
「通信も
「システムが攻撃を受けてる?」
頭部にあたる複合センサーが
茂は見ている事しかできなかった。コクピット周りの装甲が拉げ、弾け飛ぶ。それでも止まらない。露出したコクピットブロックが隕石に潰され、削られて行く。
ようやく追いついた自分は
しかたない。自分のコクピットを開き、
AnDはメンテナンスや緊急用に各ブロックを切り離せる。
急いで、自分の
「病院だ!救急隊を早く!」
熊が呼びかける。だが岩沼の方が冷静だった。
「いや、レスキュー隊にもだ!」
さすが先生をやっているだけの事はある。
「01に乗せます!」
自分は誰とも構わず呼びかける。
「分かった」
そう言いながら、
「急いで!コロニーへ!」
「はい!」
自分と輸送班のやりとりは早口で慌しく行われた。
自分は
が、拉げたハッチは開かない。物理的に壊れてしまったらしい。メカニックの犬飼と優衣、一郎に協力し力づくで開けようとする。が、開かない。
コロニーに着くと、レスキュー隊が
救急隊は様々な治療を行いながら、連れて行く。
自分はつられるようについて行く。
「ここから先は私達に任せてください」
「……はい……」
救急隊にそう言われて立ち尽くした。追いかけて来た熊が肩に手を乗せこう告げた。
「内藤は良くやった。少しは休め」
「すいません。今は一人にしてください」
自分は普段、誰も行かない宇宙を眺めるための展望室へ向かって行く。展望室に着くと真っ暗な宇宙が眼前に広がっている。真っ暗な宇宙、どこまでも広がる宇宙。自分がいかに無力であるか思い知らせるような宇宙。
僕は自分が泣いている事に今更、気づいた。
その日、
僕は助けられなかった。
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