第31話 ディスカード子爵の多忙な日々
──一方その頃。
「辺境伯閣下、その話は本当なのですか?」
「ああ、裏付けは既に取れている」
「ジェスター前宰相と共謀していた者たちの処罰を済ませたから交渉に踏み切った……ということですか」
つまり穏便に事を収める準備を整え終えたからオリヴィエ殿が出向いてきた、と。
「ディスカード卿、あちらに何を要求するかは決めてあるのですか?」
「それについては後日、ロッド殿下のご意見を伺いつつ決める予定です」
「我らが口出し出来るのは通行料のことぐらいだからな」
悩むことがそれだけで済むのは少しばかり羨ましい。
「それはそうとディスカード卿、充分な休息は取れているのですか?」
「え、ええ、ご心配には及びません」
「貴殿は病に臥せりやすい身だと聞く。あまり無理をするでないぞ」
「お気遣い痛み入ります」
──というやりとりをした翌日。
「いっそのことその優れない顔色を武器に泣き落としを試みてはどうだ?」
「そのようなやり口が通じる相手だとは到底思えませんが……」
「メディマルムは医者の国、病人に無体を働くことなど出来ん」
それとこれとは話が違うような。
「冗談はさておき、あちらに要求する物は羊毛が良かろう」
「羊毛、ですか?」
「この冬は一際冷え込む。備えを怠ればまた多くの領民を凍え死なせることになるぞ」
「っ……」
痛いところを突いてくる。
「それとあちらがフォルスートグレープを欲している、という推測は的を射ていると見て良いだろう」
「その根拠は?」
「ジェスターの目論見通りに事が進んでいた場合、真っ先に売り渡されていたのはそなたの領地だったからだ」
何だその理不尽極まりない話は。
「……フォルスートグレープはファタール領でも栽培されていた筈ですが」
「当時男爵であったそなたと伯爵であるファタール卿。どちらがねじ伏せやすいかは火を見るより明らかであろう」
仰る通りで御座います。
「故にそなたの爵位を上げたのだ」
「あまりにも舐められてるのを見かねて、ですか」
「姉上のご意向だ。此度の一件も良きに計らえと仰せつかっている」
対応が妙に手厚い理由はそれか。
「次の会合には余も参列する。存分に頼ってくれて良いぞ?」
大変頼もしく、そして恐れ多いです。
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