第33話 鐘を鳴らして(終)

 メディマル厶との貿易が本格的に始まってから数週間後、スノーベル孤児院に清潔な衣服と毛布が運び込まれた。


「お陰様でこの冬は皆で無事に越えられそうです」

「この冬は、というと……」

「おい、それぐらい察しろよ」


 みなまで言わなくても分かることだろうに。


「ええと……そういえば先日、古い友人から手紙が届いたんですよ。向こうも息災なようで安心しました」

「そりゃあ良かったですねぇ」


 院長の奴、よっぽど嬉しかったんだろうな。


「っとそうだ、シフに見せたいものがあるんだった」

「俺に?」

「まぁついておいで」


 そう言われて案内された先にあったのは孤児院の片隅に提げられた小さなベルだった。


「……まだ残してたのか」

「大事なものだからね」


 このベルは孤児院に入らないことを選んだ俺の生存を報せるために備え付けられたもの。

 冬を越えても生きていたらこのベルを鳴らしに来る。

 そんな約束を院長と交わしたのは何年前の話だったか。


「この冬を越えたらまた鳴らしに来てくれるかい?」

「ガキどもの様子を見るついでで良いならな」


 影武者の仕事はまぁまぁ忙しいけど、ちょっと出かけるぐらいの暇は確保できる。

 このベルを鳴らすぐらいの手間でな。

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社交界は陰謀まみれ 等星シリス @nadohosi

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