第28話 異国の商人

「……なるほど、それでここに連れてきたのか」

「リューイの奴、こっちに丸投げしやがったな……」

「まぁそうしたくなる心中は察するよ」


 異国から来たと思しき不審な人物を捕らえたという話が全て本当だった、なんて俄には信じがたいのだから。


「あのー……ワタシは一体どうなるのでしょうか?」

「それを決めるためにもまずは君がどこの誰であるかを教えてもらえるかな」

「ええと……ワタシの名前はイフラース、アリフラーラの商人です」

「アリフラーラの……もしかしてニーグム商会の者かい?」

「者も何も、ニーグム商会を取り仕切ってるのはワタシですよ」


 これはまた、予想外の素性だ。


「こちらには市場調査をしに来たのですが、いきなり不審者呼ばわりされてこの様ですよ」

「そりゃあどう見ても異国から来ましたって格好の奴がこんな僻地をうろついてたらな……」

「港町ではこんな仕打ちを受けませんでしたよ!?」

「ここは僕……ディスカードの領地。ヴァーレンハイト卿が滞在の許可を出した範囲の外だと言えば事の深刻さを理解できるかな?」

「……つまりワタシは不法侵入者ってことですかね」


 大正解。


「彼の身柄をヴァーレンハイト卿に引き渡す。馬車の準備を」

「直ちに」

「ど、どうかお慈悲をー!」

「それを言うべき相手は僕じゃないよ」


──という騒動があった数時間後。


「坊ちゃま、少し宜しいでしょうか」

「何だい?婆や」

「書状が一通、届いております」

「差出人は──メディマルムの、外交官……?」

「……如何なさいますか」

「内容次第、かな」


 隣国の外交官が一介の地方領主にどんな用があるというのだろう。


「……会合の申し出、か」


 文面に不自然な点は無し、捺印が偽造されたものである可能性も低い。


「応じるのですか?」

「下手に断る方が危険そうだからね」


 先刻の騒動とは訳が違う。

 手玉に取られないよう、極めて慎重な立ち回りが求められる。


「……これは影武者くんに任せられないな」


 あまりにも荷が重すぎるし、何より当人が全力で嫌がるだろう。


──だから僕がやるしかない。

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