第32話 交渉成立

 そして訪れた会合の日。


「──では、これにて交渉は成立ですね」


 フォルスートからは葡萄を、メディマルムからは羊毛をそれぞれ相手の国に輸出する。

 その過程で生じた利益は然るべき場所へと還元する。


 たったこれだけのことを決めるために相当な労力を費やす羽目になった。


──こう文句を言えるだけ幸いであることを忘れてはならない。


「時にディスカード子爵、あなたの領地に我が国の者が在住していると聞きました」

「……それが、何か?」

「もし宜しければその者に一言伝えては頂けないでしょうか。息災のようで何よりだ、と」

「お知り合い、なのですか?」

「古い友人ですよ。もう10年近く顔を合わせていませんがね」


 それはまた、数奇な巡り合わせだ。


「直接会いに行けぬ事情でもあるのか?」

「あまり良い別れ方をしなかったせいかどうにも気後れがしまして……いやはや、お恥ずかしい限りです」

「そんなつまらぬことでディスカード卿の手を煩わせるでないわ。手紙を書いて部下に届けさせることぐらい造作も無いだろうに」


 言われてみればその通りだ。


「……ふふ、それもそうですね。申し訳ありませんディスカード子爵、先程のことはお忘れ下さい」


 この一連のやり取りも交渉を有利に進めるための策略なのだろうか。

 それとも本当に──いや、深く考えるのはよそう。

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