第29話 隣国の外交官
某日、王都の大使館にて。
「本日は急な呼び出しに応じて頂きありがとうございます」
恭しく頭を下げたこの外交官が書状の差出人と見て間違いないだろう。
「此度の交渉を担当するオリヴィエ、と申します。以後お見知りおきを」
相当な場数を踏んでいる、一目見てそう思わせる風格の持ち主だ。
「本題へ入る前に一つ謝罪をさせてください」
「謝罪?」
「私の部下がそちらの領民に不安を抱かせてしまった件です」
影武者くんがスノーベルの子どもたちから聞いた小綺麗な余所者の正体はそれか。
「その者たちに何をさせていたのですか?」
「此度の交渉に関する査察ですよ」
そう簡単には情報を開示してくれないか。
「では単刀直入にお聞きします。そちらの要求は?」
「我が国と貿易を行って頂きたい」
つまり輸入という形で手に入れたい物が僕の領地にある、ということか。
「……査察を行ったのであればご存知でしょう。メディマルムから我が領地へ行くには辺境伯領とハイホース領を通らなければならないことを」
「まずは彼の地を治める領主たちを説き伏せよ、ということでしたらご心配なく。適宜対応しております故」
抜け目が無いな。
「交渉とは然るべき手順を踏み、双方が納得のいく形で成立させるべきもの。手抜かりがあってはそれもままなりません」
「故にこそ不備となり得る要素は徹底的に排除する、と」
「……まぁ、そういうことです」
思ったより簡単に折れた──いや、下手な言い訳は悪手だと判断したのだろう。
「……一旦持ち帰って検討する時間を頂けますか」
「ええ勿論。この場で決断しろ、などと脅すようなことは致しません」
「交渉とは然るべき手順を踏み、双方が納得のいく形で成立させるべきもの……でしたか」
「色好い返事をお待ちしておりますよ、ディスカード子爵」
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