宇宙用工業機械 AnD
夕日ゆうや
第1話 落涙1
「コォォ。コォォォ……」
自分の呼吸音がよく聞こえる。呼吸音が宇宙服のヘルメット内に反響する。
様々な精密機械が音を立てて一つの音楽のように聞こえる。
今、工業用の人型機械AnDに乗っているがコクピットを開け跳び出して行けばこの煌く星の海を泳ぐことが出来るのだろうか?
そんな事を考えていると、無線通信機が「ピッピッ」と鳴る。
「
部長の
「了解」
と自分は答える。
「なんで
と火月が不満を漏らす。
「お前はスナイパーだろ!……内藤が敵の座標を随時、報告するからそれを基に狙 え。内藤はそのための先行だ。援護はするから安心しろ」
熊は練習試合前のミーティングを簡潔に説明した。
「へいへい」
「了解」
二人でほぼ同時に答える。
センサーが音を立てて、前方のデブリ群を知らせる。
宇宙では真空のため空気抵抗がなくあらゆる物質が高速で飛び回っている。そのため、少し衝突しただけで大きな事故へとつながる。
「デブリに気をつけろ」
熊が二人に呼びかける。
「了解」
「おう」
それぞれが、若干緊張した面持ちで答える。
デブリが不規則に飛交い進路を妨害してくる。デブリに当たらないよう、バーニアをふかしながら回避する。噴射剤にも限りがあるのでなるべく、節約しようと最小限の動きで止める。
緊迫した空気の中、デブリの内を移動する。
デブリをモニターで確認しつつ、敵機を捕捉するためレーダを凝視する。熊の機体は少し後方のデブリに隠れ、火月は遠くのデブリで競技用スナイパーライフルを構え目視で倒そうとしている。
自分が敵の座標データを送る手筈なのに、
実際の映像を映しているモニターにデブリとデブリの隙間をバーニアの青白い光が走る。
「敵を目視した。これより接近する」
と、二人に報告する。すると熊から通信が届く。
「罠かもしれない。気をつけろ」
「つーかなんで、
火月が茶々を入れてくる。前々から思っていたが自分と火月は水と油だな。いや、自分はクラスでも浮いてるから、自分の性格の問題なのかもしれない……。
さっき見たバーニア光から予測される位置を特定しデブリを盾にしながら予測ポイントへ機体を持っていく。
四方八方にデブリが跳びかっているが、速度はゆっくりしている。敵機はデブリに紛れているかもしれない。
競技用シールドと競技用ハンドガンを構えてデブリを一つ一つ確認しながら、奥へ奥へと進んで行く。いざとなったら後方にいる熊の機体が援護してくれるが、いつ敵に襲われるともしれない不安がある。
センサーが音を発する。いままでとは違う音。敵機を捉えた音だ。と、同時に敵機の位置情報が自動的に味方機にデータが転送される。
前方右上のデブリ、熊の死角から攻めてきた。敵は一機だ。競技用ハンドガンを連射してくる。その
お互いのシールドがペイント弾で染まっていく。
二機の距離どんどん縮んでゆく。自分はおもっきりバーニアを吹かし敵機に体当たりを試みる。そのこと気づいた敵機は慌てて距離をとろうとする。おそらく適切な距離をとりつつ、味方と協力して倒そうとしているのだろう。だがそうはさせない。
味方機と敵機の距離が近すぎると援護できない。その証拠に熊の機体は援護出来ずに要る。一対一に縺れ込むことを考えての行動だ。
敵機に体当たり食らわせることに失敗したが機体の主要推進装置に当たる脚部で蹴りをいれる。体勢を崩した敵機にハンドガンを当てトリガーを引く。敵機がペイント弾で染まる。これで一機目、撃破。そのままの慣性で流れて行く自分の機体を制御し体勢を立て直す。
次の瞬間、ほぼ真上左方向と真下方向から敵機が一機ずつ現れる。誘い込まれた。
そう直感した瞬間、二機のAndが競技用のアサルトライフル及びスナイパーライフルを放つ。自分の機体を捻りながらペイント弾一発をかわし、もう一発をシールドで受け止める。
競技用の武装はハンドガンが連射性が高く、命中精度が低い。逆にスナイパーライフルは連射性が低いが命中精度が高い。アサルトライフルはそれらの平均値をとっている。
つまり今は、敵機が次弾発射までタイムラグが生じる。
まずはアサルトライフルをマニピュレータで保持している機体にハンドガンを連射しつつ、もう一機をデブリの影になるように移動する。
レーダではアサルトライフルを保持する機体をNo2、スナイパーライフルを保持する方をNo3と名づけている。
熊から通信が入る。
「内藤!踏み込みすぎだ!」
と同時にNo3が火月のペイント弾の直撃を浴びる。No2を追い込んで行くと、No2の後方からアサルトライフルを構えた熊の機体が接近してくる。No2は熊の機体に気づいたのか下方へ逃げながら応戦してくる。
熊が追い込むぞと連絡してくる。自分は了解とだけ答える。熊と協力しながらNo2の退路を断ちながら火月の射程範囲、遮蔽物のない座標へ誘導する。誘導座標へ追い込むとNo2はしまったといったように火月の機体の方向く。その瞬間を狙ってハンドガンを撃つ。
ペイント弾が直撃。二発も。同時に。別方向から。一発は自分のもの。もう一発は火月のもの。
「そこまでだ!演習終了だ!」
と、顧問の先生からの通信が入る。
「全機無事か?」
熊が自分と火月を含めた全5機に通信する。
「問題ない」
「無事っす」
自分と火月は答える。
「大丈夫です!」
「なんとかー」
「異常なし」
女性三人はそれぞれに今日の反省をしだす。女性が三人いると姦しいな……。
熊はそれを聞いて安心したのか息を吐く。
「よし、
コロニー(スペースコロニー)は西暦1969年にオニール教授らによって提案された宇宙用の人工居住区だ。カーボンナノチューブや宇宙でしか製造できないダイヤニュウム合金など、材料工学や機械工学などの発展にともない実現した。
また、地球上に建設された宇宙エレベータによる移送コスト及び重量制限の緩和がなければ、これほど早く宇宙開発は進まなかったと云われている。
スペースコロニーは回転によって生じる遠心力を利用し、擬似重力を作り出している。たいていは円柱またはドーナッツ型をしており、その内壁側に居住区を作る。
ちなみに自分たちの住むコロニーはトートという名を冠しているが、これはトートが製造の神様の名前だかららしい。このコロニーは製造業用のプラントとして作られたからである。
シャァァー
ここは高校の更衣室。更衣室にはシャワーの設備がある。そこで汗を流す。パイロット用の宇宙服は密着する上、気密性が高い。そのため汗をかきやすい。
演習後はパイロット全員がシャワーを浴びるのがマナーになっている。
「よし!ちょと女子更衣室覗いてくるわ!」
シャワーを浴びてると突然、火月がめちゃくちゃなことをいってくる。
「バカ!そんなこと許すわけないだろ!」
熊の顔が部長としても、人としてもと言ってるような気がした。
「へいへい。つまんねーの」
そう言いながら火月はシャワー室を出て行く。
「内藤、変なこと考えるなよ」
「考えてませんよ。火月じゃあるまいし……」
自分は呆れた声で答える。
「ハッハッ。そうだな内藤はそんな事しないよな。……それにしてもさっきの演習は踏み込み過ぎたな」
「そうですね。結果として誘い込まれてしまいましたし……」
自分は反省したほうがいいのだろう。
「お前は反射能力が高いから問題なく対応できるだろう。他の人には真似できない。それはお前の強みだ」
褒められるとは思わなかった。
「それほどでもないですよ」
「他の人にはできない。だから戦術として考えない。でも相手が知り合いなら踏み込んでくる事が予測できる」
そうか、自分の事を知っている相手だから対策されたのか。
「じゃあ、初めての相手ならあれで構わないんですね?」
「いや、こちらの事を研究・分析している相手には難しいだらう。後は、チームワークが問題だな」
「火月とはうまくいかなさそうですけど……」
「確かにな。じゃあ俺、先あがるから」
熊は半笑いで答えた。
「はい」
少し後にシャワー室を出た。出た後、すぐに火月と出くわした。自分は思ったことを口にした。
「なぜ?まだいるだ?」
火月は答える。
「お前、さっきの演習で撃墜数一緒だったろ!」
そういえば、そうだった。いや、最後の一機はどっちが撃墜したんだ?
「最後の一機はお前が倒したようなもんだろ」
実際、最後の一機は火月の機体に気をとられてた。
「なに、気取った態度とってんだよ!」
火月は激情に駆られて掴みかかろうとする。
反射的に避けた。が、それが火月を余計に逆立てた。
「俺はお前の事、絶対に認めないぞ!」
そう言い残し更衣室を出て行った。めんどくさい奴。
着替えを済ませた後、教室へと向かう。
朝練は疲れるな。そう思いながら、更衣室を出ると先生と熊、女性それから後輩が話してた。自分は会話には混ざらず真っ直ぐ教室へと向かう。
教室へと入ると自分を見たクラスメイトの空気が一瞬、凍る。
自分の席へつき、寝たふりをすると会話がまた始まる。今度は自分の陰口、もとい悪口を言い始める。
「何、スカした態度とってんの」
「部活でエースだからって調子に乗ってんでしょ」
「遺伝でしょ。遺伝」
そんな声が聞こえる。てか遺伝ならお前らもだろ・・・。数十年前から、DNA検査により適切な職業に振り分けられる。優れた技能を活かすのが目的だ。
また、必要なら高校・大学と、その職業に合った事を学ぶ。実際にインターンシップや研修期間などを儲けて経験を積ます場合もある。
自分の高校では自衛隊候補生が集まっている。また、部活動もその人にあった部を進められる。
自分はパイロット候補生なので、ロボットサバゲ部に所属している。ロボットサバゲ部は人型ロボットAnDを扱うサバイバルゲームを行う部だ。
しかし、ここにはパイロットから整備員、メカニックやエンジニアなど様々な候補生が集まっている。
つまり、ここに集まっている若者達は遺伝的には秀でている人しかいないのだ。昔のように職業選択の自由などない時代だ。ただし、一部の国は西暦と変わらない政策をとっている。そういった国々は文明の成長が遅れている。
なのに、なぜ自分だけが否定されているんだ?
自分は自分に出来る事を必死でやっているだけなのに……。
「やっほー!
突然、明るい声で話しかけられた。自分に話しかける女性は一人しかいない。
「どうした?
クラスで人気者の
「うーん。やっぱり
「そんなことないと思うぞ。ちょっと古風だけどな」
自分は続けてこう伝えた。
「それに、西暦2020年頃には流行っていたらしいし。
「それって結局、昔の話じゃん……」
そんな事を言いにきたのだろうか?時間からして先生達と話し終わってすぐ自分の席に来たみたいだし。
「そんな事より何か話しがあったんじゃないか?」
「いや、大した事じゃないだけど」
「なるほど。どうでもいい話だな」
「ちょっと!最後まで聞いてよ!」
だったら早く話してほしいです……。
「今日の放課後って
そういえばそうだった。自分がテストパイロットという訳でもないのですっかり忘れてた。
「確か、テストパイロットは
「そうそう!新型なんてワクワクするし、でもそれと同じくらい緊張もしてるの」
「大幅な性能向上だけでなく、最新の自動情報分析システムや
「そうそう!パイロットの脳波を分析したり、磁場を使って必要な情報を脳に送るみたい」
不安になる理由はそこか。自分の脳に悪影響がでないか不安なんだろう。
「大丈夫だろ。動物実験は行ってるし、販売元でもテストしているんだから。でないと製造や販売が認められないだろ」
軍用機及びそのテスト機は政府の検疫を受けているし、研究者による研究チームが助言をしている。
今の時代は軍事関係以外のものを含めて徹底した管理社会になっている。理由は、コロニーという環境下では堆肥から空気(主に酸素)、水にいたるまで自分達で作りださなければならない。また、空気に含まれる酸素の割合や水に含まれるミネラルの割合など、管理しなければならない事が多く存在するのだ。
「まあ、そうなんだけど……」
「てか、お前なら大丈夫だろ」
「本当!?本当にそう思う?」
「思うよ。エースパイロットだし」
女性チームの中では2番目に入る実力の持ち主だし。
「……何か、茂君に言われると皮肉に聞こえる……」
「ごめん……。そんなつもりじゃあ」
なかったんだと、言いかけて
「分かってる。そういう意味じゃないてことは。……いざとなったら助けてくれる?」
「それは構わないが……」
少し間をおいてから
「ありがとう!励ましてくれて」
「お、おう」
テンションがころころ変わるのが玉に瑕だな。時々ついていけないな。
「そういえば、更衣室で菫とかと話してたけど、茂君は反応速度がすごいって。茂君対策で誘い込んだのにそれにすら対応しちゃうなんて」
「いや、今日は危なかった。火月に助けられた」
「
ああ、そのときに最後の一機に同時にヒットさせたって聞いたのか。
「その後、大丈夫だった?」
「いつもどうりだ」
「いつもどうりって、もう少し仲よく出来ないの?」
「無理だろ……。なぜか、つっかかてくるし」
「茂君はポーカーフェイスだからなー」
「ポーカーフェイス?」
それは悪い事なのだろうか?
「悪く言うと、無愛想……」
「無愛想か……」
そう自分が答えると、
「で、でも……それも含めて茂君の個性だよ!それに茂君の事、もっと知ればきっと仲良く出来ると思うんだ!」
「そうか。ありがとう」
「それはそうと今日の部活後もバイト?」
「いや、今日は休みだ」
「そうなんだ!」
少し嬉しそうに答える。
「バイトしないと借金、返せないからな」
「借金……か」
父親が原因で家族が狂ったんだ!あいつの所為で!
少し表情に出ていたらしい。
「……無理しないでね」
「そうだな」
「ホームルーム、始めるぞ!」
そう言いながら、担任の
「じゃあまた!」
明るく
「また」
自分はいつもどうり淡白に答える。これでも
昔はもっと淡白だった。人と接するのは苦手だ。疲れる。
ホームルームはすぐに終わった。要点があるとすれば、先程話しにでた
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