第30話 かの国が欲するもの

「はぁー……」

「どうしたんだよ本物サマ、昨日からずっとそんな調子じゃねぇか」

「どうにも気が重くてね……」


 本物サマをここまで弱らせるなんてガイコーカンって奴はどんだけ厄介なんだ。


「……そっちの調子はどうだい?」

「ガキどもがスープ以外の飯を食えるようになってきた」

「それは喜ばしいことだね」

「小綺麗な余所者の方は解決したってことにして良いのか?」

「ああ、目下の問題はメディマルムからの要求にどう応じるかだ」


 確か北の城塞を二つ越えた先にある国、だったっけか。


「……影武者くん、一つ頼まれてはくれないかな」

「何だよ改まって」

「ルストロ院長に祖国のことを訊ねてほしい」

「祖国……?」

「彼はメディマルムの出身だよ。知らなかったのかい?」

「知らねぇに決まってんだろそんなもん」

「そ、そうかい……」


 やっぱ調子悪いな、本物サマ。


「とりあえず聞いてくりゃ良いんだろ?」

「交渉の件は内密にするよう言い含めるのも忘れずにね」


「──ってわけなんだが」

「そんな雑談感覚でして良い話じゃないからね!?」


 そうなのか。


「……私があの国にいたのはもう10年以上も前のことだよ。貿易を介して手に入れたい物の見当なんて……いや、あれならもしかすると……」

「何か心当たりがあるのか?」

「フォルスートグレープ……向こうの農園で栽培されている葡萄だよ」


 あのやたら酸っぱい葡萄か。

 廃棄された奴を何度か盗み食いしたっけな。


「……葡萄が欲しいなら種なり苗なり買って自分の土地で育てりゃ良いだろ」

「あの品種はメディマルムの土壌と相性が悪いらしくてね、育てたくても育てられないんだよ」


 そりゃ難儀だな。


「てか何であの葡萄が欲しいんだよ?」

「薬効が高い……と言っても分かりにくいか。あの葡萄を食べると病気に罹りにくくなるんだよ」

「病気になるのが嫌だからあの葡萄が欲しいってことか?」

「そんなところだよ」


 変な話だな。


「領主様にはフォルスートグレープがメディマルム側の目当てかもしれない、と伝えてもらえるかな」

「薬効がどうとかは俺じゃ説明出来なさそうだしな」


 後は使用人コンビ辺りがどうにかしてくれるだろ。

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